女達の細やかな生活

白川津 中々

「ありえないんですけどー!」



 そう叫んで丸美は卒倒。零れ落ちたスマートフォンを盗み見ると「別れよう」の一言。今年に入って三回目の恋人との決別である。



 丸美の恋は続かない。原因は全て彼女にある。理由は「風呂入らない」「歯を磨かない」「変な臭いがする」などなど。部屋から干からびた食パンが出てきたからなんて言われた事もあったそうだが、ともかく、丸美は不潔でだらしがないのだ。




「同じ事男がやったら許されるのに女は駄目なんて、理不尽すぎやしませんか」




 これは丸美が振られた時にいつもいう台詞である。この令和の時代、清潔感どころか衛生面が破綻していたら男でもアウトと思うのだが、あえて口に出さないでいる。言っても無駄だからだ。


 こんな時、「男なんかじゃなくて私と付き合っちゃえばいいのに」などという台詞がレズもの漫画にあったりするが、私も彼女の不潔な部分は許容できない。たまにトイレを流さない時もあって非情に不愉快だ(さっきも流していなかった。ここは私の家だぞ)。汚らしい丸美と何故友達をやっているのか、それは私も分からない。




「うーん」


「あ、起きた」


「聞いてよしぃちゃん! また振られたんだけど!」


「知ってる」


「もうしぃちゃん付き合ってよ!」


「絶対に嫌だ」


「どうしてー!」


「汚いから」


「同じ事男がやったら許されるのに女は駄目なんて! 理不尽すぎやしませんか!」




 酒とチーズの臭いがする口からお決まりの台詞が飛び出す。焼酎とキャンディチーズのにおいだ。せめてドンペリとマスカルポーネの香りだったら、もう少し長続きするかもしれない。まぁ、結果は変わらないだろうが。




「しゃあない。きりかえよう」




 丸美はそういって焼酎をロックで煽った。「お前がやるべき事はやけ酒じゃなくて風呂に入る事だ」そう言おうと思ったが心底どうでもよかったのでやめた。目の前にあるグラスに酒を注ぎ、男っ気のない部屋をぐるりと見回す。




 あぁ、彼氏ほしい……




 彼氏いない歴=年齢。

 汚物女と過ごす休日は、辛い。

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