第5話 黒幕、説得を諦める





 何か、何か言い訳をしないと!!


 俺は持ち得る全ての脳細胞を活性化させ、全力で言い訳を考える。


 しかし、時間が圧倒的に足りない。


 これ以上下手なことを言って即座に反乱を起こされてしまわないよう、幹部たちを納得させるだけの言い訳が何かあるだろうか。


 ……ダメだ。何も思いつかない!!


 こうなったら仕方ない。少し面倒だが、背に腹は代えられない。



「くっくっくっ」


「何がおかしいのです、魔皇陛下」


「ハーッハッハッハッハッハッハッ!!!!」


「「「「「!?」」」」」



 俺はとにかく大きな声で笑った。


 幹部たちから浴びせられている殺気を、まるで気にもしないと装って。


 俺の目論みは上手く行ったらしい。


 高笑いする俺を幹部たちが不思議そうに、不気味なものを見るように見つめている。


 そうだ、もっと俺を見ろ。



「俺はお前たちを試したのだ。もしお前たちの中に、人類への攻撃をやめようという意見に賛同する者がいたら即刻首をはねているところだった」


「なっ……」


「だが、要らない心配だったな。俺はお前たちを見くびっていたようだ。謝罪しよう」



 俺は方針を変えることにした。


 幹部たちの様子を見るに、人類への攻撃を止めたら俺が弱腰になったと思って袋叩きにしようとしてくるだろう。


 幹部たちの中には条件次第で裏切るヒロインも何人かいるのだ。

 並みの幹部ならともかく、彼女らが結託して襲いかかってきたら流石にどうしようもない。


 そのため、魔皇軍には原作通りに動いてもらうしかない。


 ならばどうするか?

 ヒロインらを襲う悲劇を見過ごして、みすみす彼女らの恨みを買うのか?


 答えは否である。そして、簡単な話である。


 昨日、主人公の恨みを買わないためにやったことと同じことをすれば良い。


 要は俺の正体を隠し、魔皇軍によって悲劇に見舞われるヒロインたちを片っ端から救済していくのだ。


 魔物たちにバレないよう正体を隠し、こっそりとヒロインを救う。


 それが俺の生き残る道!! それしかない!!


 そして、今を生き残るためには人類への攻撃を続行せねばならない。

 いや、続行では駄目だろう。失言を消し飛ばすような強気の発言が必要だ。



「今日はお前たちがどれだけ愚かな人間共を滅ぼしたいのか知りたかった。改めて命令する。人間共を滅ぼせ。一匹残らず、奴らを殺せッ!!」


「「「「「はっ!!」」」」」


「返事が聞こえないな。もっと俺を称えろ、俺を崇めろ!!」


「「「「「魔皇陛下、万歳!! 魔皇陛下、万歳!!」」」」」



 俺の命令に沸き上がる幹部たち。


 あーあ、やっちまったぜ。完全に面倒なやり方になってしまった。


 どうしたものか……。



「以上だ。俺は部屋に戻る」



 短く言い残して、俺は大広間を出る。


 廊下を歩きながら辺りを見回し、誰もいないことを確認してから俺は大きな溜め息を零した。



「はあ。死ぬかと思った」



 問題はこれからの行動だ。


 魔物たちに人類への攻撃をやめさせるのは失敗してしまった。

 ならば俺がヒロインたちから悲劇を退けるしかない。


 魔物たちにバルドラだとはバレないよう、正体を隠しながらひっそりと。



「そうと決まれば、ヒロインたちの悲劇イベントを詳細に思い出さないといけないな……。中にはもう悲劇に見舞われているヒロインもいるはずだし、そっちの対策も考えないと」



 俺は部屋に戻り、適当な羊皮紙にゲーム知識を書いてまとめることにした。


 『セブンスナイトクエスト』はヒロインの多さにも定評のあるエロゲだ。

 圧倒的な数のヒロインの中からパーティーに加入させる者を選択し、残りは専用の宿で待機している形だな。


 そのヒロインの数だけ悲劇があると言っても過言ではないだろう。


 そして、俺はその全てを記憶している。


 ただの自慢になるが、俺は『セブンスナイトクエスト』を完全攻略したプレイヤーだ。


 多くの紳士たちはあまりのヒロインの数に屈し、推しを得たら最短ルートでストーリーをクリアしてしまう。


 しかし、俺は全てのヒロインを攻略した。


 何故なら俺はシナリオもエロも大事にしたい系の紳士だったので。



「このヒロインは優先度低めだな……。こっちは早めにしないと、こっちは――」



 まずは助けるヒロインに優先順位を付ける。


 理由は簡単だ。バルドラは最強だが、唯一の弱点がある。


 それは一人しかいないこと。


 別の場所にいるヒロインを同時に救うことはできない。

 だったら優先順位、具体的には危険度で対象を選別するべきだ。


 まず敵に回したくない強さの相手を優先する。


 その上で主人公が関わらずとも己の身に降りかかった悲劇が『魔の帝国』の罠だと気付くヒロインは最優先で助ける対象だ。


 そういうヒロインが俺まで辿り着いたら殺されるかも知れないからな。


 それ以外のヒロインは諦める。


 主人公が魔物に激しい憎悪を抱かなくなった今、重要なのは主人公の有無で魔物を恨むヒロインと恨まないヒロインを見分けることだろう。


 俺は全てのヒロインとシナリオを暗唱できるレベルで記憶しているので問題ない。


 とは言え危険度が低くても、ましてや主人公がいないと『魔の帝国』の罠だと気付かないヒロインでも好きなキャラだったら助けるがな。


 え? 最低? なんとでも言いたまえ。


 俺はもう自分が生きるためにオークを何体か殺してしまっているのだ。


 今更何とも思わないね。


 と、全てのヒロインについて羊皮紙に書いてまとめていると、あることに気付く。



「ん? ……まずいな。昨日が主人公の村を滅ぼされた日なら、近いうちに『聖女強姦未遂事件』が起こるのか」



 聖女強姦未遂事件。


 作中屈指の人気を誇る聖女が貧村で炊き出し等の慈善活動を行った帰り道、賊に襲われてしまうのだ。


 聖女は純潔を守ることで女神の力を行使できる。


 その純潔が失われてしまうことは、聖女の力も地位も名誉も失われてしまうことを意味する。


 幸い、聖女を守る聖騎士が救出に間に合い、強姦寸前で助かるのだが……。

 聖女はその後色々あって結局は地位を追われてしまう。


 それから自力で事件の首謀者を追い詰めるために行動しようとした矢先、主人公と出会って仲間になるのだ。


 つまり、聖女は主人公と出会わずとも行動する。



「しかも聖女は生きてさえいたら死の淵にいようが治せてしまう作中トップクラスのヒーラー……。もし他のヒロイン共々敵に回ったら厄介どころの話じゃない」



 まずは誰を助けるか、俺は即座に決定した。


 ゲーム知識をまとめた羊皮紙をテーブルの引き出しに仕舞い、部屋を出る。

 と、ちょうどそのタイミングでサニアと遭遇してしまった。



「バルドラ様、どちらに?」


「うおっ、サ、サニアか。いや、少し外出しようと思ってな」


「今日もでございますか?」


「あ、ああ。今日も供は要らん。数日開けることになるかも知れんが、留守を頼むぞ」


「畏まりました」



 うーむ。あまり外出すると配下たちに不審に思われるかも知れないな。


 その辺の対策も考えないと。


 俺は色々と思考を巡らせながら、飛翔魔法で聖女のいる国に向かうのであった。










―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「バルドラの中の人は考えるのが苦手」


バ「それほどでも……///」



「面白い」「続きが気になる」「いや、褒めてない」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 07:08 予定は変更される可能性があります

転生したら黒幕だった俺は正体を隠して悲劇のヒロインたちを片っ端から救済してイクゥ! ナガワ ヒイロ @igana0510

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ