第10話 思ったより焼き印ヤバイ


「これより第二回魔王会議を始める!」

「『はーい』」


 俺たちは薬草を納品した後に魔王城の玉座の間に戻って、二度目の魔王会議(参加者四名)を行っている。メンバーは俺、フェニ、メル、そして盗賊に操られた(?)ハザードベア君だ。


 いや厳密に言うともうハザードベアではない。焼き印を消すために俺の眷属にしたことで、いまのこいつはエンシェントムーンベアーに進化していた。ちなみに名前だがベアロウというらしい。


 この第二回魔王会議の議題はベ……えっと誰だっけ。盗賊から奪った焼き印についての話である。


 あ、そういえばあの盗賊を氷像にして街道にほったらかしたままだな。まあまた通りがかった時に回収すればいいだろ。


「あの焼き印についてだが俺が考えていたよりもヤバイ代物だった。魔物を多少無理やりテイムするだけだと思っていたが、どんな命令でも聞かせる代物だったとは」

「そうですよね。あんなのを魔物たちが見たらもう魔王様の抑えも効かないですよ。即座に人の国に攻め込むでしょうね」

『私も怒りのあまり人間食べたくなったー』

「お前はいつものことだろ」

「グマァ(酷い目にあいましたよ、まったく)」


 みんなそれぞれにあの焼き印に思うところはあったようだ。


 そりゃそうだよな。あんな人間爆弾みたいなことさせられる道具にいい印象は抱かないだろう。


 ちなみにハザードベアはさっきは言葉を叫んでいなかった。俺が魔王ではない可能性にかけてただ吠えていただけだ。


「正直な話を言うと俺もあの焼き印を舐めていたところがある。だがあれは放置してはいけない代物だ。少なくとも人間の世界で流行などさせてはいけない」


 あんなの絶対に使わせたらダメだろ。


 魔物たちにとっては麻薬と同じかそれ以上にたちが悪い気がする。


「ボクも同感です!」

『メルもー』

「グマッ! グマッ!(あんなの魔王様でもやらない悪魔の所業ですよ! めちゃくちゃ辛かったです!)」

「おい待て。俺でもやらないってなんだよ」

「グマ? グマ!(あ、やべ。なんでもないっす)」


 おかしい。俺は配下の魔物たちにどう思われてるんだ。


「ともかく! あの焼き印を人間が使わなくなるようにしたい! なにかいい策はないか!」


 だが人間に焼き印を使わせなくすると言うは簡単だが行うのは難しい。


 なにせあの焼き印はかなり便利な代物だ。テイマーが使えばBランク以下の魔物を従属させられるのだから。


 なので使ってしまう可能性が高くなる。


「やはり生産地の国を滅ぼすべきと思います。そうすればもう大量生産は不可能です!」

「たしかにフェニの意見はもっとも確実だな。俺も間違っていないと思う」

「えへへー。魔王様に褒められましたー!」

「ただその上で出来れば取りたくない手段だ。それをすれば間違いなく人間と魔物の戦争になるし」


 フェニの意見は正しいのだが、魔物が人の国を滅ぼしたらもう全面戦争になるからな。


 俺は元人間だからそんなことはさせたくない。いや魔王になったのが転生した俺でよかったよ。もし魔王が俺じゃなかったら戦争が始まってただろう。


「グマぁ!(もう面倒なので滅ぼしちゃいましょうよ、人の国!)」

「面倒程度の理由で全面戦争を起こすんじゃない!」

『じゃあ魔王たまはなにか考えてるのー?』

「案はある。どれも簡単ではないがな」


 俺も人間に焼き印を使わせない方法はいくつか考えた。


 他人の意見を求めて否定しておいて、自分は思いついてないではただのクズだからな。ちゃんと対案は考えておかないと。


 最初に言わなかったのは俺よりも良案があればと思ったからだ。魔王である俺が案を言えばだいたいそれが採用されてしまうからな。


「流石は魔王様です! じゃあ魔王様の案で行きましょう!」

『魔王たまー、偉いー』

「グマッ!(さっそくご命令をくださいっす!)」


 ほら見ろ。まだ言ってもない俺の意見が採用決定の流れになってる。


 これだから迂闊なこと言えないんだよ。


「まあ落ち着け。俺としては人間に無理やり焼き印を捨てさせるのではなくて、自ら焼き印を不要と思わせるように仕向けたい」


 他者からの外圧に対して人間は抵抗する。


 なので自分から捨てさせるようにしなければならない。


「そのために俺が世界最強のテイマーになろうと思う」

『「「???」」』


 おっとやはり分かってもらえないか。ちゃんと解説しよう。


「俺が人間世界で権力を得れば発言権が生まれるだろ? それで焼き印反対運動をすればそれなりの成果が出せるかなと」


 世界最強で多大な名声を持つテイマーの発言ならば、そうそう無視はされないはずだ。

 

 もちろん他にも考えはある。Aランク以上の魔物を引き連れた成功者になることで、Bランク以下しか操れない焼き印の価値を下げる狙いだ。


 人間たるものやはり上は目指したいだろう。だが焼き印に頼っていてはAランクの魔物はテイムできなくなる。


 可能性を自ら削り取る行為は避けるのではないだろうか。わりと穴のある案ではあるがそこは今後の話し合いなどで埋めていこうと思う。


 例えば焼き印を使うと身体に悪いなどの、そういう嘘的な噂も混ぜ込んでいくとか。


 なんにしてもAランク以上のテイマーを増やしていって、焼き印を使うとデメリットがあるから微妙なモノだと思わせたい。


 もちろん全てがうまくいっても使い続ける人間はいるだろう。だが焼き印を完全に使わせなくするのは不可能だからな。麻薬だってどれだけ取り締まっても扱われるから。


 もちろん焼き印を完全になくすのが理想ではあるが、あまり大っぴらに使うものではないようにするのが現実的なところだろう。


 ……あとは最終手段ではあるのだが。人のテイマーに扮した俺が焼き印を作ってる国を襲撃したら、人間VS人間の構図が作り出せるからな。


 これは極力取りたくない手段ではあるが、魔王としては考えておかねばならないのが辛いところだ。取らなくていいように動けなければならない。


 それに他にも理由はある。俺が人間の世界で名声を得ることによって、魔王城にため込んだ財宝などを使えるようになるのだ。


 現状だといくら金があろうと人間世界で使う手段がない。Gランク冒険者のマノンが大金を持っていたら間違いなく怪しまれるだろう。


 だがSランク冒険者のマノンであれば大金を持っていても怪しまれない。そうなれば色々と出来ることも増える。例えば焼き印を購入する商人に圧力を加えるとかな。


 なんにしても俺が人の国で名声を得られたら、出来ることの選択肢が増えるということだ。


「グマァ!(流石は魔王様! 天才的なお考えです!)」

『お腹すいたー』


 そうして俺は最強のテイマーになるための行動を開始するのだった。


 魔王が最強のテイマーってなんだよ、とは言ってはいけない。


「ところでベアロウ。お前って従属の焼き印なしでも人間に従ってなかったか?」

「グマア(従ってません)」

「盗賊が肉をやらんぞとか言ってなかったか」

「グマッ! グマッ! ベアぁ!(魔王様! 人間のたわごとに耳を貸してはいけません! あいつは諸悪の根源にして最悪のクズです!)」


 とりあえずベアロウのことは保留にしておこう。後で問い詰めてやる。


 そうして話し合いが終わったら、カマキリの魔物であるカマキリングが入って来る。こいつは魔王国の将軍のひとりでそれなりに偉いので、玉座の間に入ることも許可されている。


 ちなみに序列としては魔王、四天王、五魔将、将軍と続いていく。基本的に魔物は強い奴ほど偉いので、階級が上がるほど強いと考えて問題ない。


 ……しかしカマキリングめ、また面倒なこと言ってくるんじゃないだろうな。人間滅ぼそうとか。いやこないだ言ってきたばかりだし流石に……。


「魔王様! 人間を滅ぼしに行くのですね! 私も同行します!」

「違うわ!」

「そうですか……お出かけになると聞いたのでそうかと期待したのですが! 我が鎌であの見るのも醜悪な人間どもを一匹残らず殺せると!」


 カマキリンは両手の鎌で空を切る。こいつ本当に人が嫌い過ぎるだろ……。


 こいつら相手には絶対に従属の焼き印を知られたらダメだな。


「まっこと残念です。ではいつものように玉座の間の掃除はお任せください」

「わかった。任せたぞ」

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