空想旅行 ~高松・直島~

下東 良雄

うどんの国、アートの島

 海へ行こうと思った。


 どこの海に行こうか。

 そうだ、前から行きたかったところがある。

 あそこにしよう。


 東京駅、二十一時五十分。

 定刻通り九番線から滑り出した寝台特急『サンライズ瀬戸』。

 フェリーの雑魚寝部屋を連想させる「ノビノビ座席」。

 頭のところに小さな仕切りしかないが、僕には十分だ。

 女性は個室を使った方がいいね。

 カーペットへ横になり、目を閉じる。

 ゆりかごのような電車の揺れ。

 子守唄のようなカタンコトンという線路の継ぎ目の通過音。

 僕は、ゆっくりと微睡まどろみの世界に落ちていった。


 目を覚ますと六時半過ぎ。

 ちょうど岡山駅を発車したところだ。

 しばらくすると、車窓に瀬戸内海が広がる。

 瀬戸大橋を通過しているのだ。

 地図で見ると小さな内海。

 でも、自分の目で見てみれば、広大な海が広がっている。

 そこをたくさんの船が行き交っていた。

 雄大な自然と人のたくましさを感じる風景だ。


 午前七時二十七分、定刻通り終点の高松駅に到着。

 思いの外、ぐっすりと眠れたな。

 コストを抑えようと思えば、夜行バスという手もある。

 でも、足を伸ばして寝られるのは大きいね。

 それと施錠できる個室の存在も大きい。

 安全に旅情を楽しみたい女性にお勧めしたい。


 さて、高松駅で下車して、まずはやっぱりうどんかな。

 駅前に早朝から営業しているうどん屋さんがあるんだよね。

 暖簾のれんをくぐって、ぶっかけうどんを注文。

 讃岐うどんならではコシがたまらない。

 この満足感でワンコイン&お釣りあり。

 まさしく「うどんの国」である。


 お腹も満たしたところで海へ……

 ……の前にちょっと寄り道。

 高松駅からしばらく歩き、到着。

『特別名勝 栗林公園りつりんこうえん

 ここは日の出とともに開園するので、早朝から入園できる。

 ちなみに、閉園は日没なので冬場は注意だね。


 日本三名園といえば

 水戸の「偕楽園」

 金沢の「兼六園」

 岡山の「後楽園」

 行かれたことのある方も多いでしょう。

 そんな三名園よりも「風雅な趣がある」と評される『栗林荘』。

 現在の『栗林公園』です。


 回遊式庭園ですので、園内をゆっくりと散策。

 以前行った兼六園は「優美」という感じでした。

 栗林公園は確かに「風雅」という言葉がぴったり。

 どちらが上ということではなく、これは好みの問題かな。

 三名園を楽しめた方であれば、栗林公園オススメです。


 広い敷地に大きな池。

 これは川の伏流水を利用しているとのこと。

 高松市内に流れる香東川こうとうがわの伏流水。

 それが「吹上」と呼ばれる場所から湧き出ている。

 それと紫雲山しうんざんの地下水も利用しているらしい。

 自然を上手に利用しているわけですね。


 この公園、かなり広い。

 途中で休憩。

 庭園を眺めながら、休憩所で買った焼きだんごを頬張る。

 もぐもぐ。幸せ。


 公園には回遊モデルコースが設定されているので、

 それに添って散策するのがオススメです。

 売店や休憩所も所々にあります。

 無理せず休憩しながら散策しましょう。


 栗林公園、とても良かったです。

 そんな公園を後にして、高松駅の方へと戻っていきます。

 そのまま高松駅を通り越し、高松港へ。

 瀬戸内海が目の前に広がります。


 あっ、そうそう。

 高松の街をもっと楽しみたい時は、レンタサイクルがオススメ。

 安価で借りれるし、小回りも利く自転車。

 高松の街を隅々まで楽しめます。

 詳しくはネットで検索してくださいね。


 高松港に来た僕は、フェリーのチケットを購入。

 フェリー乗り場へ向かうと停泊していたのは……

 赤い水玉柄、ドット模様のフェリーでした。

 船内もあちらこちらに水玉柄が施されています。

 船の名前は『なおしま』。

 これから向かう直島なおしまの名前を冠しています。


 一時間弱の船旅。

 瀬戸内海は波も穏やかで、船もあまり揺れませんでした。

 席を離れて、海を望める展望スペースへ。

 潮風が心地良くて、結局直島へ着くまでここで海を眺めていました。

 海っていいなぁ。

 さて、いよいよ『アートの島』に上陸です。


 直島・宮浦みやのうら港で出迎えてくれたのは、直島のシンボル『赤かぼちゃ』。

 芸術家・草間くさま彌生やよいさんの作品です。

 ドデンと置かれた巨大な赤いかぼちゃのオブジェ。

 そして、草間さんならでは黒い水玉模様。

 シンボルだけあって、観光客がたくさん来ていました。

『黄色かぼちゃ』もあるので、お越しの方は探してみましょう。

 他にも建築家・藤本壮介さんの作品などもあります。


 僕はバスに乗って『地中美術館』へと向かいました。

 名前の通り、大半が地中に埋設されている美術館。

 瀬戸内海の美しい自然や景観を損なわないための工夫。

 建築家・安藤忠雄さんの手によるものです。


 この『地中美術館』を訪れた目的は花の鑑賞。

 クロード・モネの『睡蓮』シリーズが展示されているのです。

 写実的でなく、その瞬間の印象を見る者に伝えてくる作品。

 見る方によって評価は異なると思いますが、僕は好きです。


「お前に美術アートが分かるのか」なんて言ってくるひとがいます。

 僕にとって美術アートとは理解するものではありません。

 僕にとって美術アートとは感じるもの。

「この彫刻、何か変で面白ーい」

「落書きみたいな絵……でも、力強い何かを感じるなぁ」

 それで良いと僕は思います。

 細かな知識や難しく考える必要はまったくないのです。


 おっと、のんびりしすぎてしまった。

 禹煥ウファン美術館に行く時間が……

 残念だけど、次に来たときのお楽しみにしよう。


 帰りのフェリーのチケットを購入。

 まだ少し時間がある。

 よし、あそこに行こう。


 やってきたのは銭湯『I♥湯』。

 実はここ、入浴できる美術施設なのです。

 ただ、外見の第一印象は……場末の風俗?(失礼!)

 どこかノスタルジックで、とてもエキセントリックです。

 芸術家・大竹伸朗さんが隅から隅まで手掛けています。


 いざ、入浴。

 わぁ、壁画や浴槽、天井、すべてがアートだ。

 そして、どどんと存在する象。ぱおーん。

 外観とたがわず中々のエキセントリック具合。

 島の方とのコミュニケーションも楽しい。

 いい湯でございました。


 帰りのフェリーに乗船し、離れていく直島。

 あぁ、もう少しゆっくりアート鑑賞したかったなぁ。

 宿泊施設もあるようだし、今度は泊りがけで来たいな。

『赤かぼちゃ』が僕を見送ってくれている。

 さようなら、直島。

 また来ますね。


 高松の夜景が綺麗だ。

 僕は『高松シンボルタワー』にやって来ていました。

 残念ながら、展望台の営業は終了……

 なので、エレベーター展望スペースから夜景を眺めています。


 今日は高松に一泊。

 夕飯は、カレーうどんが名物のあそこへ行こうかな。

 賑やかな瓦町に繰り出す体力はもう無いし……

 明日に備えて早めに休もう。


 翌日。ホテルを少しゆっくり目でチェックアウト。

 駅前のうどん屋さんで、この旅最後の讃岐うどんをいただく。

 そして、高松駅から特急『うずしお』に揺られて徳島へ。


 この旅、最後の締めは長距離フェリー。

 昼前に徳島港を出港して、明日の早朝に東京の有明へ着く予定。

 約十八時間の船旅だ。たっぷりと退屈を楽しもう。

 これが豪華客船だったら言う事ないのだけれども……

 現実は、レストランすらないフェリーだ。

 ここでのご馳走は、多菜なレンチン冷食。

 まぁ、それはそれで楽しみたいと思う。


 船は徳島港を出港。四国の地が離れていく。

 ゆっくりと、ゆっくりと、徳島港が小さくなっていく。

 四国が小さくなっていく。

 別に故郷を離れるわけじゃない。

 でも、何でこんなにも切ないんだろう。

 何でこんなにも胸が痛いんだろう。

 飛行機では絶対に味わえないセンチメンタル。

 海に深く刻みながら、薄く消えていく船の軌跡。

 僕は無言で、ただそれをずっと眺めていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空想旅行 ~高松・直島~ 下東 良雄 @Helianthus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説