第1話:フレンチトーストの涙

 朝日差す森の中、麻布のテントから光が溢れたところで、少年は目を覚ます。少年が着ていた簡素な服とは違い、可愛らしい花柄の寝着を着ていることに気がつき、顔を赤らめる。

 その時、テントから白髪の青年が顔を出す。

「元気になったか。」

 声を掛けられ、一瞬戸惑うも、何とか声を出し、感謝の意を述べる。

「ありがとうございます。こんなわた…僕を助けてくれて…あと、無理矢理、この世界に呼んでしまって、申し訳ございません。いきなり、で言うのなら分からないのも無理ではありませんが私は…」

「召喚魔術を使って、私たちを呼び寄せた。で、いいのだろうか?」

「へっ!?」

 少年は驚いた。自らの秘密である召喚魔術を知っているどころか、見ず知らずの世界に飛ばされた筈の人が現状を理解できていることに。

「まぁ、落ち着いてくれ。私、いや、私たちは次元を巡る旅人っと言えば、ややこしくなるから、話は朝食を摂りながら話そう。」

「あっ、はい。」

 少年は立ち上がり、自身の胸を見た。小さく華奢だが、胸は寝着に当たっている。少年は自らが男装をしているのがバレたと恥じた。

「すまない、衣服が汚れていたから、衛生上、身体に悪いと感じ、娘に着替えを任せてしまった。訳は聞かないが、何か困ったことや思い詰めていることがあったら、力になる。その気になればの話だが。」

「ありがとうございます。」

 男装の少女は締め付けられた胸を手で覆い、怯えながらも安心した。


 草原についた二人は簡易のテーブルや椅子、そして、料理が並び、残った四人の仲間がいることを見かける。その内の一人である白髪の娘が二人に意気揚々と近づき、笑顔で出迎え、青年に抱きつく。

「お父さん! もう、フレンチトーストが出来ました! あと、彼女、彼の容態は?」

「大丈夫です。あの助けてくれてありがとうございます。」

「いえ、お気になさらないで下さい。当然のことをしたまでです。」

 互いにお辞儀をする彼女たちを微笑ましく思った青年は自己紹介を始める。

「私の名はロード、彼女は私の娘である、いなだ。よろしく頼む。」

「私はトウ・ヒョウラ、武道家をしています。」

「俺はアカシ・レッドリード、元いた世界では騎士をやっている。」

「私は石川…じゃなく、オキヨっていう盗賊しーふ兼侍をやってまーす。」

 男装の少女は驚く。武道家・騎士・侍は高位に属する称号職ジョブクラスであり、武道家や侍に至っては前者は門外不出の秘拳の伝授を、後者は東方の異郷に伝わる西方の大陸ではマイナーな職業であることだ。

 色々、感心していると、いなに声を掛けられる。

「すみません、早くしないとフレンチトーストが冷めちゃいますので、よかったらどうぞ。」

「あの、私、あっ!」

 いなは恐れ多い表情で彼女の手を引っ張り、椅子に座らせる。

 男装の少女は戸惑いながら、目の前にある卵のように黄色く、四角いパンを恐る恐る食べる。

 砂糖の甘味と牛乳のコクが旨味のあるパンに吸収され、最高なるハーモニーを引き出す、そういった味に驚きの余り、緊張の線は解され、涙を流す。

「だっ、大丈夫ですか!? もしかして、お口に合わなかったとか!?」

「いえ、違うんです…懐かしいのです。こんなに優しくされたのを。」

 後にフレンチトーストを食べ切った彼女は泣き疲れ、眠りに堕ち、いなは膝枕をし、彼女を宥めた。


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次元旅譚ロード~異世界世直し編~ @kandoukei

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