おまけその2 サーラ姫の夜のお勉強 後半
「ということで、鑑賞会となりました」
レリアの寝室に集まる四人。レリアとセイとサーラとエリサ。
わーぱちぱちぱち、と拍手するエリサに緊張するレリア。呆れて顔のセイ。
サーラは、顔を赤くしながら落ち着きげなく辺りをきょろきょろ見回している。
「うん、ということで、であっさり終わらせるのはエリサらしいけど……拍手は違うんじゃないかな」
セイがエリサの仕切りに突っ込む。
「いえ、これくらいの調子でやらないと駄目かなと思いまして」
「……まあ、そうかもしれないけど……まあそれはいいけど、どうしてエリサまで居るの? 確か……その色々あって、こういう男女の営みが苦手だったんじゃ」
ティートローリーを押しながら乗り込んでくる辺り居座る気満々のエリサに苦言を呈する。
サーラのための夜のお勉強なのだから、三人で良いのではないかと。何故メイドである彼女が共に居るのか不思議だった。
「……ええ、まあ……確かに、その嫌な記憶はございまして……まだ苦手ではあるのですが……不思議とセイ様にはそのような嫌悪をあまり感じないのです。ですので……私自身が乗り越えるためにも、ぜひともサーラ様とご一緒に」
「君の事情は聞いているし、気の毒だと思うけど……王族相手に自身の事情を盾に要求通すのは駄目だと思うんだが……」
エリサのトラウマについては同情するが、自分達の夜の情事を見る理由にはならない。
「半分は冗談です。本当は、観賞しつつ解説して、場合によってはサーラ様に手ほどきをするために同席しております」
解説兼教育係ということらしいのだが……。
「トラウマがあって男性が苦手だっていう話だったけど……その男女の営みについて解説できるの?」
「そこはメイドの嗜みとして努力いたしました。上から下まで……具体的には髪から足までばっちりです」
「……メイドの嗜みなんだ」
人の探究心を色々吸収してるのかな……などと適当に考えるセイ。英雄王のこともあるし、深く考えるのは止めた方がいいかもしれない。
「セイ! ところで私はいつまでおあずけをされてればいいんだ! 英雄王様の叡智いわく……なるほどこれが放置プレイ。しかし、私にはまだ及ばぬ領域のようだ……なあセイ……」
「あーはいはい」
とりあえずレリアは頭を撫でて黙らせておく。
「こ、こら……セイ、こんな適当なあしらいで私を誤魔化そうとするな……ふにゃぁ……」
抗議の声を上げるレリアだったが、セイの思惑通り黙らされる。
「……一国の女王様を頭を撫でるだけで懐柔できるとは……セイ様、おそろしい男……」
王配に向けての言葉遣いとは思えないが、まだまだそういう方面に鈍いセイは、少しだけ気になったが特に咎めないでいた。
「さすがですセイ様……サーラの頭も撫でて欲しいです」
落ち着かない様子でいたサーラも、姉の蕩け顔にどれだけのものなのだろうかとつい口にしてしまう。
「こういう場だったかな……まあいいけど……」
「ああ……これがセイ様の撫で撫で……なのですね……。ふにゃぁ……」
「サーラ様も、あっという間に蕩け顔に……では私も僭越ながらなでなでを所望します」
サーラがあっという間に陥落したのを見て、エリサもセイへと要求しだした。
「……あの……え? でも、エリサって教育係とはいえメイドだよね。え?」
「さあ……ぜひとも、さあ」
メイドのカチューシャを外して、頭を突き出してくる。
勢いに押されてエリサの頭を撫でるセイ。
「こ、これは……何という心地よさ……私の怯える心も優しく抱き締めてくださる温もり……ああ、駄目です、これは……ふにゃぁ……」
勢いでエリサも要求したものの、内心は穏やかではなかった。やはり男への恐れは拭えなかったのか、セイが触るときに身体を震わせ身構えていたのだが、頭を撫でられてすぐに陥落した。
「……はっ……蕩けている場合ではありません。なるほど……これは」
サーラがまた撫でてとねだったためにエリサの頭からセイの手が離れる。そのためにエリサがセイのなでなでに違和感を感じていた。
「これはただの撫で撫でではありませんね。魔術師団長に見ていただくのが間違いないと思うのですが、独特の魔力の流れを感じます」
「ふにゃぁ……そうなのか」
レリアが蕩けながらエリサの言葉に反応する。
「あまり考えたことないが……もしかすると渡り人ゆえの恩恵かもしれないな。ただ、魔力量が少なかった従来は、その恩恵を活かすのは難しかったかもしれない」
「なるほど……魔力量が多ければ、そういうことも出来るということですね」
「その辺りは詳しく調べないと解らないだろうけど……アインベルク魔術師団長だっけ? あの人の探究心の塊みたいなところ、頼もしいけどちょっと怖いんだよな。『是非ともこの身で体感してみたいのでわたくしにもなでなでを! さあ、セイ様、遠慮なさらずに思う存分なでなでしてください』とかいいながら迫ってきそう」
「確かにあのモノクル森の……いえ、アインベルク様ならそのようなことをおっしゃるかもしれません。ということで、もういちどなでなでをお願いします」
エリサがずずいっと頭を突き出して要求してくる。
「いや、あの……エリサ、何がということなんだかさっぱり解らないんだが」
「先程は衝撃のあまり詳しく見られませんでしたが……私とて少しなら魔力の流れを見ることは出来ます。報告するにしろ、もうすこし観察してからでないと……。もし、してくださらないというのなら、ただちにモノクル森の木にちくります」
「……あれでも一応魔術師団長なんだから、名前で呼んであげて……」
探究心の塊は、いずれ自分の所にくると何となく予感がするから、エリサの脅しは正直それが早いかちょっと遅いかくらいにしかならない気がするけど。
「さあ……ふにゃぁ……これは、なるほど……自分の魔力がセイ様に染められているような感覚ですね……」
うっとりとした表情のエリサ。
サーラが再び見上げてきて、撫で撫でを要求してきたのでエリサから手を離しサーラを撫でる。
「セイ様に、染められるとか……ふにゃぁ……とてもエッチですの」
「……このような強力な力……セイ様、この力はいつから?」
「いや、意識したのはたぶん今日だけど……うーん、思い当たるところは……一番はガルム古戦場の解放のために向かったからかな。あれでもう一段成長した気がする。それとルエル将軍から剣技と力の込め方の指南を受けたから、かな?」
「……ふにゃぁ……さすが、セイ。私の見込んだ男だけある……ふわぁ」
レリアがとろとろ顔でセイを持ち上げる。
「……その、これは憶測で申し上げるのですが……セイ様、その夜の営みでもひょっとしたら同じようなことが出来るかもしれません。レリア様はその……このような感覚をセイ様とされる時に感じたことはございますか?」
「ふにゃぁ……いや、似たような感覚は……その……うん……あの……無いとは言わないが……ここまですぐにふわふわになるのは初めてだ……ふわぁ」
夢見心地なのか、うっとりした表情で恥ずかしながらもエリサの質問に答えるレリア。
「なるほど……となると、今夜意識して試せば、もしかすると……」
「……エリサもアインベルク魔法師団長と同じ思考なのかな……そういう実験動物的な扱いが嫌だから力を知られたくなったんだけどなぁ……」
セイが複雑な表情を見せる。王族に名を連ねて何を言っているのか、と言われるだろうが正直なところである。
まあ、平民だったとしたら、問答無用で実験体にされていたかもしれないと考えるとまだましではあるのだが。
「そうですね……そう思われても仕方ないかもしれません。……セイ様……その、私を抱いてくださいませんか? 女王陛下にはそのような未知のものを試すようなことは出来ませんし、サーラ様には負担が大きいかと思います。私のようなメイドを抱きたくはないとは思いますが、壊れてもかまいませんので……していただければ」
「…………好奇心、ネコを殺す、とはいうけど……どうしてこう研究職は自分の身を省みないんだよ……はぁ」
セイの頭の中ではすでに、アインベルク魔術師団長が『魔術師団長として、ぜひともこの身で、確かめたいのだ。さあ、セイ殿、私のお尻で試してくれたまえ』とか言いながら迫ってくる場面が想像されていた。
トラウマ持ちの彼女を抱くというのは、それはそれでどうなんだろうというところがあるのだが、それで済むなら役得だけで済むかもしれないが……。
「レリアは、そのいいのか……」
「ふにゃぁ……英雄王様の叡智いわく……目の前での浮気はそれはそれでぞくぞくするものもあったと……ただ、トラウマにもなることもあるので弱っている時は見ないで処理すべしと……」
「うん……処理という響きが怖いけど……というかその方面は正直あまり目覚めないで欲しいな」
レリアの頭を撫でるセイ。
「レリア様の逆鱗に触れるようでしたら処理されてもかまいません。セイ様、ぜひとも私をお使いください」
エリサが覚悟の顔で言い放つ。
「いや、だからそういう実験動物みたいな扱いは嫌なんだけど……なあ、レリア」
「ふにゃぁ……英雄王様の叡智いわく……『据え膳食わぬは男の恥』……だぞ、セイ」
「それは、英雄王様の叡智なのか? まったく、言わんとすることは解るけど、レリアが口にすることではないと思うんだが……」
もうどこからつっこんでいいのか解らなくなってきたセイである。
「それに……私のようなメイド風情ではやはり駄目ですか?」
上目遣いで見上げてくるエリサ。だが、身体は震えていて自分の発言に怯えているようにも見える。
男性恐怖症ながら、勇気を出して、場合によっては消されることも覚悟とかして、セイに願っている彼女の気持ちに応えてあげたいが。
「セイ様……エリサのお願い叶えてあげてください。それに……その……撫でられるだけでこんなにふにゃふにゃになるセイ様に手ほどきされたエリサがどんなことになるのかも気になりますし……その……わたくしにも手ほどきしてくださいまし」
「あーもう無茶苦茶だよ!」
セイが叫んだ。
***
その後のことは諸事情により詳しく伝えられないが、サーラ姫とセイは無事結ばれた。
「それにしても凄かったですわ。まるで魔法……マジカルち(略」
「さすが渡り人とでもいうべきでしょうか。魔王を倒した勇者に夢中になる姫様の物語が伝わっていますがきっとあのマジカルち(略 で堕とされたのでしょう」
「……セイ、やはりおあずけより私はお前と触れ合っていたい。しなくてもいいから、今日は一緒に寝てくれないか……」
感想は三者三様だったようで、その話を何処からか嗅ぎ付けたアインベルク魔術師団長が『私のお尻の処女を捧げても構わないのでぜひとも体験および観察をさせてください!』と迫ったとか迫らなかったとか。
今日も王国は平和だった。
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく【9000PV感謝】 踊りまんぼう @kuragedoushi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます