https://kakuyomu.jp/works/16817330656927273343/episodes/16818093091491949726「俺達はこれまで、何も考えずに狩りに出て、飯を食って、ヤパで騒いで、それから寝てを繰り返してきた。狩りができなければ生きている必要がないなんて事も思っていてな。そこらの獣と同じように生きていたと思う」
「……」
「ただ、お前が仕事をやるようになってそれが変わった。生きるために植物を育てたり動物を飼育したり建物を建てたり……それで多くの人間が救われて、食べるものも安定するようになってきた。村の人間は皆、お前に感謝するようになった」
「……」
「俺もその内の一人だ。生活が楽になった事、美味いものが食べられるようになった事もそうだが、弱い人間でも笑って生きていけるようになった。狩りが下手な男や編み物ができない女。年寄りや病気、怪我をした奴らも切り捨てられる事なく皆、生きていていい仕組みができた。これは、なんて言葉にしていいのか分からないが、俺にとって本当に、良かったと思っている」
「……」
「だからよ、もしお前がこのまま動けなくなったとしても心配しなくていい。後は俺や他の人間が何とかする。それだけの事をお前はしてきたんだ。だから、ゆっくり休んでくれ。一人分の飯くらいはなんとかするから」
「……」
「じゃあ、俺は戻る。もし起き上がる事ができたら今日言った事は忘れてくれ。お前には、やっぱり村の指導者になってもらいたいからな」
「……」
夜の闇。静寂の中で、ムシュリタの独白が胸に響いた。