第2話 最初の手紙

【拝啓 親愛なる叔父さんへ。



 僕です。甥っ子の、大野秀一です。



 実は、この僕は、今、異常な事態に襲われています。と言って、学校内での暴力とかイジメなどではありません。



 毎日、見る、僕の「夢」の中の話なのです。



 これが、余りに、不思議で、しかもキチガイじみたエロ話なので、両親にも学校のスクール・カウンセラーにも誰にも相談出来ずに、悶々としておりましたが、叔父さんが、現地の国立大学病院の精神科・心療内科の先生だと急に思い出し、ここに恥を忍んで聞いてみるのです。



 要は、極簡単に言えば、Hで卑猥な夢を、毎日連続で見る事なのです。



 しかも、それが、単なる夢では無くて、あたかも、現実の世界で惹起されたような感覚を、この僕に、強烈に与え続けるのです。



 しかし、叔父さんなら、そう言う夢は、若い男性なら誰でも見るであろうと多分一笑に付されるでしょう……。

 いわゆる、医学的に言う「レム睡眠」時に夢を見る事は、随分前から研究されているのは、この僕でも、良く知っています。



 叔父さんもご存じのように、僕自身が、叔父さんの卒業された現地の国立大学医学部の受験に邁進し、将来は叔父さんのような、精神医学の専門家になるのが夢だとは、昨年のお盆の時に、この僕が叔父さんに宣言していた通りで、その志は今でもまだ、全く、変わっていません。



 と言うのも、僕は、父のように手先が器用では無く、故に、外科医等は難しいからです。



 更に、昨年の夏、叔父さんがこの僕に言われたような、「精神医学」と「オカルト世界」とのボーダーとか境界線の話にも、非情に興味があり、既に昨年ぐらいから、猛烈な、受験勉強体制に入って来ていました。

 叔父さんは、宮城音弥博士の『神秘の世界』(岩波新書)の話を、僕に、話ししてくれましたね。

 僕は、凄く、興味を感じましたね。更に、勉強に力が入りました。



 現在では、既に合格ラインに、到達しているとの自負もあります。



 でも、この僕に、急激な異変が訪れるようになったのは、今年の9月に入ってから直ぐの事なのです。



 もう高校3年生の2学期で、大学の入試勉強も佳境に入って来た正にその頃、僕は、一つ年下の女子高生から、激烈な告白を受けました。



 勿論、彼女の事は、多分、外の誰よりも良く知っていました。



 何故なら、僕の住んでいる家から10数軒しか離れていない所に彼女は住んでおり、町内会も一緒で、小学校時代よく集団登校時に彼女を実の妹のように可愛がり、手を繋いで、小学校へと案内していました。



 ともかく、彼女は子供の頃から、愛くるしく、私らの近所でも美少女で有名で、中学校に進学すると、身長はグンと伸び、両胸も、もうたわわに、正に、アイドル級の女の子に成長していったのです。



 ですが、あれだけの美少女に成長してしまうと、もはや勉強だけはできるけど、あちらの方面には、超奥手の僕には、全く、手が出ません。

 で、いつしか、あれ程仲の良かった二人の間は、徐々に、離れて行きました。



 ですが、彼女は勉強も結構出来て、進学校で有名な、この僕と同じ高校に進学して来ました。



 と、まあ、ここまでは、実は、表向きの話なんです。



 ここで、話が終わっていれば、これから話すような事態は決して起きていなかったでしょう?



 問題は、正に、ここからだったのです。



 次に、その「夢」の一部を書きますが……。とても、親にも、誰にも言えないような話だらけなのですが、現実に、毎夜毎晩、見る夢なのです。



 そして、その夢の中の話は、徐々に徐々に、過激になって行きます。



 今述べた、一歳年下の女子高生が、夢の中では最高に綺麗な化粧をし、それがどう言う化粧品名なのかは僕は知りませんが、真っ赤でラメのように輝く口紅を付けて、この僕を誘惑しに来るのです。



 そして、ここからが問題なのです。



 先ずは、セーラー服を一枚脱ぎ、次に、そのスカートも脱ぎ、更に、一番大事な下着まで脱ぐのです。

 これは、あくまで夢の中の事とは言え、まるで、その行為は、いわゆる俗に言う風俗嬢のようでもあり、現在流行のパパ活女子とも、全く、変わりません。



 ああ、そして、ここからが、更に酷い。



 彼女は、何と、自分の大事なアソコまで、指で大きく開いて見せて来るのです。



 僕も若いので、夢の中では実際に行為に及んでしまい、体液を全て出してしまいます。

 これが、夜、寝る毎に、毎日のように起きるのです。



 まるで、彼女のアソコを「蛇」に例えるならば、僕はその蛇に魅入られた小さな一匹の「蛙」でしかありません】




 うーん、何とも意味深な文面である。



 しかし、甥っ子の秀一君とは、LINEもメルアドもとっくに交換しており、ワザワザ、パソコンでプリントアウトまでして、このような封筒に入れて、郵便局から速達でこの私宛に郵送して来るとは、では、果たしてどう言う意味があるのだろうか?



 ホントに緊急なら、スマホで、電話をかければ済む筈なのにである。



 この事からしても、現代のこの世の感覚から、相当にズレているように感じたのは、この私だけでは、決して無かろう……。



 一つだけ言える事は、以上の事から類推しても、甥っ子の秀一君の、精神に、明らかに、何らかの異常事態が起きている事だけは、間違いの無い事実なのだ。

 それは良く理解出来るのだが、この手紙のみでは、どうにも判別しかねるのだ。



 しかもである。この時代錯誤にも似た手紙のやり取りは、やはり、何処か可笑しいのだ。精神医学を主に専攻して来た、この私の、単なる思い過ごしでなければ良いのだが……。



 ところで、秀一君の父親は、私の実の兄である。



 兄は、超有名国立大学の理学部を出ており、祖父の代から続いていた金属加工の中小会社を、当時の最新のIT企業に業種換えを断行し、時流に乗って莫大な資産を築いたと聞いている。

 その兄の応援もあって、私は、高額な学費がかかる地元の大学の医学部にも進学できたのだ。



 ここは、この兄の恩に報いるためにも、是非、秀一君の力になってやらねば……。



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