第3話 黒幕、好意に気付く




 オークを少し蹴散らしたら、キングは迷わず撤退を指示して行ってしまった。


 きっと『魔の帝国』へ帰還するのだろう。


 俺も村人たちに絡まれる前に早々に魔皇城へ戻った方が良いかも知れない。


 と、思ったのだが。



「ちょ、ちょっと!!」



 去ろうとした矢先に誰かに呼び止められ、声の方を振り向く。


 振り向いた先には、あられもない格好をしていたので俺が着せてやったローブの裾をギュッと握っている主人公の母親がいた。



「なんだ?」


「わ、私の名前はカルラ。貴方の名前を聞いても良いかしら?」


「……バルだ」



 流石に主人公の母親――カルラに本名を名乗るわけにはいかない。


 なので俺は適当な偽名を名乗った。


 偽名が安直なことにはあまり触れるなよ。それは俺にとってのタブーって奴だ。


 名前を教えると、カルラは華のように笑う。



「……バル……名前まで素敵なのね……」


「ん?」



 今、素敵って言ったのか? いや、俺の聞き間違いだよな?



「バル。その、もし良かったら、何かお礼をさせてくれないかしら?」


「……不要だ。全員を救えたわけではないからな」


「それは、そうだけれど。貴方のお陰でオークが逃げたわ。貴方が来てくれなかったら、村が滅んでいたかも知れない。私も貴方がいなかったら……」



 少し頬を赤くしながら言うカルラ。


 どう断ろうか迷っていると、杖を持った一人の老人が話しかけてきた。



「旅の御方。助太刀、誠に感謝します。儂はこの村の村長をしております、ダリウスと言う者です」


「……バルだ」


「バル殿。我々の村はオークたちに多くの男たちが殺されてしまい、残ったのは老人と子供、女ばかり。故に今後のことを早急に話し合わねばならず、大した礼が出来ませぬ」


「礼は不要だ。偶然立ち寄っただけだからな」


「そう言ってもらえると助かります。しかし、今日はもうじき日が沈む。今夜はこの村でお過ごしくださいませ」


「っ、そ、それなら!!」



 ダリウスの提案を聞いた途端、カルラは目の色を変えて手を上げる。



「それなら、私の家に泊まってちょうだい!! 部屋は空いているから!!」


「ふむ? カルラ、お主。ほっほっほっ、まだまだ若いのう」


「……な、何かしら? ダリウス村長?」



 ダリウスがカルラを見つめ、何かを察したようにニヤニヤ笑った。


 そして、俺の方にダリウスが向き直る。



「バル殿。そういうわけですし、今日はカルラの家に泊まられるとよろしいですじゃ」



 これは断れない雰囲気だな……。


 仕方ない。今日はカルラの家で一泊して、朝イチで魔皇城に帰ろう。



「分かった。カルラ、一晩世話になる」


「え、ええ!! 任せてちょうだい!!」


「ほっほっほっ、若いのう!! カルラ、お主の息子は儂の家で一晩預かろうかの?」


「ちょ、ダリウス村長!!」


「おー、怖い怖い。老害はさっさと退散するとしようかの」



 ダリウスは心底楽しそうに笑いながら、他の村人たちに指示を出しに行った。



「ま、まったくもう。ダリウス老ったら……」


「カルラ。さっきダリウス殿が息子と言っていたが」


「え? え、ええ、うちには息子が――って、ああっ!! あの子、無事かしら!?」



 完全に忘れていたらしい。


 主人公のことを思い出したカルラが大急ぎで村の一角にある自宅に向かう。


 俺はカルラの背を追うことにした。


 しばらく歩いていると家が見えてきて、カルラは玄関の扉を勢い良く開けて中に入る。



「アルデ!! もう大丈夫よ!!」


「母さん!!」



 カルラが名前を呼ぶと、カルラと同じ銀髪の少年が彼女の大きな胸に飛び込んだ。


 お、おお、羨ましい。じゃなくて!!


 俺はその少年をまじまじと見つめた。

 ゲームで見たキャラデザより少し幼くはあるが、間違いない。


 この少年こそ『セブンスナイトクエスト』の主人公ことアルデである。


 ゲーム本編が始まるのは今から五年後。


 アルデが十五歳になってからの話なので、今は十歳だろう。


 幼いアルデがカルラの後ろに無言で立っていた俺を見て「ひっ!!」と短い悲鳴を上げた。

 一瞬、正体を見抜かれたのかと焦ったが、そういうことではなかったらしい。


 単純に知らない大人の男が怖かったようだ。


 カルラは苦笑しながら、アルデを安心させるように言う。



「大丈夫よ、アルデ。この人はお母さんの命の恩人なの」


「そう、なの?」


「ええ。今晩はうちに泊まってもらうから、失礼の無いようにするのよ」


「……うん」



 ちらちらと俺を見てくるアルデ。


 やっぱりカルラを最優先で助けて正解だったかも知れない。

 今のアルデからは子供らしい、知らない大人の人への警戒心と好奇心しか感じられないのだ。


 俺はアルデともう少し仲良くなるため、警戒心を解こうと笑顔で話しかける。



「バルだ」


「……僕、アルデ」


「そうか。アルデ、よろしくな」


「……うん」



 こくりと小さく頷いて、すたたたと家の奥に行ってしまった。


 警戒を解くのに失敗したのだろうか。


 そう思っていると、カルラは驚いたように目を見開いて言った。



「あの子、人見知りで知らない人はもっと警戒するのに……」


「昔から、子供には好かれやすくてな」



 俺はぼっちの大学生だったが、地域の祭りで手伝いとかしていると、子供に絡まれることが何度かあった。


 近所のおっちゃん曰く「子供に舐められてるだけ」らしいが、そんなことはない。

 きっと子供にしか分からない俺の良さってものがあるのだ。


 そうに違いない。違いないったら違いない。


 それから俺はカルラからもてなしを受け、美味しい夕食をいただいた。


 いや、本当に。めちゃくちゃ美味しかった。


 俺は食べ終わった食器を片付けながら、カルラにお礼を言う。



「ご馳走さま。カルラ、とても美味しかった」


「そ、そうかしら? 口に合ったようで何よりだわ。っと、部屋に案内するわね」


「ああ、頼む」



 俺はそのまま部屋に案内され、程々の柔らかさのベッドに飛び込む。


 今日は色々あって疲労困憊だ。


 しかし、眠くはない。バルドラの肉体はすでに睡眠や食事を必要としない領域まで進化している。


 まあ、必要ないってだけで食事を摂ることも眠ることもできるから、それらはしたい時にするって感じなのだろう。



「……ふぅ。本当に、今日は大変だったな」



 目が覚めたら『セブンスナイトクエスト』のバルドラに転生していたのだ。


 しかも故郷の村を滅ぼされてしまった主人公が魔物への復讐を誓う日で、あと少し気付くのが遅かったら間に合わなかった。


 まじでギリギリだったと思う。


 さて、主人公アルデに恨まれるという最悪の展開は阻止できた。


 明日からはどうしよう。


 まずは『魔の帝国』に戻って、人類への攻撃を止めるよう配下たちに命令してみようか。


 そうだ、そうしよう。


 そうして明日の予定を何となく立てていると、不意に誰かが部屋の扉をノックした。



『バル、まだ起きているかしら?』



 扉の向こう側から聞こえてきた声は、カルラのものだった。


 俺はその声に返事をする。



「ああ、起きているぞ」


『……そう。じゃあ、その、入るわね』


「!?」



 扉を開けて部屋の中に入ってきたカルラは、扇情的な格好をしていた。


 ネグリジェという奴だろうか。


 透け透けの生地で色白な肌が惜し気もなく晒されている。


 やっぱりおっぱいが大きい。エロい。


 あまりじろじろ見ているとジュニアが反応してしまいそうなので、俺は極力カルラの方を見ないように話すことにした。



「な、何か用か?」


「その、今日のこと、改めてお礼を言おうと思って。本当にありがとう。貴方がいなかったら、私は生きていなかったわ」


「……礼ならばもう貰った。食事と寝床で十分だ」



 俺がそう言うと、カルラはもじもじしながら視線を彷徨わせた。



「そ、その、ええと、まだお礼し足りないというか、何というか……」


「ん?」


「して欲しいことがあったら、何でも言ってね。貴方のためなら、何でもするから……」


「……」



 熱を帯びた瞳で俺を見つめながら、確かにそう言ったカルラ。


 ……え? これってそういうこと?


 先に言っておくが、俺はありがちな鈍感系の男ではない。

 相手に誘われていたら気付くし、相手が好みなら普通に応じるタイプである。


 そう、好みのタイプであったなら。


 カルラは銀髪美女で巨乳で、しかも未亡人という属性まで付いている。


 俺は数々のエロゲーをクリアしてきたスーパー紳士であるからして、あらゆる属性に適応することができる。


 カルラ、有りだな!!



「その、そういうわけだから、何かしたくなったらすぐに言ってね。じゃあ」


「カルラ」


「え? あっ♡」



 そう言って部屋から出て行こうとするカルラを、俺は呼び止めた。


 カルラが開こうとした扉を押さえ、カルラに詰め寄る。

 意図したわけではないが、壁ドンしたみたいになってしまった。



「カルラ。本当に何でもいいのか?」


「……は、はい」


「抱かせろと言っても?」


「……はい♡」



 うーむ、なるほど。


 ちょいちょいカルラの様子がおかしいところはあったが、まさか俺に惚れているとは。


 ま、バルドラってイケメンだしな。


 俺だってバルドラの身体にいきなり転生して迷惑してんだ。

 ちょっとくらい美味しい思いをしたって怒られないと思うわけよ。


 俺はカルラをベッドに押し倒してやった。



「その、変じゃないかしら?」


「ん? 何がだ?」


「体型とか、若い頃と比べてだらしなくなってるから……」



 男の痩せてると女の痩せてるは違うからなあ。


 俺から見たらカルラは巨乳で腰が細く、太ももムチムチでお尻も肉付きが良いという男好きする身体をしている。


 カルラは気にしているようだが、むしろ俺は逆にそそるね。


 それに若い頃と言っているが、カルラはまだ二十代半ばである。

 俺は中身が大学生だし、実際は年齢に大した差がないのだ。



「可愛いぞ、カルラ」


「あぅ♡」



 頭を撫でながら言うと、カルラは耳まで顔を真っ赤にしてしまった。


 主人公には悪いが、我慢できるわけがない。


 俺はズボンとパンツを下ろして、自慢のジュニアを見せつける。

 まあ、俺じゃなくてバルドラの息子なわけだが、細かいことは気にしない。



「あっ♡ で、でっか♡」


「はは、だな」



 実に立派なものだった。


 前世の息子も他人に自慢できるものだったが、バルドラのものはもっと凄い。


 俺はカルラの身体を隅々まで貪り、恋人のような甘い時間を過ごすことにした。



「あ、あんまり激しくしないでっ、アルデに聞こえちゃうわっ♡」


「はは、聞かせてやろうじゃないか。息子が隣の部屋で寝てるのに、出会ったばかりの男を誘惑する悪い女め」


「だ、だって♡ 好きになっちゃったからっ♡」


「ふーん? どこに惚れたんだ?」


「つ、強くてっ♡ 優しくてっ♡ 顔もカッコ良くてっ♡ 一目惚れだったのおっ♡」



 とまあ、イチャイチャしたり、キスしたりして過ごしているうちに朝が来てしまった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「未亡人の子持ちお姉さんから誘惑されるシチュエーションは全男子の憧れ」


バ「偏見がすぎる。でも分かる」



「村長察し良くて草」「お盛んで草」「あとがき分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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