3日目 話し上手の聞き下手

観客席にいた魔法学園の生徒たちがぞろぞろと闘技場へ降りてきた。2年前に卒業したので見知った顔が何人かいる。


「カムイ先輩!」


一人の男子生徒が俺の元へ駆け寄っていく。


「お!ミカじゃないか久しぶりだな!元気にしてたか?」

「はい!先輩この度は魔王就任おめでとうございます」

「は~、その様子だと今日のこと知ってたな」


彼の名前はミカ、人間とエルフのハーフである。2年前、俺が6年生の時に3年生で生徒会の会計、現在は副会長を勤めている俺のかわいい後輩だ。小柄でショタ顔なためショタ好きの生徒から人気がある。


「やっぱお前も参加するよな」

「あっちで作戦会議してるみたいですけどマキさんやミキさん、ソウタたちも居ますよ」

「だよな~、やっぱ生徒会メンバーは参加するよな」

「ええ会長も参加しますよ」

「……え?マジ!?」

「はい、とても楽しみにされていれていましたよ」


カムイの顔が険しくなる。この世の終わりのように……


「マルガリータが出るとなると余計一筋縄ではいかないな、でもあいつ今年度卒業だから景品の意味無くないか?」

「はい、6年生は生徒会長になれませんが、校長が特例で任命権の効力は卒業しても有効にするとおっしゃっていたので、会長は勝利したら誰かを次期会長にするみたいですね」

(まぁ、ミカお前の事だろうけどな)


生徒会戦で会長に就任したら副会長の任命権を得られる。つまりミカはマルガリータに任命されて副会長になったのである。だから彼女がミカを、生徒会長に任命するのは当然と言えば当然である。

問題はマルガリータがこの戦いに参戦することである。はっきり言うと今回参加する生徒の実力は大きく見積もっても俺の1段階下回っている。それでも2000人相手となるとかなりきついものがある。そして、マルガリータの実力は俺とほぼ同格である。状況によっては彼女が上回るだろう。さらに彼女は生粋の戦闘狂でもある。今年も去年の生徒会戦も彼女が圧勝したらしい。

つまり、ほぼ勝ち目ゼロである……


「おい師匠!こんなの只のリンチじゃねーか!!」


俺が師匠のいる実況席へ反対の意を唱える


「魔王が何言ってるのよ、これくらい私たちなら蹴散らせるわよ」

「お前ら化け物と同格にしないでくれませんかね」

「は~、わがままな子ね、しょうがないから二人の使用を許可するわよ」

「いいの!よっしゃ~!じゃあ来いフウ、レイ!」

「「は~い」」


観客席からふたつの影が飛び出して来る。

白いキツネと黒いキツネの獣人である。


ふたりとは、3年前に、当時の彼女たちが7歳の時、突如として空から落ちてきたのを助けたのが出会いである。どうやらふたりは記憶喪失のようで、どうして空から落ちてきたのか何処に暮らしているのか詳細が分かっていない、獣人の国であるリオや獣人の集落などに聞いてみたりしたがふたりの事を知る人は居なかったので、父親に相談してうちに招き入れた。それ以来、自分の妹のように可愛がっている。


ふたりの戦闘能力は天性のものなのか高く、彼女たちのスキル『錬成トランス』によって俺とのコンビネーションも抜群である。

スキル『錬成トランス』はあらゆる武器に変身することが可能であり、状況に応じて多岐に渡る戦闘スタイルに合わせる事ができる。

更に能力向上のバフをかける事も出来るためふたりがいるだけで俺は何倍にも強くなれる。流石に戦況をひっくり返すほどのものではないが戦略を拡げる事が出来たのが救いである。


「お兄ちゃん!頑張ろうね!」

「終わったらご褒美ください!」

「レイずるい!フウにもご褒美ほしい!」

「わかったわかった、じゃあこれ終わったらケーキ買ってあげるから」

「「やった〜!!」」


ほんとかわいい妹たちである。


「カムイ、分かってると思うけどこの試合中フウとレイの〇〇解除したらダメだからね、ふたりも分かった?」

「あぁ分かってるよ」

「「は~い」」

「解除しなきゃ何やっても良いんだろ?」

「好きにしなさい、じゃあ双方準備できたみたいだからそろそろ始めるわよ」


『只今より、新魔王カムイ様vs魔法学院の生徒2000人によるバトルロワイヤルを始めます。実況は私魔法学院放送委員長ミールと解説には魔法学院の校長兼キャンサーの魔王であるソフィア様でお送りしたいと思います。ソフィア様本日はよろしくお願いします』

『はい、よろしく』

『この戦いどちらが勝つと思いますか?』

『そうね~、レイちゃんとフウちゃんもいることだしカムイが勝つんじゃない?まぁもし負けたらまた、1から鍛えなおしてあげるわよ、ふふふ』


その言葉を聞き、嫌な記憶を蘇らせるカムイは、全身の毛穴から冷や汗を流しながら実況席からサッと目を逸らした。

師匠の修行は俺が今までの人生で経験した事の中でダントツで二度とやりたくない事であるくらいキツいいやキツいという言葉では言い表せない地獄であった。

つまり、負けられないいや、負けてはならない理由がひとつ増えたのである。


『ソフィア様、今回、注目する生徒はいらっしゃいますか』

『そうね~、鬼族の椿や、トロイの孫であるシュウは優秀な生徒だから期待したいわね、特に生徒会長のマルガリータには目を離せないわね』

『そうですね、カムイ先ぱ……失礼しましたカムイ様と互角に戦ったことのある数少ない生徒ですからね、彼らがどんな活躍をするのか楽しみです!』


一方そのころ、他の魔王たちが座る観覧席では、

「魔王諸君、今日は遠路はるばる感謝する、ところでこの戦いお主たちはどちらが勝つと読む?」


リヴァイアがこの試合について魔王たちに勝敗予想を聞いていた。


「カムイ」

「カムイだな」

「マルガリータ」

「この数だと生徒たち」

「カムイ」

「マルガリータちゃん」

「カムイ殿」

「学生たち」

「……」

「きれいに割れたか」

「そういうお前はどっちが勝つと思ってるんだよ、リヴァイア」

「当然カムイだろ、俺の子が負けるわけないだろ、カムイは昔から――」


リヴァイアがカムイの話に夢中になっているのを見て皆が頭を抱えた。


「でたよ、親バカによる息子の自慢話」

「こいつの話長いんだよな」

「無視に限る」

「勝手に話させてあげましょう、それで皆さん戦局はどうなると予想します?」


リヴァイアをよそに話を進め始めた。


「拙者はカムイ殿のスキルの使い分けにすべてが決まると予想するでござる」

「確かに、あいつのスキルは厄介だからな、その分研究のし甲斐があるがな」

「リヴァイアさんが親バカならお前は研究バカだよ、まったく」

「はいはい、私はマルガリータちゃんが活躍すると思うよ、だってミラちゃんの弟子だし」

「……」

「そういえばあの生徒会長はミラさんのお弟子さんだったな」

「珍しいこともあるんだな、人と関わることを避けているあんたに弟子がいるなんてな」

「……そうか?」

「俺的には、あんたと性格が正反対のレイラが古くからの親友だと知ったとき以来の衝撃だったぞ、それで、あんたはどっちが勝つと予想するんだ?」

「……」


ミラが黙考するのを周りが黙って見守る。彼女は白いバシネットで顔を隠しているため表情が読み取れず何を考えているかは分からない。しかし、黙考中の彼女を妨げてはならないことを皆が理解しているため、誰も何も言わなかった。息子の自慢話を続けている親バカを除いて。

時間にしておよそ30秒、その場に居た皆にとっては数十分とも思える時間が経ったのちに彼女は神と辺を持ち出してなにやら書き込み、書いた面を隠すように折りたたんだ。


「私の予想はこれだ、今見ても面白くないから試合が終わったら見せよう」

「粋なことしてくれるじゃないですか」

「ミラ様の結果がどうなのか気になりますね」

「ミラちゃんなんて書いたか私だけでも見せてよ~」

「我慢しなさい」

「ミラさんとレイラさんのやり取りはまるで親子ですね」

「まったくだ」

「あれが序列5位には見えん」

「あなた去年ボコボコにされたじゃないですか」

「そんなことは忘れろ」

「レイとフウの二人がいるからカムイ君は本来の力が発揮できそうですね」

「あのふたりそんなにすごいのか?」

「ええ、見れば分かりますが彼女たちとカムイのスキルとのコンビネーションは抜群ですよ」

「おっと、そろそろ始まるみたいだぞ、ってリヴァイアお前はいつまで息子自慢してるんだよ座ってみようぜ」


未だにカムイの話をひとりで語っているリヴァイアに皆があきれて笑っている中いよいよ戦いが始まろうとしていた。



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