「彼女」の場合

貧困

 産まれた時から彼女の人生は決まっていた。


 この世界は一言で言ってしまえば格差社会。


 貴族として産まれた者は贅を極めるような生活をし、庶民として産まれた者は爪に火を灯すような生活を強いられる。


 この世界で、彼女は庶民として産まれてしまった。


 働けど、働けど、明日の食べ物の心配をしなければならない。


 働けど、働けど、生活に光が差す事はない。


 今日は雨だ。ザアザアという雨音が彼女の耳を苛立たせる。


(うるさい、うるさい、うるさい!)


 昨日、勤めていた繊維工場の工場主から遂に解雇を言い渡されたせいか、彼女の心は酷く荒んでいる。


 工場の機械化が進んだ今、彼女たちのような人間は不必要だと判断されたのだろう。


 人間には休息と賃金が必要であるし、賃金が少ないとすぐに文句を言い始める。


 それに対して機械には休息も賃金も必要なく、主人に逆らう事などしない。


 人間と機械。どちらがブルジョワにとって便利だろうか。


 ベッドに横になった彼女は虚空を見つめる。


 仕事がない。


 金がない。


 今日の食べ物すら買えない。


 働き口を探そうにも、どこも人を募集していない。


 募集していたとしても、自分のような学も何も無い者は採用されないだろう。


 激情が雫となり彼女のまなこからハラハラと落ちる。



 あぁ……



 死んでしまいたい。

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