悲しくなりたい夜に

脳幹 まこと

悲しくなりたい夜に


 悲しくなりたい夜には、虫のことを考える。正確に言えば、虫の死に際の動きを考える。

 虫はもがいてもがいて、それから死ぬ。子どものころ、アリを片っ端から殺して様子を確認した時のことを思いかえす。

 アリを拳で叩くと、あいつらはじたばたと荒っぽく波線のように逃げる。そこに更に拳をぶつける。すると、あいつらはその場でぶるぶると痙攣して、それから死ぬ。

 子どものころ、自分がどうしてあんなことをしたのかは知らないが、今となっては別の気持ちであいつらのことを考える。

 あいつらは溺れるように死ぬ。溺れてもがいてそれから死ぬ。必死に足を動かすが足がつかず、浮ついて死ぬ。

 俺はきっともがいて死ぬだろう。そんな確信めいた予感がある。

 誰にも見られず、じたばたと動かして、出涸らしの生を発露して。


 無性に悲しくなって、心の底から落ちつける――

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