おとうさん
隣乃となり
おとうさん
私の本当のお父さんは、私が三歳の時に亡くなったらしい。
六年前母が再婚して、私には「パパ」ができた。
私は、亡くなった私の本当の父親を「お父さん」、今一緒に暮らしている母の再婚相手を「パパ」と呼んで区別している。でも、普段の生活では「お父さん」のことを考えることはほぼなく、私はママとパパ、弟と四人でそれなりに楽しく暮らしていた。
でも―――
「ひまり、お風呂沸いたよ。」
今、私に声をかけているのは、「お父さん」だ。「お父さん」の顔はよく覚えていないけど、なぜかはっきりとわかる。この人はお父さんだ。
私は首をかしげる。
なんで、この人がいるんだろう。
「しんだひとは、かえれません」前に弟が図書館で借りてきた本に、そう書いてあった。それを急に思い出した。なんでだろう。
その弟は、今どこにいるんだろう。
「パパ」は今日の朝家を出ていったのをちゃんと見ているから、いる。いると思う。
―――本当に?
ママも、いる?
朝、今日は遅くなる、と言っていた。良かった。
でも違うな。あれは、かなり前の話だ。
あれ?
怖くなった、いきなり。今までそんなに怖くなかったのに。
気づいたら外に出ようとしていた。そういえば、私が最後に玄関のドアを開けて外に出たのはいつだったっけ。
ドアを開けようとしたけど、開かなかった。
鍵はかかっていないはずなのに。
突然後ろに気配を感じて、振り返った。
――――お父さんだ。
お父さんは玄関に立って、私を見つめていた。逆光で表情はよく見えなかった。
「しんだひとは、かえれません」
お父さんが言った。よく見たら、笑っていた。
お父さんの言葉は、間違いなく私に向けられていた。
そこで気付く。
私、死んで―――――
ガチャリ、と鍵が開く音がした。
人が二人、入ってくる。その人たちを、私はよく知っていた。
「ただいま」
そう言って笑ったのは、ママと、弟だった―――
『えー、続いてのニュースです。昨日午前■時すぎ、東京都■■区の住宅で母子とみられる2遺体が発見されました。亡くなっていたのは、この家に住む■■貴子さん(44)と■希くん(8)で、現場の状況から、無理心中を図った可能性が高いと―――』
『長女のひま■さん(14)は、■ヶ月前に■宅で自殺していることがわかっていま――』
『また、一家の父親■ある■■智之さん(45)は■週間前から行方がわからなくなっており―――』
おとうさん 隣乃となり @mizunoyurei
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