52 世界に向けて再スタートしますか?

 二週間って、短いようで長い。


 元ゲームのプレイヤー特典で、基本ソフトは無料でダウンロードできるから、当然先にしておいた。

 でも、いつも遊んでいる時間に遊べないのって、本当に辛い。

 生活習慣になっちゃってるから、急に長期休暇を貰っちゃったようなもの。

 宿題もないから、特にすることがない。

 みんなとは、予め決めたSNSで話ができるけど、できれば屋台の料理を食べながら喋りたい。ロキさんの串焼きがあれば万全だけど、焼きそばでも可。

 家で蒸し麺の焼きそばを焼いても、なんか違うんだよねぇ……。


 話を聞くに、ワールド版は順調に進んでいるらしい。

 敵になるのは、もちろんアメリカ、中国、韓国、カナダに、ヨーロッパ諸国。

 マップの広さが有るみたいで、まだ接敵はしていないらしい。

 言葉の壁は、特に乗り越える仕様にはなっていないそうな。

 PvPの領地占領が基本のゲームだものね。同陣営で言葉が通じていれば、問題がないという方向性なんだとか。

 対話を持ちたければ、リアルで学べという割り切りが大胆すぎる。

 しかも、理に適ってるのが悔しい。


 待ちに待った、サーバーオープン当日。

 時間通りにアクセスすると……何このアップデート量……。

 こんなに有るなら、前日からアップデートさせてよぉ。

 ありがちな事とはいえ、人一倍長い私の入浴時間を過ぎても、まだ終わらないのは問題だと思うんだ。

 ログインすると、久しぶりに浴衣ガールなアバターと再会する。

 なのに、パラメーターを残して、すぐに消えちゃった。


『種族を選んで下さい』


 ああ、本当にウンディーネな私とは、お別れなんだ。

 新たな種族を選ぶと、私は日本サーバーの『首都』テイタニアに降り立った。

 前回勝者の精霊軍首都が、そのまま日本サーバー首都になった。

 ……のは良いけど、寒い!

 常夏の三角島から、いきなり北半球のリアルに合わせた初冬の気候になってる!

 慌てて、浴衣をウンディーネ時代の初期ワンピに着替えた。この着古された感覚がまた、肌に馴染んで心地良すぎる。

 みんな待ちかねていたのだろう。

 中央広場には、人がごった返している。屋台も出ていないのに、凄い人数だよ。

 知らない人に声をかけるようなスキルは、相変わらず私には無い。

 ぴょこぴょこ飛び跳ねて、知ってる顔を探す。……でも、みんな種族が変わっちゃったからなぁ……。

 あ、いた! 相変わらずの人……というか猫。すあまさんだ。

 私は、恐る恐る近づいてゆく。

 私の知らない人と話してたら、困っちゃうもん。

 あれ? あの大きな斧を担いだドワーフさんってロキさんかな?

 声の感じから、隣りのR18指定が入りそうな感じのエルフさんは、ダリさんかも。

 びっくりさせようと、わざと明るく声を掛ける。


「お久しぶり! 私も帰って来た!」


 なのに、何よ、その微妙な顔は。


「やるだろうと思ってたけど……」

「やっぱり、ケットシーにチェンジしたのね」


 くっ……読まれていたなんて。

 誰にも内緒で決めたのに。


「わーい、サクヤもお仲間!」


 灰猫ケットシー?

 あ、このサークレットって、サーヤ?


「当ったりぃ! ハーフリングがイマイチ可愛くないから、同じくらい速いケットシーにしたよ」

「同族が増えるのは、大歓迎です」


 ウェルカムな笑顔なのは、すあまさん。

『猫飯店』は勢力を増しそうな印象だよ。


「……今度は一緒」


 ツンツンと袖を引くのは、この娘は変わらない。リルだね。

 三毛猫ケットシーな私は、頭を撫でてあげる。

 相変わらずの人たちが、違った顔でログインしてくる。結構楽しいぞ?

 ケインさんも、ドワーフか。ピノさんは、ハーフリング。紬さんはエルフ。

 なぜか、人間をやりたがらない人たち。


「工房はそのままだよ?」


 と聞いて、確認しに久々の我が家……ならぬアトリエに帰る。

 キャトル君、久しぶり。

 隣りに、人族からせしめた赤ゴーレム君がいて、首に『あかねちゃん』と書かれた札を下げてる。

 リルの字だね。可愛い名前にしたものだ。

 茜ちゃんに合わせて、キャトル君もポーズを取らせる。

 二体のゴーレムの両手で、大きなハートを作っておこう。リルが喜ぶ顔が見えるよう。


 それを確認したら、居ても立っても居られない。

 私は息を切らして、宝石工房に駆け込んだ。


「やあ、サクヤ。ずいぶん僕らに近くなったね」


 カウンターの中から、カーバンクルのカー君が笑いかける。

 良かった……カー君も変わらず、そのままだ。


「中身は一緒だよ、安心して」

「それは安心して良いのかな、悪いのかな……」


 なんて、意地悪を言う。

 つるんとライチの皮を剥いて、味わいながら。

 全く変わらない。ここがきっと私の居場所だ。

 世界戦なんて嘘みたいな、穏やかな空間がここに有る。


「接敵はまだ先だけど、ジュエリーは準備に時間がかかる。決して用意を怠らないように気をつけるんだ」

「うん、頑張るよ」


 カー君のサムアップ……ならぬ肉球アップに、ついに私も肉球アップで応えられるようになった。念願だったんだから!

 海外勢とのPvPがどんな感じになるのか? 正直な所、私には何も解っていない。

 でも、いがみ合うんじゃなくて、楽しく戦えたら良いな。


 実は今、磨き上げ済みの大粒のルビーがひと粒有るの。

 魔法攻撃プラス3を重視するか、物理攻撃のプラス3を重視するか、悩んでる。

 ダリさん用にしても良いけど、『暴風ブラストウィンド』ばかり強化していると、いろいろ言われそうだし……。


 この宝石をどうしよう?


 それを相談する為に、私はみんなの待つ中央広場に戻った。



『サクヤのジュエリーライフ』 完


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新作

「ふよふよ~付与魔道士は全て他人任せ~」

公開しました

https://kakuyomu.jp/works/16818093082491139472

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サクヤのジュエリーライフ~PvP領地征服RPGの中心で宝石を愛でる~ ミストーン @lufia

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