第4話 黒幕、人類への攻撃中止宣言
主人公ことアルデの母親、カルラと長い夜を過ごした翌日。
村長のダリウスは村を捨てる決断をしたらしい。
男手の大半が殺されてしまい、村を存続させるのは難しいと判断したようだ。
これから村人数十人で最寄りの町に移動し、領主を頼るとのこと。
俺はカルラの死を阻止することに成功したし、アルデから恨みを買うのを回避できた。
村を捨てる云々はどうでもいい。
強いて言うならカルラが今後どうなるか気になるくらいだろうか。
しかし、俺にはやらねばならないことがある。
最後に村人たちから感謝の言葉を述べられ、俺はカルラとも別れを告げた。
「わ、私も貴方と一緒に……。いえ、何でもないわ。また、会えるかしら?」
カルラが耳まで顔を真っ赤にして言うものだから、少し揺れてしまったね。
でも今後のこともあるし、俺は早急に魔皇城まで戻らねばならない。
今回はどうにか間に合ったが、いつまでもそうとは限らない。
バルドラ配下の魔物たちがシナリオ通りに行動し、ヒロインらを不幸にしてしまっては無意味だからな。
早急に人類への攻撃を止めさせる必要がある。
「ああ、会える。……アルデも、また会おうな」
「……は、はい」
俺は最後に主人公に声をかける。
しかし、何故かアルデはカルラではやくダリウス村長の後ろに隠れながら、俺の言葉に頷いた。
あれ!? なんか睨まれてない!?
昨日は仲良くなれそうだったのに、今は警戒心マックスでこちらを睨んでいる。
原因は分からないが、嫌われてしまったのだろうか。
俺は若干の不安を抱えながら村を出て飛翔魔法で宙を舞い、魔皇城を目指す。
「お帰りなさいませ、バルドラ様」
「ああ、戻った」
魔皇城に到着した俺を満面の笑みで出迎えたのは側近のサニアだった。
「随分と顔色が良くなられましたね、バルドラ様」
「む、そうか?」
「はい。羨ましいくらいツヤツヤしております」
まあ、朝までカルラとエロいことしてたし、色々とスッキリしたこともある。
肌がツヤツヤなのはサニアの気のせいではないだろう。
しかし、羨ましいとは言うが、サニアの方が肌はピチピチだ。相変わらずの美しさである。
当然、ただ美しいだけではない。
彼女は『魔の帝国』のナンバー2であり、実力があって仕事もできる。
その証拠に……。
「バルドラ様、一つご報告があります」
「なんだ?」
「人間たちの村を滅ぼしに向かったオークたちが帰還しました。……バルドラ様から与えられし任務に、失敗した模様です」
何も聞かずとも報告をしてきたサニア。
その顔色は険しく、任務に失敗したオークたちを激しく憎悪しているようだった。
「……会おう」
「わざわざバルドラ様が? ご命令いただければ、私の手で始末しますが」
「いや、俺が会う。サニアは俺の側にいろ」
「っ、は、はい♡」
オークたちの任務が失敗したのは俺が正体を隠して邪魔をしたせいだ。
そのせいで彼らがサニアに処分されるのは流石に忍びない。
そこそこのオークを殺しておいて言うことではないかも知れないが、それはそれ。
俺はサニアを連れてオークたちのリーダー、オークキングと魔皇城の大広間で面会することにした。
魔皇城の大広間。
そこは『セブンスナイトクエスト』の最終決戦の場でもある。
大広間の奥には大きな黄金の椅子があり、この椅子に座ってバルドラは主人公らを待ち構えていた。
普段は配下との謁見に使う場だ。
大広間に入ると、昨日主人公の村で見たオークキングが身体をぶるぶる震わせながら跪いて先に待っていた。
「顔を上げろ」
「へ、へい!!」
俺が黄金の椅子に腰かけてから命令すると、オークキングはバッと顔を上げた。
「任務に失敗したそうだな」
「お、お待ちを!! た、たしかに失敗はしましたが、これには事情がありやして!!」
「事情? 貴方、ふざけているの?」
「ひいっ!!」
「サ、サニア?」
オークキングがサニアに睨まれて情けない悲鳴を上げる。
サニアからは殺気すら感じられた。
「貴方はバルドラ様のご命令を遂行する義務があるのよ。その義務を果たせぬ上、事情がある? だからどうした? お前は死んでもバルドラ様に成功の報を届けるべきだった。バルドラ様に失敗したなだという報告は必要ない」
「サニア」
「バルドラ様。ご命令いただければ、ただちにこの無礼者の首をはね――」
「サニア!!」
「!?」
俺はサニアの名前を呼ぶ。すると、サニアはビクッと身体を震わせた。
「今は俺が話している。控えていろ」
「も、申し訳ありません」
殺気が霧散し、サニアが一歩下がる。
主人公からの恨みを買わずに済んだ今、サニアが裏切る可能性はグッと低くなった。
少し強めに言っても問題はないだろう。
「さて、事情とやらを聞こうか」
俺がそう言うと、オークキングは村での出来事を全て語った。
内容は俺の把握している通りなので省く。
外套でしっかり顔を隠していたので、オークキングは乱入してきた『謎の実力者』の正体には気付いていないらしい。
よかったよかった。
一通りオークキングが話し終えると、サニアは難しい顔で唸る。
「バルドラ様のご意志を邪魔するとは……。ああ、その場に居なかった自分が恨めしいです。その『謎の実力者』、私がいたらその命を刈り取ってやったものを」
サニアが再び殺意を滾らせている。
その『謎の実力者』って俺のことなんだけどね。言わないけど。
「分かった。お前はもう下がれ」
「バルドラ様!? このオークキングに罰は与えないのですか?」
「乱入者を想定できなかった俺にも非はある。それに、一度の失敗を命で償わせるほど、俺は狭量ではない」
「!? ああ、流石はバルドラ様!! なんと寛大な心をお持ちなのでしょう!!」
サニアは涙を流しながら感動していた。
オークキングも見逃されて安堵したのか、感謝の言葉を述べながら大広間から去って行った。
さて、あとは……。
「サニア」
「は、はい!! 如何いたしましたか?」
「早急に魔皇軍の幹部を集めろ。大事な発表がある」
「大事な発表、ですか?」
そう、大事な発表。
その内容は当然、人類への攻撃をやめるというものだ。
主人公から恨みを買わなかったとしても、ヒロインたちから恨まれてしまっては昨日の頑張りが水泡に帰してしまう。
そのためにはヒロインたちを襲う悲劇を配下の魔物たちに起こさせない必要がある。
サニアは俺の命令に従い、魔皇軍の幹部たちを召集した。
魔皇軍の幹部たちは各々の持つ最速の手段で魔皇城の大広間に集う。
ゲームで見たことある幹部、見たことない幹部もいるが、いずれも強そうな外見だった。
ここ『魔の帝国』において強さは絶対的な地位を表すものだ。
バルドラは作中最強、つまりは『魔の帝国』で一番偉い。
よりいっそう、中身がただのぼっち大学生だとバレないよう細心の注意を払いながら演技しなければならない。
俺は幹部たちが全員集まったタイミングを見計らって話し始めた。
「よく集まった。今回集まって貰ったのは、今後の方針を改めようと思ったからだ」
俺の発言に静まり返る幹部たち。
しかし、俺は幹部たちのざわめきに構わずそのまま発言した。
「人類への攻撃は、今後しないものとする」
そして、それが致命的な失敗だと気付くまで大した時間は要しなかった。
一人の幹部が手を挙げる。
俺をギロリと睨みながらやたら殺気立っており、明らかにタダ事ではない様子。
いや、その幹部以外の幹部も一斉に殺意を俺に向けてきた。
え? なに? どういう反応なの?
「魔皇陛下。それは、下等な人間共に怖じ気づいたと、そういうことですか?」
……やらかした。
『魔の帝国』では強さこそが絶対的な地位を表すものであり、弱者には家畜以下の価値しかない。
俺の今の発言で人類に怖じ気づいたと思われてしまったらしい。
いや、そこは大して問題ではない。
相手が普通の幹部たちなら、万が一彼らが反乱を起こしても一方的に制圧することができる。
結局はバルドラが最強だからな。
そう。相手が普通の幹部だったら、という条件付きでなら制圧できるのだ。
問題は幹部たちの中にはサニア以外にも、俺を裏切る可能性がある攻略対象、つまりはヒロインが何人かいることである。
彼女たちが俺を裏切って団結し、集団で襲いかかってきたら流石にまずい。
何か、何か言い訳をしないと!!
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「昨晩はお楽しみでしたね」
バ「///」
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