第2章 反撃の狼煙

翌日、くりもととドリルは集落のリーダーであるグレンと対話していた。グレンは中年の男性で、その顔には過酷な労働と試練の痕跡が刻み込まれており、彼の疲れた目には強靭な意志が宿っていた。グレンはこの国で唯一、機械兵の支配に抵抗するレジスタンスグループの指導者であり、その存在は人々にとって最後の希望だった。


「あなたたちが本気で我々を助けるつもりなら、こちらも全力で協力する。ただし、危険を伴うことは覚悟してほしい」


グレンは鋭い目で二人を見据え、その声には決意と覚悟が込められていた。ドリルは少し不満げに腕を組んでいたが、くりもとは真剣な表情で頷いた。


「もちろんです。この国を解放するために全力で戦います!」


ドリルはため息をつきながら、くりもとを見やった。


「ちょっと、くりもと。また大風呂敷を広げて……。まあ、ここまで来た以上、引き下がるつもりはないけどね」


グレンは頷き、地図を広げて説明を始めた。


「機械兵たちの司令部は、街の中心にある旧工場跡地にある。そこには多数の機械兵が配置されており、正面突破はほぼ不可能だ。しかし、レジスタンスの一部が地下にトンネルを掘り進めている。そのトンネルを使って内部に侵入し、司令部を攻撃するのが我々の作戦だ」


「地下トンネルですか……。でも、それで本当にうまくいくのでしょうか?」


くりもとは不安げに尋ねた。グレンは苦笑を浮かべた。


「成功の保証はない。しかし、ほかに選択肢がないのだ。君たちが協力してくれれば、成功の可能性は高まる」


「ふむ、仕方ないですわね。やってみましょう」


ドリルは杖を握りしめ、決意を固めた。


その夜、くりもと、ドリル、そしてレジスタンスのメンバーたちはトンネルの入り口に集結していた。トンネルは狭く、湿っぽい空気が充満している。レジスタンスのメンバーたちは緊張した面持ちで装備を確認し、戦いに備えていた。


「さあ、行きましょう!」


くりもとは声を張り上げ、先頭に立ってトンネルに入った。しかし、その後ろでドリルが不満げに呟いた。


「まったく、なんで私たちがこんな汚い場所を歩かなきゃならないのかしら……。魔法使いなのに、もっと華やかな場所が似合うのに」


「ドリル、そんなこと言ってる場合じゃないですよ。ほら、行きますよ!」


くりもとはドリルの手を引き、先に進んだ。


トンネルの先には、旧工場の地下施設に通じる出口があった。くりもとたちが出口に到達したとき、レジスタンスのメンバーの一人が耳を澄ませて合図を送った。


「敵が巡回している。少し待ってから行動するぞ」


全員が息を潜め、巡回する機械兵が通り過ぎるのを待った。緊張が高まる中、くりもとはふと鞄に手を入れた。


「……あれ? おにぎり、作れたかな……」


くりもとは小さな声で呟き、手を翳すと、おにぎりがぽんっと手の中に現れた。ドリルがそれを見て、思わずため息をついた。


「今はそんな魔法を使ってる場合じゃないですわよ……!」


くりもとは苦笑しながらおにぎりをしまい、再び気を引き締めた。


「さあ、行きますよ!」


機械兵がいなくなったのを確認し、くりもとたちは旧工場の内部へと侵入した。


工場内部は薄暗く、ところどころに機械の残骸や廃材が散乱していた。その中を進むと、突然、前方から警戒音が鳴り響いた。


「見つかったわね!」


ドリルは素早く杖を掲げ、魔法の光弾を放った。光弾は巡回していた機械兵に命中し、爆発音とともに機械兵は倒れた。しかし、その音で他の機械兵たちが一斉に動き出した。


「これじゃあ全員が来ますよ!」


くりもとは焦りながら、護身用に持っていたC96のモーゼルを取り出した。そして、狙いを定めて機械兵に向かって発砲した。


「くりもと、撃てるのですの!? あなたのその腕で!」


「やってみるしかないんです!」


くりもとは必死に引き金を引き、次々と機械兵を撃ち倒していった。しかし、それでも数は減らない。ドリルも光弾を放ち続けたが、機械兵たちの数は圧倒的だった。


「これではキリがありませんわ……!」


ドリルがそう叫んだ瞬間、背後からレジスタンスのメンバーたちが駆けつけた。


「ここは我々に任せろ! お前たちは先に行け!」


グレンが叫び、仲間たちと共に機械兵の包囲を引き受けた。くりもとは頷き、ドリルと共に先へ進んだ。


「グレンさんたち、無事だといいですけど……」


「心配しても仕方ありませんわ。私たちの目的はあの中枢を破壊することです」


二人は旧工場の奥へと急いだ。そこには、巨大な機械の中枢があり、無数のケーブルと機械装置が絡み合っていた。


「ここが中枢……。どうやって破壊すればいいんでしょうか?」


くりもとは周囲を見渡したが、そこに答えは見当たらない。しかし、ドリルは冷静に杖を構えた。


「ここは私に任せなさい。全ての魔力を注ぎ込んで、奴らを消し去ってやりますわ!」


ドリルは目を閉じ、集中して呪文を唱え始めた。杖の先が輝き始め、徐々にその光は強くなっていった。


「くりもと、少し離れていなさい。これは……少し派手になりますわよ」


くりもとは頷き、ドリルから距離を取った。そして次の瞬間、ドリルは全ての魔力を解放し、巨大な魔法の光が中枢を包み込んだ。


爆発音とともに中枢は破壊され、無数の機械装置が火花を散らしながら崩れ落ちた。


「やった……やりましたわ……」


ドリルは息を切らしながらも微笑んだ。くりもとはその様子を見て、安心したように駆け寄った。


「ドリル、すごいです! 本当にやっちゃいましたね!」


「当然ですわ……私を誰だと思っていますの……」


ドリルは疲れ切った表情でそう言い、くりもとは彼女を支えながら外へと向かった。


外に出たとき、空には朝日が昇り始めていた。廃墟となった街に、新たな光が差し込んでいた。人々は歓喜の声を上げ、くりもととドリルに感謝の言葉を述べた。


「やりましたね、くりもと。この国に光が戻りますよ……」


軍事国家の宣言


しかし、彼らの戦いはまだ終わっていなかった。


くりもととドリルが車に乗り込み、エンジンをかけたとき、グレンが台に立ち、演説を始めるのが窓から見えた。


「これからは我々が統率する軍事国家として樹立する。我々は指導者だ。指導者のお導きを軽視する奴はどうなるかわかっているな?」


グレンの声は力強く、まるで新たな秩序を誓うような響きだった。くりもとはその言葉に一瞬反応したが、ドリルは彼女の腕を引き留めた。


「助けに行くべきかもしれませんが……」


「ダメですわ、くりもと。もう私たちにはどうすることもできません……」


窓ガラス越しには、グレンの意見に反発する者が銃殺され、その亡骸が無音で地面に転がる様子が見えた。その亡骸に駆け寄る一人の少女の姿があった。彼女は最初にくりもとたちと出会った平和を求める少女であり、亡骸は彼女の妹だった。少女は涙目でグレンに訴えたが、グレンの部下にビンタを食らい、何も言えなくなってうつむいた。別の部下がお前も仲間だと言わんばかりに、抱きかかえる亡骸を奪い取って投げ捨て、代わりにAK47のアサルトライフルを押し付け与えた。くりもととドリルは何も言わず、その国を去った。


終わりなき運命


「結局、力を持った者に統率されるのが運命だったのだ……。あの国はずっと、そういう暗い運命を引きずってきた国なんだ……」


くりもとは静かに呟きながら、アクセルを踏み込んだ。その言葉は、彼女自身に向けた諦めのようにも、次の地へ向かう決意のようにも聞こえた。

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魔法使いのくりもとちゃん おにぎり1999 @onigiri1999

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