僕に見えてた世界はモノクロだった
色葉
第1話
何のために生きているんだろう。
何も成さず誰がために何をするでもなく今日を送る。
きっと、人が生きていくことに意味なんてないのだ。それでも僕は、自分が生きている理由が欲しい。
そうでないと、ただ死んでいないだけのような気がしてしまうから・・・
君たちの世界は何色だろうか。
青春を謳歌している人に見えている景色、色はどんなものなのだろう
日々忙しく奔走し、仕事に励んでいる人の景色、色はどんなものなのか
きっと、違いはあれど多くの人にとって何かしらの感情が湧いてくる生活を送っているのだろう。
僕にはそれがない。
何をしても感情がついてこない、どこか冷めた視点で物事を捉えてしまう。
いつからだろう、素直に喜べなくなったのは
いつからだろう、明日に期待しなくなってしまったのは
僕は今年高校生になった。
入学してはや1ヶ月、クラス内での交友関係がある程度固まりグループが形成されていた。
「
「おはよう
声を掛けてきたのは、
「ゲームでもしてて寝られなかったのか?
「まあ、そんなところかな。」
「ふーん、そういえば数学の課題やったか?」
「ああ、あの馬鹿みたいな量のやつね、やったよ」
「ここの問題教えてくれよ、わかんなくて」
「ああ、そこちょっと応用させて解かないとできないんだよ」
・・・
たわいない会話をして日々を送る。
端から見れば、僕も青春を謳歌しているようにみえるのだろうか。
結城は深くを聞いてこない。何かあると分かっても、言いたくなさそうなことを無理矢理聞き出そうとせず別の話題に話を切り替えてくれる。
そんな気遣いができるから彼はクラスの人気者なのだろう。
そんな彼が僕なんかと関わってくれているのはありがたいが、周りにどのように思われているのか、結城の迷惑になっていないかだけが心配だ。
そんなことを言えば彼は気にするなと一蹴するだろう。
僕にはその優しさも痛いから見えていないふりをして今日を過ごすのだ。
帰り道、僕は本屋に立ち寄った。今日は好きな作家の新作著書の発売日。
本は良い。現実の自分と切り離して主人公の視点に立ち、まるで自分が経験したかのように感じられるから。自分では見られない景色を文章を通して見られた気がしてくるから。本を読んでいる間だけは空虚な自分を忘れられるから。
新作を手に取ろうと手を伸ばすと、誰かの手が伸びてきて手と手が触れあう。
創作物の中でのご都合主義だとしか思ってなかったけど、現実にもこんなこと起こるんだな。
「すいません、周り全然見てなくて」
「いえいえ、私の方こそごめんなさい。本を前に気が急いちゃって」
「好きなんですか。小説」
「本はそこまで読むわけではないのですが、
「そうなんですね」
「ええ、世界観が好きというか、現実にある虚構感が好きで」
「なんとなくわかります。現実でも起こりうるんだろうけど、自分が経験していないから虚構に感じるって言うか、うまく言語化できないんですけどそんな感じじゃないですか?」
「そう、そうなんですよ。そこがすっごい好きでってああ、ごめんなさい。つい嬉しくなっちゃって」
「気にしないで良いですよ。思考より感情が先行してしまうような好きなものがあるって言うのはすごく素敵なことですから。」
少なくとも、僕にはそんなに夢中になれるようなものも、こともないのだから・・
「そう言ってもらえると嬉しいですね。ってよく見たら制服、同じ学校なんですね。」
「ああほんとだ、気づかなかったな」
「私、1年の
「僕も1年で、名前は
「ほんと、すごい偶然。学校でもお話ししたいですし、是非」
・・・
初対面であんなに話すなんていつ以来だろう。ましてや、自分から連絡先を聞くなんて。彼女と話すのは、自分で思っている以上に楽しかったのだろうか。
僕にはまだそれがわからない。
けれど、彼女と話した時間の進みは速かったように思う。
・・・
月夜野さんと話すの楽しかったなぁ。周りに合わせて話をするんじゃなくて、ちゃんと好きなものを自分の言葉で話したのっていつぶりだろ。また、お話ししたいな。
連絡先も交換したし次も話せるよね。
・・・
僕に見えてた世界はモノクロだった 色葉 @suushiki
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