第3話 王宮にて(2)


俺は今、初対面の男に見下ろされている。その赤い瞳は全く笑っていない。だが口は恐ろしい程に弧をえがいている。

……この人絶対怒ってる。てか、この顔もどこかで見覚えが………。


「君誰だか知らないけど、」

「あっ、はい」


俺の顔をものすごく覗き込んでくる。距離が近すぎるだろ……。この男、顔はとても整っている。だが威圧が凄すぎて、それどころではない。まじで怖い。


「リト泣かせてたよね?」

「………は?いや、泣かせてないですけど…。」


女の子泣かせるわけないだろ!!泣いてるところに声かけただけだよ!!!本当になんなんだこの男は!!


「そうか……。」


そう言うと男は少し考える仕草をした後、俺の隣に座った。うん。なんで?帰ってくれた方が助かる。


「泣かせてないならいいや。僕の妹と何の話してたの?」

「いや…少し……。彼女泣いていたので、大丈夫かなと思って声をかけただけです。」


そう答えると男は納得したのかしてないのか、よく分からない表情で空を見つめている。


「ふーん……。ところで君、名前は?」

「俺はアステル・ティアウェルドです。」

「あぁ、公爵家の。」


なんとなく納得したように頷く。こいつなかなか表情読めないな……。俺が顔をまじまじと見つめていると男は口を開いた。が、その言葉は予想を遥かに上回るものだった。


「僕の自己紹介がまだだったね。僕はディノセント・クラメキア。第一王子だよ。」

「………おうじ?」


あれ?俺なんか大物と話してない?ていうか、ディノセント…だと?!?!乙女ゲーム攻略対象キャラじゃねーか!!!俺の頭にありえない速度で乙女ゲームの内容がフラッシュバックしてくる。確かに見た事あると思っていたが…。本編では短髪だったが今はサラサラな長髪である。髪色も綺麗な黄色だ。今は本編の1年前だから容姿が違っていても変ではない。キャラ人気投票でも堂々の2位だった。つまり、めっちゃイケメン。そして、リトエールは彼の妹ということは王女……。王女リトエール……?!彼女も乙女ゲームの登場キャラだ。庭で泣いているところを主人公が見つけ、声をかけ、その恩として、リトエールの兄ディノセントに感謝され恋に落ちるという…。その時にちょい役として登場していた俺の推し!!!!確かにそんな名前だったな……。


「おーい」


俺が1人で考え込んでいると急に視界にひらひらとディノセントの手が割り込んできた。


「あれ、僕のこと王子だって知らなかった?じゃあさっき君が話してた僕の妹も知らない?第3王女のリトエールだよ〜。」


彼は呑気に話しかけてくる。いや、今はそれどころじゃないんだって。たしかディノセントルート以外に行くと、なんかこいつ、すごい敵役になっていた気がする.....。キャラの中で1番愛が重かったのがディノセントなのだ。そこが人気に繋がっているのだが。まぁとにかく、今のうちに少し仲良くなってしまってもいいのではないか。王子様だし。しかも、第一王子ってつまり、王太子ってことだろ?仲良くなるに越したことはない。人脈作りは得意なのだ。

そう思い話しかけようとしたと同時にディノセントは立ち上がった。


「僕はこの後公務がある。妹のことを気にかけてくれた君には感謝してもしきれない。また今度茶会でも開くとしよう。」


そう言いながら去っていった。

気にかけたとはいえ、話しかけただけだ。御礼を言われるほどのことなのだろうか。



―――――――――


「今回は茶会に来てくれてありがとう、アステル」


いや、何がどうなったらこうなるんだ?

俺は今、王城の庭で第一王子のディノセントと茶を飲んでいる。女子会みたいだな。これ。

しかも彼は、俺のことを呼び捨てで呼びたい。君も、僕のことは呼び捨てでいい。敬語もなしで構わない。とか言い出した。本当に何があったんだ.....。


「いや、ただ僕は君と仲良くなりたいんだよ。それに今後、僕が即位するとなれば、公爵家の手助けは必ずいる。僕が即位するころには、君ももう公爵家の主人になっているだろう?」


ただ友達が欲しいという理由ではないようだ。しっかりと将来を見据えている。将来有望だな。だが彼の発言で俺はひとつ知ることになった。.......俺公爵家当主になるの?

転生前はちゃんと勉強してたし、成績もそれなりに良かった。だがこの世界ではそんなのも通用しないわけで.....。一から勉強しないといけないやつだな、これ。マナーの講義もあるとなれば少し大変だ。


「なぁ、アステル、今日は来てくれてありがとう」


「こちらこそお招き頂きありがとうございます」


「敬語はなし、と言っただろう?」


ディノセントは悪戯げに微笑む。たわいの無い話をし、そろそろお開きにしようとしている時だった。


「ディノセント!!!そちらの方はだぁれ?」


1人の女性が乱入してきたのだ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何故か俺が乙女ゲームの世界に転生してしまったので、主人公を差し置いてモブ美少女を溺愛します。 らい @coco0103

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ