第4話

 使い魔とは、主に魔法使いが使役する魔物のことだ。


 魔物に自分の身の回りのお世話をさせたり、それこそ戦闘で前線に出れない魔法使いの代わりに盾役を買って出たりなど役割は多岐にわたる。


 当然、魔物側にも意思があるため、ちゃんと契約を結んで両者にとって満足のいく関係にしていく必要がある。それでなくても使い魔を使った犯罪が多いからこの辺りはきちんとしないといけない。


 一応僕も分類としては魔法使いに当たるため、Bランクに上がるために使い魔を使役するための免許とか契約を行なう誓約書のようなものをもらっている。もちろん今も持っている。


 だからこの場でこの蒼炎竜と契約を結ぶことで使い魔として居場所を、そして生きる理由を与えることが出来る……という旨を伝えると――



「グオオオオオオ~~~~ッ!!」



 雄叫びを上げて盛大に喜んでくれている……ってことでいいんだよね?



「ナントイウ僥倖ダ! 家族ニ、一族ニ見捨テラレ、死ンダ方ガイイト嘆イテバカリダッタ……アリガトウッ、感謝シキレヌ!」


「ええと……喜んでくれてありがとう」



 強者に対しては心からの忠誠を誓うというのは本当らしい。では手早く契約を済ませるとしよう。


 契約するときの魔法、契約書、自分と相手の名前……名前かあ



「そういえば聞いてなかったけど君の名前はなんていうの?」


「名前……ハ…………言イタクナイ」


「……どうして?」


「名前ヲ口ニスルダケデ嫌ナ過去ヲ想イ出シテシマウ……ダガ、必要ナノダロウ――」


「――リューコ」



 蒼炎竜が喋るよりも先に僕が彼女に指を差してそう告げる。慌てて決めたものだからちょっと安直すぎたかもだけどね。



「……エ?」


「君はこれからリューコだ。女の子だってことは分かってるし、だから……もしかして元からリューコだった?」


「リューコ……リューコ! リューコ! ナント良イ響キダ! 嬉シイ……ソウダ! 我ハコレカラリューコダ! リューコトシテ誉アル生キ様ヲ知ラシメルノダ!」


「そっか……よかった。それじゃあ契約を――」



 誓約書にアルマコード、そしてリューコの名を刻み、両者の納得を得て契約は遂行される。



「僕から君に望むのは……うーん、マニュアルにはなんて書いてあったっけ……ええと、僕が望んで、君が拒否しないようなこと……で、いいのかな?」


「我ガ貴公ニ望ムノハ、貴公ガ望ム全テダ。貴公ガ望ムノデアレバコノ命スラモ捨テル覚悟ダ」


「命を捨てるまでは行かないで欲しいな……」


「ムッ、ソウカ? ナラバ――」


「ああ契約されちゃった……!」



 ちなみに誓約は言葉にしなくても心の中で何となく決めればいいんだけど、やっぱり言葉にしてきっちり決めた方がいいかなって言ってみたんだけど……街に帰ったらマニュアルを見直して契約し直そう。再契約のお金は……まあ、仕方ないか。



「ともかくこれでリューコは僕の使い魔になったよ。これからよろしくね」


「ああ! これから頼むぞアルマコード殿! ……ム? アルマコード殿の言葉が流暢に聞こえるな」


「ホントだ。僕もリューコの声が……契約の作用かな。でもそんなこと聞いてないし……ともかく、これでたくさんおしゃべりできるからいっか」


「そうだなっ! 我もアルマコード殿と仲良くできて嬉しいぞっ!」



 リューコはその大きな首を僕に近づけてスリスリ……というかザラザラ押し付けて擦ってきた。ドラゴンの愛情表現なのかな……ちょっと痛い……。



「さて、これから帰って報告しないと。調査の結果、ドラゴンがいて、それが僕の使い魔になって……ああそうだ。使い魔になったんだから色々買い足さなきゃね。それにリューコが入れそうな納屋を探さないと……」


「なっ! まさかアルマコード殿と一緒に暮らせないのか……!?」


「暮らせ……はするけど、人間サイズってなるとやっぱりその辺りの不自由には慣れてもらわなきゃいけないかな……ごめんね」


「ううっ……」



 リューコは今にも泣き出しそうだ……思えば彼女は幼体だ。普通なら家族の元で親の愛を受けていてもおかしくないのだ。



「どうせならリューコが一緒に暮らせるようなところに引っ越しちゃう? それまでの間も野宿になるから一緒に暮らせるよ」


「ムウ……それは、アルマコード殿に辛い思いをさせてしまうかもしれぬ……そうだ!」



 リューコは頭に電球でも閃かせたのか、両目をかっぴらいてから僕に大きな鼻をずいっと差し出した。



「ど、どうしたの?」


「アルマコード殿、少し頭を当ててくださいませんか?」


「こ……こう……?」



 言われるがままリューコの鱗に覆われた鼻に自分の額を押し付けて数秒――鱗の感触が変わり、それに驚いて後退し、リューコの姿が変わっていくのにさらに驚いた。やがてその姿を僕より頭一つ大きいくらいにまで縮ませると――頭に小さなツノを生やした蒼髪ロングの人間の女性に、しかもギルド長のような大人の魅力たっぷりな姿に変身してしまったのだ。


 つまりは僕の理想の女性だったのだ……素っ裸の。



「わっ、わわわわわわわ……!」


「どうだアルマコード殿っ! これでアルマコード殿と一緒に暮らせるぞっ!」



 リューコが誇らしげに胸の双峰をたゆんと揺らし胸を張って……いるのだろう、僕は両目を両手で覆って顔ごと逸らしてしまっているから分からない。



「どうしたのだアルマコード殿? 裸など先ほどまでも見ていたではないか」


「ええっとぉ~……でもっ、とりあえず服っ、僕のでいいから着て! ……って、着方教えなきゃ……ええと……!」



 その後、てんやわんやありながらもリューコが僕の代えの服を着ることに成功するのだった。

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強すぎるという理由で幼馴染パーティを追放された【鎧術師】だけど、戻ってきてくれって言われたら帰ってくるつもり さくらます @2325334

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