次元旅譚ロード~異世界世直し編~

@kandoukei

プロローグ:次元の戦士

 月光差す深き闇夜の森、簡素な服を着た茶髪のボブカットと銀色の瞳の中性的な少年は赤眼の黒き魔狼ガルムの群れから必死に駆け抜け、逃れようとした。左腕の傷を抱え、そこからに滴る血押さえながら。

 しかし、すぐさま、転け倒れ、魔狼ガルムたちは立ち止まり、目の前の獲物を吟味しようと、その少年を見つめ、ゆっくりと近づく。その魔獣たちの余裕に恐れながらも、勇気を決し、手を翳し、呪文を唱える。

「世界を繋げ、時間を重ね、扉よ開け、異なる地の英雄よ、現れ、そして、我らの目に刻めよ!」

 その掌底に青白い光を放つ魔法陣が溢れ出たが、それはすぐに散り散りになった。

 少年は失敗したと失意に暮れ、瞳を曇らし、涙を溢す。そうしている間に魔狼ガルムたちは今にも飛び掛かろうと体勢を整えた。

 失意の奥底に堕ちた少年はふとのように呟いた。

「助けてよ…ユータ…」

 その瞬間、頭上に眩い光が出され、その少年と魔狼ガルムたちは気づき、見上げれば、月を翳すが如く先ほどよりも大きな魔法陣が現れた。

 そして、その魔法陣から五人の人影が現れ、舞い降り、魔狼ガルムたちはあまりの異常な光景に後ずさり、五人を警戒する。

「ここが次の旅路…だな? 引っ張られて来たような感じがするが。」

「お父さん、後ろの人が怪我をしています!」

「なら、聖術で治してあげてくれ。」

「はい!」

 雲と青空のように優しい白髪碧眼の親娘、互いに簡素でお洒落な旅装束を着て、違いは身長と娘の方が髪が長いことだけだ。

「成程、私たちを呼んだのはこの少年? のようですね。全く、切羽詰まっているとは言え、狼の群れを赤の他人をぶつけるなんて、良い迷惑ですね。」

「じゃあ、見捨てるのか? いや、見捨てられないだろ、姫。多少の縁関係なく、困っている者を助けるのが騎士の務めであり、姫も見捨てられるほどの非情じゃないだろ。」

「その通りですね。癪ですけど、見た所、さっきの魔法といい、訳ありのようらしいし、さっさと助けましょう。あと、何回も言いますが、姫と呼称するのやめろ、騎士。」

 姫と呼ばれた水色のメッシュの二本ラインがある青い長髪と水色の瞳を持つ少女は上半身は中華の武道服で、下半身は中華民女服チャイナドレスのようなスカートを持つ青い衣服を着ていた。

 その反対に騎士と呼ばれた赤い短髪と赤目の少年はレザーアーマーの上に魔導師のローブを羽織り、赤い魔導所を腰に抱えていた。

「へぇー、送り狼の亜種ね。西洋系の異世界は毎度飽きないわね。妖怪とは違う、魔物もとい魔獣は面白いものね。」

 金髪金眼褐色肌の美女には額に一本の白角があり、肌と胸が一部はだけた婆娑羅文化の着物を着て、両手に二つの刀を持っている。

 少年は薄れ行く意識の中、五人の姿を見た。その一人である白髪の娘に聖術で傷を癒やされながら、声を掛けられた。

「大丈夫ですか? 他に痛い所や気持ち悪い所はありませんか?」

 微睡む意識の中、少年は白髪の娘に応えようとしたその瞬間、彼女の親である白髪の青年を見ると、彼の身体は光り輝き、顔は白き両翼の仮面に変わり、腕や脚、胴体は透き通った銀色の肌が現れ、胸や関節部分、足には騎士鎧のような水色の外骨格に包まれた。

 その姿は騎士のように勇ましく、天使のように神々しく、しかし、この世のものと思えないほど異形な形をしていた。

 別の現代世界では特撮のヒーローや宇宙人と思えるような姿でもあるが、少年はその世界出身じゃないので知らない。

 少年は傷を癒やされた反動で眠りに入り、それを確認した異形の戦士は内心で安心し、魔狼ガルム相手と対峙する。

「悪いな、私は英雄ヒーローでも、神でも、人すらでもない。それでも…」

 飛び掛かった一匹の魔狼ガルムに異形の左腕から刃が生え現し、首筋を両断した。

「彼、いや、を救う理由がある。」



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