必修科目「SNS」
ちびまるフォイ
学ぶところが多すぎるSNS
「えーー。みなさんも知っての通り、
SNSが義務教育の必修科目となりました。
なので、これからこの時間はSNSの授業となります」
「情報の授業とはちがうんですか?」
「情報はハードの扱い方。
SNSではソフトの扱い方。
えっとつまり、パソコンの使い方を知るのは情報。
正しい使い方を知るのがSNSの授業となります」
「よくわかりませーーん」
「まあ先生も急にあてがわれただけなので、
まだまだ手探りです。一緒に学んでいきましょう」
生徒たちにはタブレットが配られた。
「ではこれからSNSをはじめます。
みなさん自分のアカウントを作ってください」
「「 はーーい 」」
すると先生はさっそく審判のような警笛を鳴らす。
「はいそこ!! アカウント名に本名はだめ!!」
「え、なんでですか?」
「SNSでトラブルに巻き込まれる可能性があがります!」
そうこうしている間にも次々にトラブルが頻発する。
「そこ! 無許可でSNSアイコンに使っちゃだめ!」
「あ、もう! パスワードは予想されやすいものはダメ!」
まだSNSの中身に到着する前にこの指摘回数。
先生の体力はすでに半分以上を持っていかれた。
「はぁ……はぁ……。みんな、SNSはもっと慎重に進めて……。
えと、それじゃ次は書き込みをしてみましょう」
「「 はーーい 」」
まだSNSという穢れを知らない清らかな生徒たちは、
なんの悪意もなくSNSへの投稿を楽しむ。
案の定、先生のイエローカード警告が鳴らされる。
「そこ! 殺すとか死ねとかいうワードは使っちゃダメ!」
「自分の現在位置が特定されるような写真投稿しちゃダメ!」
「なんでDMでナンパするの! やめなさい!」
「そんな情報元が怪しいニュースを投稿しないで!」
「こら! 他のアカウントの身元をバラしちゃダメ!!」
アカウント登録でもてんやわんやだったのに、
投稿フェーズになると先生の笛は毎秒鳴らされるほどにしっちゃかめっちゃか。
やっと笛が鳴らなくなったと思ったら、全員タブレットを置いてしまっていた。
「あれ……? みんなどうしたの?」
「SNS……つまんない……」
「何言っても否定される」
「先生に怒られるんだもん……」
沈んだ顔でみんな遺影を見るようにタブレットを見つめていた。
「そ、そんなことないよ? ちゃんと使えれば
同じ趣味の人ともやりとりできるし、
ちゃんと使えば貴重な情報もすぐに得られたり……」
必死な先生の言葉も生徒には刺さらなかった。
授業を終えると職員室で落ち込む先生の姿があった。
「おや、どうしたんですか。明日世界が終わるような顔をしてますよ」
「こ、校長……。実は……」
メンタル弱りきっていた先生は、
わらにもすがるような気持ちで校長先生に相談した。
「ははぁ、なるほど。それはあれですね。
すでに自覚されてると思いますが注意のしすぎですよ」
「ですよね……。でも生徒たちと来たら、
ちょっと目を離しただけで予想外のトラブルを起こすんです」
「それはあなたが注意しかしてないからですよ。
失敗から学ぶ、なんて言葉もありますが
成功しなくちゃ失敗からも学べません」
「どういうことですか……?」
「生徒たちはなんの情報もまだ持っていない。暗中模索です。
あっちこっちにぶつかってしまいます。
でもぶつかるたびに叱るよりも、まずは正規ルートを教えたほうがいいでしょう?」
「よくわかりません……」
「"ここはうまくいってる"でも"ここは直したほうがいい"と、
どこまでが成功で、どこまでが失敗なのか。
その境界線を伝えるような指摘の仕方をしてはどうでしょうか」
「こ、校長……!」
まさに目からウロコだった。
目から落ちたのはコンタクトだけだったが、
それでも一気に道がひらけたような心持ちになる。
「校長ありがとうございます、なんかわかった気がします!」
「がんばってくださいね、先生」
先生はふたたび自信を取り戻して教室へ向かった。
ただ生徒の失敗に対して目を光らせるおつぼねではなく、
生徒に正しい道を示してあげれるリーダーでなくてはならない。
先生は心を新たに教室へと舞い戻った。
「みなさん、それではSNSの授業の続きをはじめましょう!!」
「先生。授業の前にいいですか?」
すると、生徒のひとりがSNSの投稿を突きつけた。
「先生の授業についてSNSでアンケートを取りました。
先生は"講師としてふさわしくない"が99%を占めてます。
私のフォロワーも先生がよくないって言っています。
だから先生が授業を教えるのは間違っています!
いますぐこの教壇から降りてください!!」
その偏ったアンケートを見て先生は授業の内容を切り替えた。
「2時間目のSNS授業は『クソリプ』にしましょう」
必修科目「SNS」 ちびまるフォイ @firestorage
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