第34話 転移者発見
「私は中野小春。敵じゃないよ」
明らかに社会人の女性だし、ため口はダメ。
でも、精神的に弱ってる相手に敬語で話すのってタブーなんだよね。心の緊張が助長して、悪い方に転がっていく。
怒られたらその時はその時だ。
「じ、自衛隊です、か?」
銃をちらっと見た、女性が勘違いをする。
心が限界っぽいな。アリスはパーカーに防弾チョッキって感じの服装だから特殊工作員的な立ち位置に見えなくもない。
私は高校の制服の上に防弾チョッキを着てる。
まともな精神なら自衛隊の人って想像すら湧いてこない格好だ。
「はい! えっと普通科連隊の中野小春二等陸尉です。政府の要請であなたの救助に来ました。もう大丈夫ですよ。駆逐してやりますから、この世から一匹残らず」
「家に帰れるんだ」
ほっとした女性が弱弱しい笑顔を浮かべた。
笑いが取れるかなと思ったんだけど、通じなかったよ。どうしよう。
「どんな返しを期待していたのじゃ?」
「よく見たら高校の制服着てる。おまえ偽物だな。バレたかみたいな」
「緊張をほぐすそれから会話が基本じゃからの」
「ほっと一息できれば自衛隊じゃないって分かってもパニックにならないかなって思ったんだけど。素直に言うしかないね。任務中の自衛官が女子高生のコスプレなんてしちゃったらマスコミに叩かれちゃうでしょ。あなたと同じ転移者だよ」
「帰れないの?」
泣きそうになる女性の破壊力はすごいね。
罪悪感が私の心を締め上げる。
「帰れるのはほんと。責任をもって家まで送り届けるから安心して」
不安が決壊しないように、できる限り優しく語りかける。パニックになった人ほど厄介な対象っていないんだよね。なにするか分からないし。
ガラスケースを慎重に割って、女性を解放する。情報交換の時間だ。
女性が首から下げている社員証には大手ゼネコンの会社名と
「私が知ってる日本じゃない可能性もあるので、質問に答えてください」
総理大臣の名前、おおまかな歴史、時事問題すべてが私の知る日本と一致したから吉田さんが戻るべき国も私と同じだ。
地球に近い異世界がいっぱいあって、それぞれに似たり寄ったりの日本があるってありがちな設定だから不安だったけど、一安心だ。
「どんでん返しはあなたが作ったの?」
「そうです」
「こいつが知識の果実って言ってたけど。そういうことね」
佳代さんの頭には行き過ぎた知識が詰まってる。
佳代さんを使って、無双ごぶとかやってたんだろうな。こいつ。
そろりと逃げようとしてる王に冷たい視線を送る。
宝物庫も開いたし用済みなんだよな。
「に、逃げないごぶよ!」
「職人なのか?」
「そうだよ。でも私の世界では職人じゃなくて、建築士って呼んでる会社員だ」
「ほぅ建築士なる専門職になっておるのじゃな」
「会社員ってなによ」
「異世界ってフリーランス、こっちの世界にはない言葉っぽいね。自分の力で稼ぐって働き方が一般的だと思うんだけど。私の世界は商会の奴隷になって、馬車馬のごとく働いて、社畜。奴隷のことね。がせっせと集めた利益の一部を山分けが主流なんだよ。商会私の世界では会社って呼ぶけど。に所属する、社畜が会社員だよ」
「自分の意志で社畜になる世界怖すぎなんですけど」
「キャッチフレーズは24時間働けますか?」
「もしかして昭和から来た人だったりするの! 時間軸が違うってことは現在に戻れない可能性もあるってことですよね」
「冗談だよ」
「冒険者みたいなフリーランスっていないの?」
「いるよ。モンスターじゃなくて人を狩る職業になるけど」
「小春の世界って野蛮ね」
「職人は皆、社畜なのか?」
「佳代さんが会社に所属してなかったらフリーランスになるし、全員が全員会社員ってわけでもないよ。会社員の方が割合が多いってだけ」
「会社員イコール社畜になっているんですけど。訂正してください」
「社畜じゃないの?」
「違いますよ! 私の会社はホワイトです!」
「……ホワイトな会社があるってマジ?」
「マジ、です」
「会社ってブラックな場所だと思ってたんだけど。違うんだ」
「どんな生き方してたらそう思うようになるんですか!」
「子供の頃から子守歌の代わりに言われてきたんだけどな。会社はブラック。社畜になりたくなければ家業を継ぐべし! ってパパが」
「ボス。それは洗脳」
「あなたの父親ってなにやってる人?」
「ヤクザの親分」
「女子高生が銃を持ってる状況が意味不だったのですが、納得です……今どきのヤクザって異世界もシノギにするんですね」
「違うよ。冒険者になりたくて来たの」
「中二病?」
「私は中二病じゃない」
夢の異世界生活は世知辛い 米酔うび @komeyoubi
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