魔法使いのくりもとちゃん

おにぎり1999

第1章 朽ちた国への道

その日、くりもととドリルは錆びた道を2CVで走っていた。どこまでも続く荒れた大地、その先に見えるのは、かろうじて生き延びた人々が暮らすという、小さな国だった。


「この先にある国、面白そうですね!」


くりもとは少しぎこちなく目を輝かせながら、地図を指差した。その指先には、かつて栄華を誇ったが、今ではすっかり廃れてしまったという都市の名前が記されている。


「ふん、どうせつまらないところでしょうよ」


隣に座るドリルは、鼻で笑った。彼女の金髪のツインテールは、まるでドリルのようにくるくると巻かれ、風に揺れている。


「それにしても、こんな何もない場所を延々と走るのは退屈ですわね。もっと華やかな場所に行けないの?」


「でも、こういう場所だからこそ、きっと何か面白いことが待ってるんですよ! 冒険って、そういうものでしょう?」


くりもとはぎこちなく笑いながら言った。その瞳には期待と好奇心が満ちている。ドリルはため息をつき、腕を組んだ。


「まったく、あなたという人は……。まあいいですわ。どうせ退屈するくらいなら、少しでも楽しんでやりましょう」


こうして二人は、その国へと向かうことにした。


到着した国は、思った以上に荒廃していた。かつては立派だったであろう建物の残骸があちらこちらに転がり、道端には朽ち果てた機械のパーツが散乱している。


「これは……本当に人が住んでいるんですか?」


くりもとは眉をひそめた。街には人影がほとんどなく、静まり返っている。時折、風が吹いて、瓦礫を転がす音だけが響いていた。


「なんだか不気味な場所ですわね」


ドリルはそう言って、周囲を見渡した。すると、遠くからかすかな声が聞こえてきた。


くりもととドリルが2CVで走っていると、突然、道の先に人影が飛び出してきた。


「うわっ! 止まれ、止まれ!」


くりもとは慌ててブレーキペダルを思い切り踏み込む。同時にサイドブレーキを引き、2CVは急激にスリップしながらもなんとかギリギリのところで止まった。その衝撃で車内の荷物は散乱し、めちゃくちゃな状態になっていた。


目の前には、今にも飛び込み自殺をしようとしていた少女の姿があった。


「大丈夫ですか!」


くりもとは急いで車から降り、少女に駆け寄った。ドリルも、ため息をつきながら車から降りてきた。髪がほつれて乱れ、ご不満な様子である。


「まったく、命知らずなことを……」


少女はぼんやりとした目でくりもとを見上げ、しばらく沈黙していたが、ようやく口を開いた。


「……逃げて……早く……ここは……」


その言葉は途切れ途切れで、少女の声には深い恐怖がにじんでいた。


「逃げる? どういうことですか?」


くりもとは問いかけたが、少女は震えながら頭を横に振った。


「ここは……もう終わりなんです……奴らが……全て……」


「奴らって、誰のことですか?」


ドリルが苛立ったように尋ねると、少女は瓦礫の方を指差した。その先には、巨大な機械兵が立っていた。その無機質な瞳がこちらを見下ろしている。


「くそっ! なんですの、あれは!」


ドリルは即座に杖を取り出し、魔法を放とうとした。しかし、機械兵は動かず、ただこちらを監視するように立ち尽くしているだけだった。


「待ってください、ドリル。まだ何かあるかもしれません」


くりもとは少女に向き直り、優しく問いかけた。


「あなたは、この国で何が起きているのか知っているんですよね? 教えてください。私たちが何とかします」


少女は目を伏せたまま、しばらく沈黙していたが、やがて小さな声で話し始めた。


「この国は……かつては魔法技術で栄えていました。でも、その技術が暴走して……ロボットたちが人々を支配し始めたんです。私たちは……ただの奴隷として働かされて……」


くりもとは息を飲んだ。彼女が指差した瓦礫の向こうには、数人の人々が機械兵に監視されながら、黙々と作業をしている姿が見えた。その顔には、生きることへの希望がまるで感じられなかった。


「これが、この国の現実なんですね……」


くりもとはぎこちなく呟いた。人々の顔には、希望の欠片もない。それでも、くりもとは諦めるわけにはいかなかった。


「皆さん! 私たちが、何とかします!」




突然の宣言に、人々は驚いたようにくりもとを見つめた。そして、ドリルが肩をすくめる。




「まったく、大風呂敷を広げるのが好きな人ですわね。でも……やるからには、全力でいきますわよ」突然の宣言に、人々は驚いたようにくりもとを見つめた。そして、ドリルが肩をすくめる。


「まったく、大風呂敷を広げるのが好きな人ですわね。でも……やるからには、全力でいきますわよ」


くりもとは少女に向かって微笑んだ。


「大丈夫です。私たちは、まだ諦めませんよ」


その夜、くりもととドリルは少女の案内で、隠れて暮らす人々の集落へと向かった。そこには、わずかに生き残った人々が怯えながらも肩を寄せ合い、暮らしていた。


「これが……今のこの国の現実なんですね」


集落に入ったくりもとは、衝撃を受けた。人々は栄養失調に苦しみ、ボロボロの服をまとい、明日をどう生き延びるかという不安に苛まれていた。


「彼らは……毎日、機械兵に監視されて働かされ、反抗する者は容赦なく処罰されます。私の家族も……」


少女は涙をこぼしながら、くりもとに語った。その目には、恐怖と絶望しかなかった。


「……それでも、まだ諦めるわけにはいかないんです」


くりもとは強い決意を込めてそう言った。ドリルもその横で腕を組み、冷静に状況を見つめていた。


「くりもと、作戦はどうしますの? このまま突っ込んで行っても、ただの無謀ですわよ」


「ええ、分かっています。でも、まずは彼らの信頼を得ることが大事です。この集落の人々と一緒に立ち上がる方法を考えましょう」


くりもとは少女に微笑みかけ、他の集落の人々にも声をかけた。


「皆さん、私たちは決して諦めません。必ず皆さんを自由にして見せます!」


その言葉に、人々は戸惑いながらも、わずかな希望を見出していた。少女は涙を拭いながら、小さく頷いた。


「……ありがとうございます。どうか、どうか私たちを助けてください」


翌朝、くりもととドリルは集落を出て、再び機械兵たちの支配する街へと向かった。彼らの目的は、ロボットたちの司令部を突き止め、この国を支配する機械の中枢を破壊することだった。


「準備はいいですか、ドリル?」


「もちろんですわ。やるからには、全力で行きますわよ」


二人は決意を胸に秘め、廃墟となった街を進んでいった。瓦礫の向こうに見えるのは、無数の機械兵たち。その無機質な瞳が、まるでこの世界の絶望を象徴しているかのようだった。


「絶対に諦めません。この国を、もう一度自由にするために」


くりもとはハンドルを握り締め、前を見据えた。その瞳には、果てしない旅路への期待と、必ずやり遂げるという強い決意が映っている。


荒れ果てた世界の中で、二人の旅は続いていく。希望を求めて。そして、朽ちた国に再び光を取り戻すために。

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