第11話 このために取っておいたんだ
俺はフェニとメルを連れて都市リバスの冒険者ギルドに訪れていた。
当然だがフェニは人間形態だ。というか人の街で氷の不死鳥モードになったら目立ちすぎるし。
「すみません。冒険者ランクを上げるにはどうすればいいですか?」
俺はいつもの受付の女の人に話しかける。隣には陰湿メガネがいて俺のことをギロリと睨んできたが無視だ。
以前に決めたように冒険者ランクを上げたいのだが、俺は冒険者についてあまり詳しくない。なので受付の人に聞いてみようというわけだ。
「冒険者ランクの上げ方ですか。基本的には依頼を多く達成して一定の成果を上げて、その上でランク昇格試験を受ける必要があります」
「依頼を達成せずに昇格試験を受けることは無理なのでしょうか?」
出来ればさっさとランクを上げてしまいたいので、飛び級とかしたいところだ。俺は魔王なのでそこらの人間より間違いなく強いから、昇格試験には受かると思うんだよ。落ちたら泣く。
「それは難しいです。冒険者ランクが上がるほど、難易度が高く解決を急ぐ依頼を受けられるようになりますからね。依頼を多く達成してもらうことで、その依頼を達成する力と逃げださない信用を確認しますので」
いくら能力があっても信用できない者には大事な仕事は任せられないと。
当然か。俺だって誰とも分からない奴を魔王軍の将軍とかには出来ないし。
「わかりました、ありがとうございま……」
「ただのスライムをテイムしているテイマーでは、ランクを上げるのは難しいと思いますけどね」
受付さんにお礼を言おうとすると、横の受付にいる陰湿メガネが口を挟んできた。
こういう変な奴の相手をするのは時間のムダだ。関わらないに限る。陰湿メガネはガン無視して受付さんとの話を続けよう。
「ではランクを上げたいのですが、なにか依頼はありませんか?」
「そうですね。Gランクで受けられる依頼で貢献度が高いものでしたら、ゴブリン退治はいかがでしょうか?」
「退治というのは殺すということでしょうか?」
「そうですね。ゴブリンの鼻を削いで持って来れば、討伐証明になりますので」
「あー……出来れば魔物退治以外でお願いできませんか?」
俺は魔王だ。積極的に魔物を殺すことは外聞的に避けたい。
もちろん敵対した魔物がいれば殺すこともあるけどな。人間だって敵対した相手は殺すだろうし、ましてや魔物は種族が違えば別の存在みたいなものだ。
人間からしたら魔物とひとくくりにしているが、ドラゴンとゴブリンを同じ存在にまとめるのはかなり雑だと言わざるを得ない。
「魔物退治以外でしたら薬草採取や下水道掃除などでしょうか。ただ貢献度が低いので、いくら達成してもランクは上がりませんが……。Fランクに上がるための実力を証明するには、魔物討伐依頼を受ける必要があります」
こればかりは仕方ないか。やはり冒険者に求められるのは腕っぷしな以上、討伐依頼を避けたらランクを上げづらいのは当然だ。
ここで文句を言ってクレーマーになってはいけない。
「では薬草採取の依頼を受けたいです」
「承知しました。ではすぐによろしくお願いします」
すると隣からわざとらしい大きなため息が聞こえて来た。
「魔物討伐もせずに冒険者ランクを上げる? なんて愚かな人でしょうか。しょせんはスライムを連れたテイ……」
視線も向けずにガン無視していると、急に陰湿メガネの声が止まった。ちょとと気になってチラ見してみると、困惑しながら口をもごもごとしている。
よく見ると陰湿メガネの唇あたりが少し凍っていた。たぶん上と下の唇が張り付いて離れなくなって喋れていないのだ。
こんなことをするのはひとりしかいない。
「マノンさん! 早く行きましょう! ボクお腹すきました!」
そう言いながら俺の腕に抱き着いてくるフェニ。
「(陰湿メガネの唇を凍らせたな?)」
「(はい! 耳障りでしたので! とりあえず今日は溶けないようにしておきます!)」
「(それだとギルドの仕事も出来ないし、食事も取れないような)」
「(どうせあの人の元に受付に行く人いないですよ。むしろ仕事できないほうがみんな幸せです。一日くらい食べなくても死にませんよ。本来なら殺しているところですが我慢しました!)」
陰湿メガネからしたら災難かもだが、フェニの不興を買ってこの程度で済むならお買い得かもな。
なにせフェニは魔王軍四天王だ。俺がお忍びでなければ陰湿メガネはとっくの昔に全身凍り漬けの刑に処されていただろう。
『メルもなにかしてればよかったー。ちょっと腕食べるとかー』
「絶対ダメ」
俺たちは受付さんにお礼を言った後、受付カウンターから離れる。
しかしどうしようかな。冒険者ランクは上げたいが魔物討伐依頼は受けたくない。でもGランクで受けられる依頼でランクを上げるには、魔物討伐依頼を受けないと厳しそうだ。
するとなにやら掲示板らしき場所に人が集まっていた。そこにサリアの姿も見えたので声をかけてみるか。
「やあサリア。人が集まってるけどどうかしたのか?」
「あ、マノンさん! ちょうどよかったです! 実は掲示板に盗賊の手配書が貼られたんですよ。その盗賊はこの都市近くの街道に出没していて、五人組でユニコーンを連れているそうでして」
「あれ? それって……」
五人組。ユニコーンを連れている。なんかものすごく心当たりがあるのだが……。
「そうなんです。たぶんあの時の人たちだと思います。もし連れてきたら懸賞金がもらえますよ」
「ほう。この手配書はギルドからの依頼になるのか?」
「依頼というよりは注意喚起でしょうか。本来なら討伐依頼が出てもおかしくないとは思うのですが……この都市近辺の街道で出没するなんて範囲が広すぎて、依頼には出来ないと判断したのでしょうか」
「……こいつらを連れてきたらギルドに貢献したことになるかな?」
「すごく喜ばれると思いますよ」
まじかよ。あの盗賊たちを冷凍保存していてよかったな。
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