2日目 鴨が葱を背負って来る

『皆様、本日はお忙しいところ、お集まりいただき誠にありがとうございます。本日司会を務めさせていただきます、執事長のアルフィーと申します。どうぞよろしくお願いいたします』


司会のアルフィーの進行の元、継承式は開催された。


『只今より新カムイ=ジェミナイ様の継承式を執り行います。早速ですがカムイ=ジェミナイの御登壇です』


観客席から拍手で出迎えられたカムイは所々に青色のラインが入った黒いスーツ姿に黒いマントを羽織った装いで登場した。それ同時に今度は歓声を送られた。

来賓席、観覧席を見渡すと、見知った顔が何人も目に入り少し恥ずかしく思っている。カムイは軽く皆に手を振った後リヴァイアの横に用意された椅子に着席した。


『でははじめにリヴァイア=ジェミナイ様よりご挨拶をいただきます』


リヴァイアは着席して、マイクの前に立つ。


流石500年魔王を務めて今では序列1位ということだけあって貫禄というかオーラというのか風格がある。皆が彼の一挙手一投足を見守っている。それはカムイもである。普段の父親としての雰囲気とは違うものを感じ、プレッシャーを感じている。


「今日は息子のために来てくださりありがとうございます、カムイが生まれて20年、まだ不安なところはありますが――」


リヴァイアの演説に耳を傾けながらカムイは会場を見渡している。そして疑問に思っていることがあった。


(なぜここで継承式を行うんだ?)


カムイの疑問は当然のものであって、継承式はジェミナイに在る闘技場で行われているからである。普段は決闘や武道大会などで使用される一種の娯楽施設となっている。継承式という由緒正しい式典を行う場所ではない。魔王城の謁見の間や城下町にある広場で行うのが適切だと思う。しかも中央には誰もおらずアリーナにのみ人々がいる。若干嫌な予感をしつつ他の魔王たちが座る来賓席の方を見れば、カムイの考えていることを察したであろう一人の女性が不敵な笑みで見つめてきて、軽くため息をついた。


(めんどくせー)


あの人が一枚嚙んでいるとなれば、このあと間違いなく俺にとってあまりいやとてもよくないことが起こる。俺は過去に様々な面倒ごとに巻き込まれてきたので、この後行われるであろう彼女の企みは大方予想がつく。その上でめんどくさいと改めて思う。


「――というわけで私の話は以上にしたいと思います。」


気づけば父さんの演説が終わっていた。本来ならこの後、父さんから俺へと魔王の座が継承され、俺が演説行って継承式が終わる段取りであるはずなのだが……


『ちょっと待った~!』


という声が会場中を響かせた。それと同時に俺はもう一度ため息をついた。

声の主は来賓席から飛び出して中央へと登場した。


「ソフィア様だ」

「校長だ!」

「あれってキャンサーの」

「今日もお美しい」


彼女の名はソフィア=キャンサー。キャンサーという国で魔王、序列3位を務めているエルフである。また魔法学院の校長でもある。キャンサーはさまざまな国の多種多様な種族の生徒たちが集まる200以上の学校がある学園都市である。もちろん俺もそこの卒業生であり、……副生徒会長を勤めていた。ソフィアと俺は師弟関係でもあり、在籍中は旧友である父さんに代わって戦闘や座学など他にもいろいろ面倒見てくれた。恩は感じているのだが、面倒ごとを押し付けてきて生徒会を困らせていたので、若干の嫌悪感を抱いている。


「さてさて、これから魔王になるカムイ君の実力をここに居るみんなに認めてもらおうと思います」

「おい師匠!なんでそんなことしないといけないんだよ、実力なら学院時代に証明し続けたじゃないか」

「確かに問題は無いよ、でもあなたは序列1位だったリヴァの代わりを務めるんだそれなりの実欲を示さないと示しがつかないだろう、それにこんな試練乗り越えられないと来年のあれで痛い目見るよ」

「あれか~、確かにそうですね、で?俺は今から何をすると?」


十中八九戦うのだろうが試合形式と対戦相手次第で難易度が跳ね上がる可能性がある。そのため内容はとても重要なのである。


「バトルロワイヤルだ!!」

「バトロワか~」

「これから事前に募集したうちの生徒たちと戦ってもらう、カムイは生徒たちに試合復帰不可能及び死者を出さなければなんでもありだ。勝利条件は相手の戦闘不能まさせること。別にお前が死んでも問題ないから生徒たちは殺す気でやれよ、もちろん生徒たちは危険と判断したら降参するのもありだ。無茶はするなよ、カムイもこれでいいよな」

「ええ構いませんよ」


たかだか30人、多く見積もっても100人と戦うのだろうなにも問題ない。学院時代こんなことしょっちゅうあったので慣れっこだ。


「ちなみに生徒たちには事前に伝えたが新魔王を倒したものは次期生徒会長の任命権及び指名権を授与する」

「え!?おいちょっと待て!」


会場にいた生徒たちの歓喜の声が響き渡る。学院の生徒会長はとても名誉あり、学院内で学院長であるソフィアの次に力を持つ役職である。その為、毎年生徒会長戦は生徒たちの間でしのぎを削っている。そんな誰もが欲しがる生徒会長の任命権を欲しくない人などいない。生徒会長を目指すつもりがなくても指名権を利用して誰かを会長にさせることもできるため、この権利を持つだけで、学院内での地位が確立される。言わば学園を支配できるに等しい権利をバトルロワイヤルで俺を倒したら手に入るのだ。ということは俺の対戦人数は……


『さて只今より新魔王カムイ=ジェミナイVSわが魔法学院の生徒2000人によるバトルロワイヤルを開催します!』


……無理だろ!


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ホテル魔王城へようこそ MIL:RYU @MILRYU2780

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