第12話 回収
俺たちは氷像となった盗賊を回収しに行くと、まだ彼らは街道から少し離れた場所でカチコチで固まったままだった。よかったよかった。
「よしじゃあこの氷を溶かそうか。炎系の魔物を召喚しよう」
『メルが氷を食べるー』
「中の人間も食べるオチが見えるからダメ。
メルを抱きかかえながら、周囲に誰もいないのを確認して魔物を召喚する。
地面に出現した魔法陣から現れたのは、全長三メートルほどの大きさの赤いドラゴンだ。彼は背中についた大きな翼を羽ばたかせて、周囲に風を巻き起こした。
彼は魔王軍将軍の一体であるフレイムドラゴンだ。ちなみに魔王軍将軍は百体以上いたりする。
『魔王様! お呼びですか! なにをすればよいのですか! 人間の街を襲うならお任せください!』
「そこで凍ってる人間の氷を炎の息で溶かしてくれ。ただし殺さないように」
ドラゴンは凍った盗賊たちを見つめると、
『溶かすならなんでわざわざ凍らせたんですか?』
などとすごく正論なことを言ってきた。俺もそう思う。
「どこかの氷の不死鳥が暇で凍らせたんだ」
『うわ怖。フェニ様って通り魔みたいですね。Sっ気ありますよね』
「違うよ!? ちゃんと襲ってきた相手を凍らせただけだからね!?」
フェニは言いつくろっているが、手持ちぶさたでつい凍らせたようなものだろう。
冷凍保存してたことになるから結果オーライだけどさ。
「いいから溶かしてくれ。出来るか?」
『頑張りやす!』
フレイムドラゴンは思いっきり息を吸うと、凍った盗賊たちに向けて口から炎を吹き始めた。普通に浴びれば人間なら即死の火炎放射だが、盗賊たちは氷に守られて原型を保っている。
というか氷が全然溶けてない。氷のほぼ全身が炎に包まれてるのに。
そしてフレイムドラゴンは炎を吹くのを辞めてしまった。
「フレイムドラゴン? 全然溶けてないんだが」
『ぜはぁ……ぜはぁ……いやこれ冷え
「ボクが造った不死の氷だからね!」
フェニがスレンダーな胸を張って、「えっへん」と言わんばかりである。
彼女の不死の氷は鉄どころかアダマンタイトなどの特殊金属よりも丈夫なため、伝説の氷の剣を作れたりする代物だ。
フレイムドラゴンの炎でもなかなか溶かすのは難しいらしい。魔王軍四天王の名は伊達ではないのだ。
ちなみにフレイムドラゴンの炎は鉄を一瞬で融解させる。なのに数時間溶けない不死の氷のすごいさが分かるというものだ。
『なんで溶かす予定の者を不死の氷で冷凍したんですか!?』
「溶かす予定なかったから……」
そうしてフレイムドラゴンが必死に頑張って、炎に数時間炙り続けてなんとか氷は消滅した。なお中の盗賊たちは火傷ひとつ負ってない。
あれもう氷じゃないよな。
『それでこの盗賊たちはどうするんですか?』
「街まで運んでギルドに差し出そうかなと。ロープ持ってきたから連行するんだ」
『なるほど。じゃあ私は帰りますね』
「ありがとな。また不死の氷を溶かす時は呼ぶから」
『不死の氷を溶かす状況にしないでくださいよ』
なるべく善処するからジト目で見るのやめて欲しい。
そうして俺たちは盗賊が目を覚ますのを待ってから、彼らを都市リバスまで連行した。そういえば都市リバスのどこに連れて行けばいいんだ?
盗賊なら憲兵所か? ああいやその前にロープで縛った男を連行してたら門番に止められるか。
🧊🧊🧊
👾👾👾
俺たちが都市リバスの門前に着くと、門番たちが慌ててこちらへ駆け寄ってきた。
「ちょっと君! その縛ってる男たちはまさか……!」
「冒険者ギルドでお尋ね者になってた盗賊たちです。五人組でユニコーンも連れていたので間違いないかと。冒険者ギルドに連れて行った方がいいですか?」
「ま、待て待て! 冒険者ギルドと憲兵団を呼んでくるから待ってろ!」
門番たちは去っていって、しばらくするといつもの受付のお姉さんを連れて帰って来た。
何故か陰湿メガネもいるけど。帰って欲しい。
彼女は俺たちの後ろにいる、手を縛られた五人の盗賊たちに目を向けると、
「マノンさん。本当に盗賊たちを捕まえたんですか!? 彼らは他の場所でも暴れていて、衛兵たちでも捕まえられなかった厄介な賊なのに……」
「なにをやっているのですか! 早くその人たちを開放しなさい! 彼らは盗賊ではありません!」
困惑する受付さんと叫び出す陰湿メガネ。
なんで陰湿メガネはこいつらが盗賊じゃないと断言するんだよ。しかも顔を真っ赤にして焦っているように見える。
まあいいか。こいつに興味ないし。
「手続きをお願いします。こいつらは先ほど掲示板に貼られていた五人組の盗賊です。ユニコーンも連れていましたので間違いないです」
「わ、わかりました! ちなみにユニコーンはいないのですか?」
「こいつらを見捨てて逃げてしまいました」
嘘は言ってないぞ。ユニコーンは従属の焼き印を解除したことで、盗賊たちを捨てて去っていったし。
「そうですか。ユニコーンがいれば間違いなく彼らが盗賊だと断言できたのですが……」
受付のお姉さんは目を丸くして、五人組の盗賊たちの顔を確認している。
なお盗賊たちはまったく暴れようともせずに震えていた。どうやら不死の氷の中でフレイムドラゴンの炎を浴び続けて、心が焦燥というか燃え尽きてしまったらしい。
「なにを証拠に! 無実の者を捕まえるなど最低の行為です! 捕まえるべきはこの男です!」
なんか横で叫んでるメガネは無視無視。
受付さんは盗賊たちの人相書きと彼らの顔を見比べている。人相書きはソックリではないが、鼻とか髪型などの特徴はうまく表して盗賊たちと似ているように見える。
「ええと、人相は似ていますね。皆さんは盗賊なのですか?」
「は、はい。そうです……」
「俺たち、盗賊やってました……」
盗賊たちは受付さんの問いに正直に答える。うんうん、正直者はいいことだ。
なお彼らには正直に答えなかった場合、また不死の氷からのドラゴンフレイムの刑に処すと伝えている。嘘つかれたら困るし。
「な、なにを言っているのですか! そんなことないでしょう!」
「ではひとまず憲兵所に行きましょう。そこで事情聴取や裏どりを行ってもらいますので。マノンさんにも結果がわかったらお知らせしますね!」
陰湿メガネがなおも食い下がっているが、五人の盗賊たちは連行されていった。
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魔物の王たる魔王様、テイマーになったらだいぶチートでした ~魔物の王が魔物を使役したら反則だし、なんなら魔物使わなくても最強な件~ 純クロン @clon
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