第56話 ラビリンの舞
扉をあけた瞬間、全員が一心不乱に走った。やけに廊下が長い。しばらく走ると、ソフィアラが息を切らした。
「レル。なんで、ここ、こんなに長いの? 地下ってこんなに広いの?」
「遺跡はほんとの空間とは違うみたいなんだ。小さい祠のなかに大きな闘技場があったりするし」
「だからって、こんなに長くなくても……」
それじたいが試練なのだ。きっと、ガーゴイルが大きくなりきらないうちに走っていける体力と勇気が求められている。でも、子どものレルシャたちにはキツイ。呼吸を荒げていると、急にラビリンが四つ足体勢になった。
「マスター。おさきに失礼します。キュルリン」
「あ、うん……」
とたんに、ラビリンが猛スピードで前進する。速い。速い。さすがはウサギだ。放たれた矢。いや、急降下するハヤブサ? 四頭立ての馬車より速く走るものを、レルシャは初めて見た。
「わぁ、スゴイ。もうあんなに遠くなっちゃった」
「野ウサギがキツネから逃げるときの速さね」
「あはは。そうかも」
レルシャたちがまだ廊下の半分しかたどりついてないころに、ラビリンはすでにガーゴイルの鼻先まで到達していた。
「キュルッキュル〜。ピュルッピュルッ〜。キュルルルル〜。からの〜戦神の舞!」
助走をつけたそのままの勢いで、ラビリンはとびあがり、まわしげりを放つ。まだ奥の扉からほとんど歩いてなかったガーゴイルはとても小さい。キレイに頭部にくらって、コトン……と床に倒れた。
「あ、動かなくなったね」
「もう終わったんじゃないの?」
はぁはぁ言いながら追いついたときには、とっくに終わっていた。ラビリンが両前足で耳のお手入れをしながら待っている。
「ラビリン。おつかれさまぁ。ありがとう!」
「キュルルン。ラビリン、マスターの一の……二の従者ですからね」
やっぱり、ほんとは一の従者でありたかったようだ。
「ラビリン、ほんとは強いのに、なんでふだんは歌うだけなの?」
「もっと踊ってほしかったですか?」
「歌って踊ってくれるといいかな」
「ラジャです。キュル」
ガーゴイルの像をまたいで、奥の扉をあける。いつものように祭壇があった。女神の像に祈ると、たしかに護符の才光の玉が二倍に増える。
「大玉が六つになったー!」
「ええー! レルシャ、強い。それって、並玉六百個ってことだよね?」
「ソフィも増えたね」
「まさか、レルにぬかれるなんて……」
玉を数えあっていると、女神像の前でカタンと音がした。見れば、鍵が光っている。
「あれ? 鍵だ」
そういえば、ずっと前、スピカが話していた。たまにだが、一つの遺跡を解放すると、次の遺跡へ行くための鍵が手に入ることがあると。
(マーブル模様に光った扉……次への鍵。チャレンジ数も多い。それに……)
女神像の奥があわく光っている。レルシャが鍵をとると、その光は強くなった。黄色の光だ。
「女神さま。ごめんなさい! ちょっと失礼します」
女神像をどかしてみる。小型の木造なので、さほど重くない。祭壇の奥の壁に扉があった。真四角の小さなくぐり戸だ。大人でも、はってなら入れるだろう。
「やっぱりだ。この遺跡、何層も重なってるんだ。白、黄色、たしか、ピンクと赤、緑もあった気がする。五色ってことは、五つの遺跡がつらなってる!」
扉に手をあてても、条件はない。赤い点滅もない。
黄色はまだ解放したことがない。スピカは上級の遺跡で解放するときに必要なもの……精霊石だったかをもらえると言っていたような?
「ラビリンのおかげで、ガーゴイルとの戦いがあっけなくすんだし、行ってみよう。そうすれば、ドラゴンに勝てるかもしれない」
ドキドキしながら、鍵穴に鍵をさす。カチリと音がしてまわった。扉をあけると、急になかがせまい。かがんで一列になって移動する。すると、目の前に扉が現れた。
「ん? 女神さまの像があるのかな?」
あけようとするものの、あかない。
「ぬおーっ! めっちゃひさしぶりの客じゃー!」
扉のむこうから、しわがれた声がする。いや、わめき声と言ったほうが正しい。
「わぁっ! ビックリした。遺跡のなかに人がいる?」
「なんじ、精霊の加護を受けし者か?」
「えっと?」
「精霊の加護を受けし者かと聞いておる」
「えっ……どうなんだろう? わかんない」
「ええーい。もどかしい! ここは嘘でも『はい』と言っとくもんじゃ! はいと言え。はいと」
「は、はい」
「よかろう。では、精霊の宝を進ぜよう」
扉がひらき、すきまから枯れ枝のような手が出てくる。長い黒い爪がある、ふしくれだった細長い指。皮膚も緑色に見える。
「えっと……」
「手を出すがよい」
「は、はい」
素直に手をさしだすと、その手のひらに黄水晶のような金色がかった玉が落とされた。
「わぁっ、キレイ。ありがとう」
「む? もう一人おるのか? なんと、この二千年、誰も来なんだというに、一度に二人も客が来るとは。
「はい」
今度はソフィアラが手を出す。そこにも同じ石がコロン。
「ありがとう」
「うむ。ではな。精進するのだぞ。さすれば、またどこかの遺跡で我に会えるであろう。ああ……本日は久々に声が出せて清々したわい。さらばじゃ!」
手が消え、扉が閉まる。
「あれ? これで終わり? 鍵は?」
「おお、そうじゃった。二千年ぶりゆえ忘れておった。ほれ」
再度、扉がひらき、例の緑の手が鍵をさしだす。
「あ、ありがとう……」
「では、今度こそ、さらばじゃ」
扉がしまる。それを待っていたかのように扉が光りだした。今度はグリーンの光だ。
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解放のレルシャ〜最弱少年、追放スローライフのはずが、じつはカスだと思われた『発見』スキルが最強だった。兄を再起不能にし、幼なじみ(銀髪美少女)をさらった魔族をゆるしません〜 涼森巳王(東堂薫) @kaoru-todo
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