壱の夢
地下鉄の改札を出て左に曲がり、坂を登った先に学校はある。校門を私と同じくして入学したであろう生徒が黙々と通り過ぎていた。幾人かは仲良しのグループを作り記念撮影をしていたが、この大学には私の中学・高校時代の友達はいないので一人教室へと向かった。都内の私立で新築同然の巨大なキャンパスが多数あり、内装も想像通りである。教室の真ん中に座り、家から持ってきた小説を開いて移動まで待った。少し広い教室で数名の話を聞き流したのち、配るべきものを配り終え、ゼミに分かれ、自己紹介の時間となった。私は特段語りたいことはなかったので、当たり障りのなく、目立たないことを言いその場を凌いだ。初日から友人ができるはずもなく、翌日からはガイダンスなるものが待っている。つまらない一週間が始まるのだろうと、少し憂き目になりながら帰路につこうとした。しかし、坂を下る帰り道、私は背筋が凍った。髪が若干逆立ち、ゾワっとした食感が体を包む。原因は私が目にしたものだろう。私を殺した犯人の美女が上っていた。あの淡麗さは忘れられない。颯爽と進む姿に、呆気にとられていると、どことなく、これから起こっていくことが予想できてしまったのだった。
夜も更ける中、これといってペンが進むわけでもなく、ただ布団の中で戦慄いていた。
側から見れば寝付けないだけであるが、
また殺されるかもしれない。夢の中だけど、私はまた死ぬかもしれない。
そんな気持ちが幾度か空回りした後、私は微睡の中へと旅立った。
【夢へようこそ。】
『ひとり闇の中、掴みどころのない場所で歩き続ける。奥に仄かな色の変わりどころがある。目指していく。一体なんだろう、人のような形をしている。見失わないよう目を凝らしつつ歩き続ける。それなのに瞬きの弾みで消えた。そのまま前に彷徨う。ふと何かが足先に触れる。不思議に思うと天蓋からスポットライトが照らされる。一目見て私は息を呑む。無惨にも、昨日の殺人犯は死んでいた。』
丑三つ時、私は飛び起きた。
春は悪夢を見やすいとはよく言うもので、寝るのに心地よい環境だからこそ悪魔が訪れると言う算段だが、やはり私に取り憑いた悪魔は再び幻影を見せた。なぜ私は昨日私を刺した人が死んでいる夢を見たのだろう。いや、見逃さなかったが、なぜか床に包丁が置かれていた。刺され方的に彼女は殺されていた。一体誰が…私の復讐をしてくれたのだろう。
とはいえ、顔が昨日の放課後に流し見たあの女の子なのが気になった。確かに得も言えぬ寒気を感じたのは認める。しかし、勘違いなのかもしれないし、彼女に何かあれば私は夢の中とはいえ、犯人に近しいことになるだろう。どこか不安を覚えつつ、また目蕩みに任せて布団に潜った。
翌日、寝坊した。無理もない。あんな夢を見たのだ、綺麗に眠れるわけがない。仕方なくボサついた髪のまま朝食も食べず駅へと猛ダッシュした。結果は勝利、髪は走る間に少し収まっていたのでもはや完全勝利である。だが、もう一つの懸念点はまだこれからだ。彼女が無事かどうか、始まりの授業で単位取得方法などを話しているときに別のことで不安がっているのも周りに知られたら阿呆なことだと思うが、平気だ、シラバスを見れば問題ないのだから。そんな面持ちのまま坂を登り、仕方のないようにを本を開きながら待っていた。確かめられるのは放課後なのだから。すると、冷たい風が手の甲に感じると同時に顔を上げると、入ってきた。
何もその身に起こってないことに安堵しつつ、私は驚嘆した。私を夢で殺した犯人は、あの美女は、そして昨夜殺されていた人は、同学科だった。
鶴ノ舞ウ夢 N-8 @n-8_f-island
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