魔羊ネエネエとララ・ライフ

豆ははこ

魔羊ネエネエと魔法図書館

『ララ・ライフ』


 偉大なる森の魔女様にお仕えするモフモフで有能な従魔、黒い魔羊ネエネエ。


 魔法図書館へのお使いの日。

 ただ今、考え中。


 その理由は、不思議な文字。


 貴重な文献の名称を記した魔女様直筆の紙を受付に手渡すと、「森の魔女様のお使い様、本をお探しします間、館内でおくつろぎを。館内の地図と、心ばかりの品でございます」


 地図と一緒に差し出されたのが、一枚の魔紙まし

 魔力を込めた紙である。


『頂きますですねえ』

 地図は見やすく、精緻。


 魔紙に書かれていたのは、ララ・ライフという文字だけ。


 ネエネエの魔力を通しても、変化はなし。


『悪いものではないですねえ』

 森の魔女様の完璧な防御魔法が何重にも掛けられ、守られているネエネエ。

 受け取れたこと自体が、この魔紙には問題はないという証。


 ただ、魔法図書館が、単なる魔紙を渡すだろうか。


 ララ・ライフ。


『踊り出したくなることばですねえ』

 魔紙と地図とを両手に持ち、モフモフトコトコ。


 二本足で歩いていたら、館内の地図には書かれていない場所に出てしまった。


『……迷いましたかですねえ』

 キョロキョロと見回すと。


「お客さんだ!」

「モフモフ! 触らせて!」


 ネエネエ、びっくりモフモフ。


 たくさんの本が、浮いていた。


「ごめんなさい、びっくりしたわね」

 すると、本は浮いたまま。


 羽がある、ない。

 角がある、ない。

 色々な姿かたちの、かわいらしい精霊さんが、たくさん出現した。


『本の精霊さんですねえ!』


 精霊さんや妖精さんのお友達もいる、ネエネエ。

 でも、本の精霊の実体に会うのは初めてのこと。


 森の魔女様の蔵書に、かつて本の精霊が宿ったと伝わる書物があり、それを見せて頂いたことがあるくらい。


「モフモフの黒い魔羊さん」

「一緒に踊りましょうよ!」

「フカフカさんのご主人様は素敵な魔女様だね。魔力が素晴らしいよ」


『お目が高いですねえ!』

 魔女様を褒められて、ネエネエはご機嫌モフモフ。


『ララ・ライフ。踊りましょうですねえ』

 くるくる、ふわふわ、もふもふ。


 本に宿ってもらえば、ネエネエが精霊さんを抱っこすることもできた。


 本を抱きしめてネエネエが踊り、実体化した精霊たちは、書物と共に舞う。


「魔法菓子100選。この近くにあるのは魔道具の本の棚だから……」


『魔法菓子100選! ネエネエ、それは是非お借りしたいですねえ! でも、ネエネエは図書館の使用権限がないですねえ。森の魔女様のお使いですからねえ』

 しゅんとしたネエネエに、精霊が優しく声をかける。


「魔羊さんはこの図書館に入れたのだから、100冊くらいは軽く借りていけるはずよ。資格がない存在は、この図書館には入れないのだから」

「魔女さんも、そのおつもりだったんじゃないかな。何かを言われたら、僕たちが味方をしてあげるよ。僕たちは本と友達だから。さあ、もっと踊って。ララ・ライフ……」


『はいですねえ、モフモフフワフワフカフカ、モフモフフワフワララライフ……』

 くるくるモフモフ。


 ネエネエが躍るたびに、ネエネエが好む本が飛んでくる。


『魔蜜蜂の養蜂ようほう技』、『魔女・魔法使いの為の手動で行う掃除の方法論』、『りんごのお菓子大全』、『異世界お料理全集』全三十巻……。


 ネエネエが大好きな分野の本が、どんどんと。

 逆に、『いくさについて』など、ネエネエの好まない本たちは、どこかに飛んでいってしまった。


『ララ・ライフ。すごいですねえ。読みたいご本を探して下さる呪文だったのですねえ。ただ、読まないご本にはごめんなさいですねえ』

「違うよ、モフモフさん。あの本たちは、自分たちの収まるべきところに戻っただけ。大丈夫。むしろ、いつか読んでもらえるかも、ってやる気を出しているよ」


『そうなのですねえ』

 くるくるくる。もふもふもふ。

 ネエネエと精霊さんたちは、たくさん、たくさん、踊っていた……。



「どうぞ、魔女様ご依頼の本と、ネエネエ様ご希望の本でございます。こちら、特製の収納袋でございます。ぜひに、返却時にもお持ち下さい」


 いつの間にか、ネエネエは受付に戻っていた。


 受付の台には、山と積まれた本を瞬時に収納できる魔法の袋。


 ネエネエは、自分の魔羊毛に様々なものを収納できるけれど、ありがたく拝借することにした。


『精霊の皆さんはどこに行かれましたですねえ』

 収納袋に丁寧に本を詰めながら、ネエネエが聞く。


「本の精霊たちは、本を愛し、本を守っております。お友達の来館者様ネエネエ様がお見えになりましたら、ララ・ライフの一言で、姿を見せることでしょう」


『嬉しいですねえ』

 ネエネエは、軽くなった本を収納袋ごと、フワフワ羊毛にむぎゅっと押し込む。


『ララ・ライフ。お友達を呼ぶことばだったのですねえ。また一緒に踊ってくださいですねえ』


「もちろん」

「また来てね」

「待ってるよ」


 どこかから、かわいらしい声がたくさん聞こえた。


 ご依頼の本と、新しいお友達。


 退館するネエネエの心は、フワフワポカポカ。


 森の魔女様には、おみやげ話を楽しんで頂けることだろう。

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魔羊ネエネエとララ・ライフ 豆ははこ @mahako

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