鶴ノ舞ウ夢
N-8
始まり
街にちらつく雪はいつの間にか積もり、一面の銀世界を作り出した。いや、正確にはそこに深紅の斑点がちらついていた。腹部を抑えながら私は雪の中を彷徨った。体力の限界を迎え、白のキャンバスに埋もれ、染めながら意識をなくしていった。ぼんやりとなぜ私が死にゆくのかを考えていた時、腹部の傷をつけた彼女の、悲壮な笑みが浮かんだ。そうか、君がやったのか。
…誰だろう、この美女は。
ぐっしょりと濡れた布団の上で目が開いていることに気づいた時、私は生きていることを実感した。殺されるなんて真っ平ごめんだが、いやにリアルな夢だったので、未だに目が冴えない。いわゆる悪夢にうなされていたと考察するのは容易かったが、記憶に残るのもまた嫌なものだった。午前6時13分。起床には申し分ない時刻だ。頭を上げカーテンを開け、少し桃色の透けて光る窓に伸びをした。今日から大学生としての生活が始まる。出鼻は悪夢で挫かれたが、恐らくいいものになるだろう。そう願っていた。
キャンパスまでは少し遠い。電車で30分ほどかかるが、自分の感覚が作れるほど良い時間だ。すかさず、カバンのポケットからイヤホンを取り出し、いつもの音楽を聴き始めた。
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