第3話

 ——【鎧術】。


 それは僕の魂に模る魔力に24通りの指向性を与えることで生み出された鎧のことだ。


 鎧は1つにつき1日1分だけ展開できるが、その効果は自分で言うのもなんだけどかなり強力だ。


 相手の攻撃をまるまる吸収して跳ね返すこともできれば、触れることなく相手を倒すことすらも可能になる。


 使うとかなり疲れるからあんまり使いたくは無いけど、その相手はそうも言ってられない。


 何せ幼体とは言えドラゴンだ。幼体ですらB+ランクの危険度を誇る魔物で、僕と言えど被害無しで勝てるかどうかは怪しい。



「落チロ! 矮小ナルニンゲン!!」



 自分と同じ空に浮かび上がった人間を嫌に思ったか、“蒼炎竜”は怒り蒼い火球を連続で撃ち出してきた。



「地面には落とさせない」



 それを僕は鎧の魔法耐性を信じて次々と突っ込んでは炎を散らしていく。そしてその勢いのまま空中移動して蒼炎竜へと翔けていく。


 《朱雀の女帝ルビー・エンプレス》は魔法耐性に特化した鎧だ。マグマゴーレムの身体の溶岩流にも、ブリザードザウルスの氷の吐息だって楽々で耐えられた実績がある。



「グゥッ!」


 

 加えてこの飛行能力の高さは蒼炎竜にとっても脅威に感じたか、そいつは火球での攻撃をやめ、翼を翻して僕へとその鋭い爪を襲い掛からせていた。



(物理耐性はそんなに無いから受けるわけにはいかない)



 僕は爪撃を指の間を縫うように避けてから蒼炎竜の真上にまで駆け上がり、別の鎧を展開する。



「“顕現星鎧タロット・ゾディアームズ”、《女教皇の白虎ハイプリエステス・ダイヤモンド》」



 白銀の虎の装い——そう形容すべき鎧に身を包んだ僕はその鎧から滾る肉体の昂りから空中を蹴り、蒼炎竜へと突っ込んだ。



「空ヲ蹴ルダト!?」



 この鎧は物理攻撃に特化している。僕よりも近接戦闘に強い人が装備すればドラゴンの硬い鱗も貫通できるほどの破壊力を叩き出せるだろうけど、残念ながら僕にはそこまでの力はない。


 けれどその破壊力は殴った蒼炎竜の腹が歪み、風を切って地面へと叩きつけんべく加速していった。



「グオッ……?!」


「まだまだ……!」



 しかし僕はさらに空を蹴って地面へと落ちていく蒼炎竜に飛びかかる。



「ク、ラ、エッ……!」



 苦し紛れに蒼炎竜は口元に蒼い炎を燃やしてブレスを仕掛けようとしていたが、それより早く僕が懐に潜り込み、さらに2発拳撃を喰らわせたため口の中で炎が爆発し、体制を崩して森へと土煙を大きく立てながら落下して行った。



「次は地上戦——」



 カバーしきれない遠くへの被害は限りなく無くなっただろう。そのことに僕は安堵しながらも油断せずに蒼炎竜が落下した煙の近くに降り立ち、再び鎧を展開する。



「《牡牛の魔術師ブルズアイ・マジカ》。《バインド》」


「——ッ!?」



 牡牛の頭をした魔導師の衣装に変わる。


 次は命中率の特化……言ってしまえば触れた相手に必中の攻撃を浴びせられる。


 これを応用して、砂煙の向こうで姿が見えなかろうが手に取るように拘束することができる。


 やがて煙が晴れて、落下によって陥没した森の成れの果てには蒼炎竜が魔法の鎖によってがんじがらめに拘束された姿が映し出される。



「グググッ……動ケンッ、グォッ……!」


「降参しろ。僕も無駄な殺生はしたくない」



 僕は未だ鎖から逃げようとする蒼炎竜に本音でそう告げる。魔物だって生きるために誰かを食らおうと襲っているんだ。できればそんな自然と共存していきたいというのが本音だ。


 冒険者として魔物を討伐しているのは人間も自然の中に存在させるため……なんてどうにしてもエゴになっちゃうな。



「グ…………ワカッタ。降参シヨウ」



 蒼炎竜は素直に僕の言葉を受け入れたので、僕もまたその言葉を信じて拘束を解いた。一応嘘を見破る魔法を使っていたけど、ちゃんと真実を話してくれていた。



「傷も治しておくね」


「ナント……強イコトニ加エ慈悲深イトハ……!」



 僕は鎧の必中効果を使って蒼炎竜を回復した後、僕もまた鎧を解除して彼女と向き合った。



「それで……どうして君はこんな森に縄張りを? 竜ってもっと山岳地帯に構えるものじゃないの?」


「グゥ……ソレガダナ――」



 蒼炎竜はゆっくりと自分の経緯を語っていった。


 曰く、蒼炎竜は一族の中で『落ちこぼれ』の烙印を押されるほど弱い存在だという。そのため、弱い子どもを育てる気もない大人の竜たちに故郷を追い出され、放浪しているうちにこのような遠くの地にまで辿り着いたのだという。


 このあたりの魔物ならば自分より弱い魔物ばかりなため、居場所にも食にも困らなかった……しかし、そんな誇りの無い生活に自分でも苦しみ始めていたのだという。



「……そっか」


「我ニハモウ誇リモ、生キルベキ理由モナイ……殺セニンゲン。我ノ血肉ヲ、鱗ヤ骨ヲ使イ、セメテ貴様ノ糧トシテクレ」


「…………」



 蒼炎竜――そいつの言っていることは理解できている。


 竜とは誇りを重んじる生物だと御伽噺で聞いたことがある。故に強者に殺されることも誉として受け入れ、死して強者に更なる栄光を掴ませる……昔みんなで読んで冒険者に憧れたっけ。


 冒険者になって、今でも目標はドラゴンの装備を一式作ること。ドラゴンはAランクから討伐が出来る……だからこれからみんなでその目標が叶えられた、そんな時に僕は追放された。



「……それは、イヤだな」


「ナニッ……! ナラバ、逃ガスワケモアルマイ……ココデ朽チ果テヨト申スノカ……!」


「そ、そうでもなくてっ!」



 蒼炎竜は悲しそうな声色で抗議する……本当に受け入れちゃいそうでヤだな。


 ただ――これからのことにはエゴがある。


 1つ、ドラゴン討伐はリリィ、ダルク、シエットのみんなで叶えたいものだ。今みんなが強くなろうとしているのならここで自分だけで叶えるのは……後ろめたい。


 2つ、このドラゴンが可哀想に思えた。確かに魔物に同情して逃がして被害を大きく増やさせたという例はいくつも聞いたことがある。僕らも実際やりかけて酷い目に遭ったことがある。だけど……このドラゴンの場合は違う。ただ、自分を受け入れてほしいだけなんだ。


 ほかにも理由はいろいろある。だから……僕は結論を告げた。



「僕の……使い魔にならない?」

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