第30話 散策 続

ソラと千代、ラミの三人は孤児院の食糧支援を申し込むため、政庁へと向かった。



元はマルクカを治める領主が執務を行う館だったのを、改修や拡張工事を行って北平帝国弁務官区の中央政庁として相応しい建物にした。



街の景観を壊さないように、しかし見栄えや帝国の政庁としての格を落とさないようにするために、レンガ造りの建物になっている。

土を固めたものや石材が建材の中心である中で、煉瓦を使用した建物は明らかに異様であるが、それが逆に政庁としての威厳や格式の高さを際立てる結果となっている。



政庁の扉を開けて中に入り、受付で用件を伝える。

その際、ラミの後ろにソラと千代が立っていた。



ラミ「すみません。孤児院の食糧支援を申し込みに……」



「あ……そ、そうですか……」



ラミ「……?」



ラミの後ろに立つソラと千代を、受付はチラチラと見ている。

二人は揃って口に人差し指を当てて黙っておくようにというジェスチャーをする。



ソラは食糧支援を行うようにという旨の手紙を書いて受付に渡す。

それを持って受付は裏へ行く。



再び呼び出しがあるまで待合所で雑談をしながら待つ三人。

そこでも、帝国の政策をどう思っているかをラミに聞き、改善点や不満な部分があるかを尋ねた。



しばらくして、受付が戻ってきて呼び出される。

行くと、受付が複数の書類を渡した。



「この書類に、必要事項を記入してください」



ラミ「わかりました」



流石は聖職者というべきか、文字をすらすらと書いている。

書き終わり、書類を受付に渡す。










少しして、三人が政庁から出てきた。

申し込みの手続きが終わったためだ。



ラミ「ありがとうございます!これで、子供たちが飢える心配が無くなりました」



ソラ「気にするな。後で、帝国政府から調査員が送られるはずだ。その者に知っている限りの情報を渡してくれれば良い」



ラミ「はい!」



憑き物が落ちたように、ラミは気持ちの良い笑顔をしている。



三人は雑談をしながら教会への道を歩く。

教会に着くと、入れ口で別れた。ラミは中へ。ソラと千代は政庁へと戻っていった。









北平帝国弁務官区には二週間ほど滞在。

各地の街や村へ訪れては、様子を観察して政策の効果を確認すると共に政府への不満が無いかの聞き込み調査を行った。



途中、ラミのように困った人がいれば、情報を対価にできる限り助けていった。



その後は、南平帝国弁務官区、東魚帝国弁務官区、西魚帝国弁務官区、へと移動して視察を行った。

計一か月の長い視察を終えて本土へと帰還。

いつも通りの政務を再開して三週間が経った頃。



この時、帝国がへイヴリ共和国とウオゲント連盟を併合して、約半年が過ぎようとしている。

半年もすれば、統治は安定し、周辺諸国の動揺も収まり始めていた。



ソラは新領土周辺の状況を知るため、執務室で報告書を読んでいた。



ソラ(やはり、こちらの技術を手に入れようとしてくるか……)



帝国弁務官区周辺の各国は、へイヴリ共和国とウオゲント連盟という二大勢力が滅亡したことで大きく動揺し、帝国がそのまま侵攻してくるのではと警戒していた。

だが、しばらくたっても動かない帝国軍を見て、友好関係を結ぼうと使節団を送ってきていた。

というより、帝国側が使節団の受け入れを停止しており、それが解除されたためというのが正しい。



各国の動きは大きく三つ。



一つは同盟締結。大和帝国は未知の場所から渡来した国だが、話は通じるうえ、高度な技術を有するとあって、同盟を結んでそれらを手に入れようとしていた。

だが、殆どの国が婚姻による同盟を結ぼうと、王女や高位の貴族の子女を差し出してきた。勿論、そんなものは足枷にしかならないうえ、帝国にとって婚姻を結んでまで同盟を締結したい国はいない。

また、通商条約を結んで交易を通して技術を盗もうとした国もあったが、そうなれば経済を破壊して問題になることがわかっているため拒否。

二重帝国とは大陸進出の足掛かりになるため、同盟を結んだに過ぎない。

魅力的な対価を払えないため、同盟締結はお断りしている。



二つ目は帝国の庇護。小国や国家維持に限界を迎えてきている国が、他の国に吸収されるくらいならばと、帝国の庇護を求めてきた。

これは同盟とは異なり、明確な上下関係が生まれる。

帝国からすれば、都合の良い情報源が手に入ると共に、彼らの失われた領土を取り戻すという名目で周辺に拡張もできる。

彼等へは、軍事通行権や駐軍権などを認めた保護国としての立場や、魔法や歴史、地理などの情報を渡すことを条件に、庇護下に入ることを認めた。

各国では、軍事通行権や駐軍権などの認可について揉めに揉めたらしいが、国体の維持や経済活動の自由などを帝国が認めたため、帝国の要求を受け入れた。



三つめは静観。使節団を送るも、その目的は友好を示すだけで特段何もしない。以来、何も行動を起こさない国もいた。

帝国政府では、帝国の隔絶した軍事力を恐れて逆に不干渉を決めたのではないかと考えられている。



ともあれ、ヴァルマイヤート大陸北西部では一時大嵐が発生し、国際情勢を掻きまわすに至ったが、時間と共に沈静化していった。



では、他の場所ではどうだろうか?





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空を見る 夜空の星 @GERMAN444

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