常闇之神社の社務所日誌・深

裡辺ラヰカ

第1話 配信再開

「最近Mofuhubモフハブでエッチな動画見てるんだけどさ」


 燈篭真王:初っ端エロサイトの話かよ

 しろいきゅうび:天下の邪神が情けない

 ユッキー☆:こっちでいうポンちゃんみたいなもんっすね

 MIKU♡:こらやめなさい

 きゅうび:復帰一発目これ大丈夫?????


 久しぶりの動画配信で、ラヰカはアクセルフルスロットルの開幕を切っていた。

 配信元は常闇之神社という、この三千世界を漂泊する幽世という異世界の神社であり、配信先は妖怪が存在する世界である。なんかこう、主神・常闇様が因果律を操ってうまいことして配信を可能としていた。


 キメラフレイム:ユッキー☆兄貴がエロサイトなんか見るわけないだろ! いい加減にしろ!

 サニー:ノーコメント

 オカルト博士:むしろユッキー☆ニキはフラッシュ動画のえっちなの見てた世代でしょ

 りんりんどー:やめろ博士、その術は僕に効く

 おもちもちにび:にいさん、みそこないました


「でさあ、なんで見るかって言ったら今こっちにきてる嶺慈たちの話を配信しようってことになったんだよな。俺らとしちゃあエンタメになるんならまあいいかって感じだし、向こうにとっちゃ「魂の死」ってのを知ってもらうためとかなんとか」


 レイレイ:魂の死はこの幽世でいう非業みたいなもんだ

 月白五尾:影法師頭領自らコメントとはたまげたなあ

 だいてんぐ:我々もあなた方みたいなのと戦っているので、まあ偵察といかせてもらいましょうか

 隙間女:……本物?

 おもちもちにび:ほんもの。こえのちからで、やまふっとばしてた

 がしゃどくろ:スカイ●ムのシャウトみたいな感じ?

 レイレイ:失礼だな。もっと高度なものだ、と言いたいが概ねその通りだ


「とまあ影法師までこっちにきちゃってほんとに大変なのさ。しかもこいつらのエピソードってなんていうか……まあその、お子様には聞かせられないっていうか……」


 きゅうび:ラヰカさんが時々上げる短編みたいな?

 ユッキー☆:サイトにキレられそうなやつみたいなのか……

 トリニキ:いったい何を書いているんだこの狐は……


「まま、そうだね。レイレイ兄貴は現状悪さしてないし、幽世の連中もレイレイ=頭領とは知らないからなんかハブられたりってのもないけど」


 サンダー:やけに肩を持つんだな

 りんりんどー:僕と同じ可愛い男だからだろ

 レイレイ:ケツ貸せってのか

 サニー:配信中ですよ(怒)

 よるは:ちょっと待っててね


 画面が暗転した。次の瞬間「あっ、こら入ってくるな馬鹿」「歯食いしばって」「待って話せばわかる」ゴッ!「オラ反省しろ」というやりとりがあり、画面が戻った。


 きゅうび:放送事故では?

 よるは:社員教育です

 だいてんぐ:体罰はまずいですよ!

 しろいきゅうび:じゃあ戦闘訓練ってことで流しておいてくれ。襲撃に対する訓練だな

 キメラフレイム:なんて怖い神社なんだ……

 ペガサス:そこに行ったんでしょ、一回……


「いでで……なんで夜葉がスッゲーセンスの悪いシャツ着てたのかそっちばっか気になっちまった」


 ユッキー☆:ナンセンスTって神様も着るんだ……

 よるは:そうかしら。普通に「酒が呑めるどー!」って書いてあるシャツなんだけど

 MIKU♡:一周回って気になる

 ハチミツキ:それ土産売り場でワゴンセールしてたやつだろ……

 見習いアトラ:SDGsだね!

 きゅうび:そうかな……そうかも……

 レイレイ:ていうか俺らの年齢、生前……現世にいた頃に直すとどうなるんだ? 俺は令和七年で十七だ


「俺は現世暮らしだったけど令和七年には幽世に戻ってきてたな」


 燈篭真王:俺は令和七年なら十五、六

 きゅうび:僕はお二人より歳上ですね

 ユッキー☆:なあ、妖怪はどうしたらいいんだ?

 だいてんぐ:それを言い出したら柊様の圧勝になるだろう

 しろいきゅうび:一五〇〇とちょいだったかな……端数は覚えてはおらんが


「そうなるとレイレイは燈真の一個上くらいなんだな。んで、きゅうび兄貴が上、と。なんなら成人してるもんなあ」


 きゅうび:妖怪的な成人にあたるかは微妙ですけれどね

 レイレイ:そっちとこっちじゃ法則が違うんだっけか。俺も八頭怪ってのにお目どおり叶いたいもんだ

 だいてんぐ:本当にやめてもらえますか、収拾がつかない

 燈篭真王:その馬鹿は俺が止めるんで大丈夫です。うまい酒か強い喧嘩相手いれば大人しくなるんで

 MIKU♡:はいはい私がいますよっと

 だいてんぐ:問題児がここにもいますねえ……


「まあ現世旅行は万里恵が落ち着いてからかなって感じなんだよなあ。それか、一回こっちでヤオロズの残滓を掃除して迎える準備をするのもありだが……」


 ユッキー☆:ヤオロズ?


「ん、ああ。復活したんだ、魍魎の王が。なんとか撃退したけど、残滓が飛び散って、みんなで後処理してる。その処理にレイレイの言霊が役に立つんだよな」


 きゅうび:しれっととんでもないこと言いませんでした?

 サニー:ヤオロズ……って、なに?

 サンダーウルフ:全ての魍魎の王様で、超危険な邪龍よ、サニーちゃん。大丈夫、人里への被害はなかったから

 サンダー:姉貴もアカウントとってたのか。まあ、その通りだ。神使総出の総力戦だったが、どうにかなった。境内は少し荒れたが、まあどうせ老朽化老朽化で建て替えなきゃいけなかったしなぁ

 トリニキ:ほーん、こっちでいうと三大悪妖怪が全盛期の力で蘇ったみたいな感じかな

 だいてんぐ:概ねそうだと思いますが、ヤオロズや魍魎は直裁的な破壊をもたらすって言いますし

 ユッキー☆:それで配信止まってたんすね


「そうだねえ。あ、でも一個報告があります。椿姫姉貴、どうぞ」


 ラヰカがカメラを手に取り、彼が巣穴と呼ぶ部屋の土間——その入り口を映した。

 入ってきたのは稲尾椿姫——であるが、その尻尾の数は、


 きゅうび:九尾!

 ユッキー☆:すげえ!

 ネッコマター:私を庇った時に増えたんだよね〜

 しろいきゅうび:とうとう追いつかれてしまった……

 MIKU♡:九尾ってマ?

 レイレイ:なんなら俺も九尾だぜ

 隙間女:多い(多い)

 オカルト博士:モフモフ度合いやばくない? 夏毛でこれ?

 見習いアトラ:桜花君に憑依して尻尾ダイブしたい

 トリニキ:しれっと怖いこと言ってるな?


「っていうコメントが来てるけど」

「別に尻尾くらい減るもんじゃないしいいけど……あ、でも桜花が毎日モフモフしてくるのは本当。私が触ろうとすると怒るくせに」

「悲しいなあ」


 燈篭真王:桜花曰く「おかあさんのモフモフは、ねっとりしてる」らしい

 きゅうび:ねっとり……

 おもちもちにび:ネットリテラシーの、ねっとりのぶぶん……うふっ

 ユッキー☆:ワンモア

 サニー:なんですって?

 キメラフレイム:ねっとりしたもふもふis何

 ペガサス:ねっとりテラシー……


「ねっとり照らしてんだろ。……んで、椿姫って手汗すごかったっけ」

「いや別に……」

「まあなんか桜花にしかわからない嫌なものってのがあるんだろうな」


 サンダー:姉弟みてえだ

 きゅうび:まあ竜胆君たちと義兄弟ならさもありなんって感じですよね

 レイレイ:兄弟、ねえ……

 燈篭真王:俺、少し飲んでくるわ。大瀧さんと東雲と、光希さそって

 サンダーウルフ:遅くならないでね


「俺は?」

「あんたはこっち。配信終わらせたら桜花と菘の相手」


 きゅうび:ガチ姉弟の距離感で草

 ユッキー:ラヰカ姐さんが弟扱いされてんの新鮮だ

 だいてんぐ:久々の配信での近況報告、助かりました

 りんりんどー:こっちも色々大変だけどなんとかなってますよ。現世の方も頑張ってください


「あ、そうだきゅうび君! この前のチャイナドレス可愛かった! 今度は六花ちゃんんんんん!」


 ラヰカが馬鹿なことを言い出すと、椿姫が彼の狐耳をつねった。


 だいてんぐ:チャイナドレス……?


 しれっと、波乱の気配を感じさせつつも、久しぶりの配信は無事終わるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

常闇之神社の社務所日誌・深 裡辺ラヰカ @ineine726454

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ