https://kakuyomu.jp/works/16817330656927273343/episodes/16818093091626899770 寝ている場合ではない。時間の限り、方舟の設計に取り掛からなくては!
なにもできなかった時間を取り戻すように俺は駆け出して外にある作業台へ向かった。舟の設計を行うためだ。
造船の経験はないが、木の扱いと造り方は知っている……!
これまでの人生において俺は大工の息子であったし歴史オタクの息子であった。知識は身に付けている。また、ズィーボルトから実践主義の教育を受け、アンバニサルでは技術方面の資格も取っていた。やってやれない事はないと奮起し、木の皮に木炭製の粗末な鉛筆で製図していく。
この作業、非常に効率が悪く、よくよく注意しないと精度も落ちるという非常に困難なものであった。だがそれでも置かれた環境でやらなくてはいけない。人生というのは、いつだってそういうものだ。また、これは経験則なのだが、準備が整い全てが満たされた状態で挑むよりも、何かが不足している時の方がなぜか秀逸な発想や製品ができるものである。逆境の中でこそ叡智は輝くのだろう。まぁそんな状況の中で生きていくのは避けたいものではあるが、ともかく、人はその時々にある手札で勝負をしなければならないのである。この時の俺は、まさにそうであった。