[新情報]


 登校すると当然ながら学内あちこち英美の話で持ちきりだった。

 今の時代、誰かの異常行動が動画投稿されれば光の早さでアッという間に拡散されていく。

 当たり前すぎる状況だ。


「そりゃ、そうだよね」


 早苗が溜め息をつきながら言う。


「あれはほんと衝撃的だよ、拡散も止められないし。ネットニュースにもなっちゃうんじゃない? どうしようもない」

「うん・・・・」


 美鈴もそれを否定は出来なかった。

 英美の"乱心動画"は母の利津子のパート先でもかなり話題になっていたらしい。

 辛い現実。


「英美・・・・どうなるのかな」

「うーん、彼女がさらにどうなるのかはまったくわからないけど確実に事態は悪化してるから、まあロクなことには・・・・」


 早苗も口調が重くなり、美鈴も黙り込んだ。

 広い学食内のあちこちで、たぶん英美のあの動画を再生しているらしいざわめきが二人の耳に届いてくる。

 

「見たところここにはいないね」


 ぐるりと辺りを見回しながら早苗が言う。

 確かに急な大変身を遂げたり、狭いだのあっちに行けないだのと騒いでいる者はとりあえず食堂内には見当たらない。


「出ようか」

「うん」


 気だるい動作で二人は立ち上がった。 

 すると──


「ねえ」


 ふいに声が掛けられた。

 見たことのない女子だ。

 

「騒ぎになってる子、友達だよね?」


 明らかに美鈴に対して言っている。


「え? あ、うん」

「ちょっと聞きたいことあるんだけど時間ある?」

「大丈夫だけど・・・・」

「ごめん、私こういう者」


 名刺?

 ポケットから出したそれ風のものを美鈴に差し出した。


【オカルト東西事象研究会 君嶋秋歌きみじましゅうか


「オカルト東西・・・・研究会?」

「そう、まあ弱小サークルだけど」


 学内に大小幾つのサークルがあるのか美鈴たちは知らず、その名も初耳だった。


「で、聞きたいことって──」


 美鈴と早苗は再び席に座り直した。


「単刀直入に聞くけど、あの子、悪魔崇拝とかしてなかった?」

「えっ?」

「えっ?」


 美鈴と早苗の驚く声が重なった。

 思わず顔を見合わせる。

 その様子を見た秋歌が含みのある表情で言葉を続けた。


「やっぱり・・・・してた?」

「え、してたっていうわけじゃ・・・・」


 美鈴は(どうする? 話す?)という意図で横目で早苗にアイコンタクトをした。


「ごめん、ハッキリ言ってくれないかな? かなり大事なことなんだけど、どうなの?」


 初対面にも関わらず強い圧を掛けてくる秋歌に二人は引き気味になったが、やがて早苗が意を決したように話し始めた。

 何か新しい情報が得られるかもしれない、という期待もあった。


「実は──」


 英美のことから"先生"のこと、そして街で遭遇したカップルの彼氏の件──事実のままを途中で美鈴も補足で口を挟みながら語り聞かせた。


「なるほどね。これはやっぱり始まったかもね・・・・」


 何に思い至ったのか、秋歌がひとりごちるように言う。


「え、始まった? 何が?」


 当然の疑問を早苗が問う。

 それを受けて一呼吸置き、秋歌が静かに口を開く。


「魔界の侵食、餌食えじき狩り」

「!?」

「!?」


 侵食、餌食。

 ただならない響きのその言葉に、二人は同時に背筋を凍らせた。

 



 

 

 



 


 

 

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狭くなる 真観谷百乱 @mamiyan

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