人魚姫は陸に上がらない
続セ廻(つづくせかい)
序
「海へ行こうと思った」
少女の声を聞いて、
声は、青い葉が生い茂る
遠く、山の中に建つ
――プン、とタイチの頭上で小さな音を一瞬立てて、公園に設置された外灯にLEDの光が
公園には道路に面して夾竹桃がずらりと植えられて壁を作り、通り過ぎる人々や車から視線を遮る。夾竹桃の生け垣と反対には、壁の塗装は剥げて地面はぼこぼこになった半面だけのテニスコート。ブランコは脚だけが寂しげに佇み、ジャングルジムが有った場所には穴の痕跡が
大人によって中途半端に片付けられて、それからを後回しにされた空間。地元の人間はよく知る、なんてことのない公園。
「――……」
タイチはそっと身をかがめ、夾竹桃の葉に触れた。重なり合う生け垣のスキマから覗き込む。
白い髪の少女と、黒い髪の少女が居た。先刻の声は、この二人のどちらかであろう。
彼女たちは、到底触れ難い空気を漂わせていた。
「なんて…?」
「…魚住先輩が死んだのは……アタシのせいだから」
「ヒメノさんは死んでない!」
パンッ!
乾いた音が響き、頬を張られた白い髪の少女、
「またヒメノさんが死んだなんて言ったら、今度は二回叩く」
「シンジュちゃん…………」
「ヒメノさんは生きてる!」
新海マヤを叩いた少女、
そんなシンジュの視線から逃げるように背を丸めたまま、マヤはその目に暗い
「…シンジュちゃんも見たでしょ…。凄い、大きな人魚が……魚住先輩のこと」
「まだ死んだなんて決まってない!」
「ッ……」
マヤはじっとシンジュの足元を見つめていた。
マヤの視線の先では鹿の脚のようにほっそりとして、健康的に日焼けしたシンジュの足首がショート丈の靴下から覗く。シンジュの足首にも、マヤと同じようなチェーン、アンクレットというヤツが掛かっていた。
「一人で行ったら…アンタ…死にに行くのと同じじゃん」
「でも…、このままじゃ次の『アカい海』の日に、流宮城との
「わからずや!」
バンッ! とシンジュが地団駄を踏んだ。
「一人で行くなって言ってるの!」
――少女達の
タイチは眉間を押さえて、丸めていた背筋を伸ばし溜め息をついた。そして、思い切って夾竹桃の間へと踏み込んだ。
パキパキ ガサガサ バキッ!
「ッ!」
「なっ……」
木と木の間を割って入ったのだが、何本もの枝を折り、葉ごと地面に落ちて、服が引っ掛かった。
「ごめんな、邪魔して」
タイチが枝に引っ掛かった服を強く引くと、プツッと糸が切れ、しなった枝がガサガサと音を立てて揺れた。シャツにあいた穴に視線を落とし、それから顔を上げると、少女達は引き
「……怪しい者じゃねえさ」
「マヤ! 逃げるよ!」
「シンジュちゃん」
シンジュがマヤの手を掴み、走り出そうとする。だがシンジュは咄嗟に走り出せなかった。
「あうっ」
どさっと音がして、少女はタイチの目の前で脚を縺れさせ、転んでしまう。あ、と片手を宙に上げたタイチの前でシンジュはスマホを取り出した。
「や、通報は待って待って」
「待つわけ無いでしょ」
「君たち、人魚狩りだろ?」
二人の少女が息を呑んで、おおきく
人魚姫は陸に上がらない 続セ廻(つづくせかい) @Enec0n
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