第55話 ガーゴイルがやってくる



 長い廊下を歩いていくと、奥に彫像が見えた。コウモリのような羽のある竜の像だ。そのうしろの扉を守るかのごとく立っている。とても小さい。


「可愛い像がある」と、ソフィアラが微笑む。

「さっきのドラゴンに似てるね」


 なんて話しつつ、のんびり歩いていく。


「つかまってるとき、乱暴されなかった?」

「アラミスさまが守ってくれたから平気」

「兄上、大丈夫かなぁ……」

「うん。ぶじだといいよね……」


 そんな会話のあいまに、チラリと奥の扉を見ると、竜の像がなんだかさっきより近づいている気がした。サイズも大きくなっている。さっきの倍とまでは言わないが、1.5倍くらいには。


「ん? あの像、ちょっと近くなってない? それに、ひとまわり大きくなったよね?」

「えっ? あら、ほんと」


 立ちどまって、じっと見る。しかし、像は微動だにしない。


「なんだ。気のせいか。そうだよね。彫像が動くはずないもんね」

「そうね」


 二人で声をあわせて笑う。それだけのことが楽しい。やっぱり離れているあいだ、さみしかった。いつもずっとそばにいた人がいなくなるのは。それも、大好きな人だ。大人になったら結婚したいと思っていた。その夢も一度はついえたが、今なら……。


「ソフィ。あのね」

「うん。何?」

「えっとその……」


 やっぱり、兄上の妃になるのはやめてほしい。自分のお嫁さんになってほしい。そう言いたいのに、てれさくさくて言えない。もじもじしていると、ニャルニャがさわぎだした。


「なっ? なー!」

「どうしたの? ニャルニャ」

「ななー!」

「マスター。彫像が動いてるって、ニャルニャが言っていますよ? キュルキュル」


 見ると、たしかに、さっきより近くなっている。それに一段と大きくなった。


「あ、あれ?」


 でも、じっと見ていると動かない。


「もしかして……みんな、ちょっと、像から目をそらして」

「うん」

「なー」

「キュル」


 みんなが顔をうつむけたあと、レルシャもそっぽをむいた。でも、顔はよこにむけながら、眼球だけを動かして、視界の端で彫像を見ている。すると、思ったとおりだ。こっちが見てないすきにだけ像は動いている。だんだん、こっちに近づいて前進してくる。しかも、近づくにつれて巨大化していた。最初はレルシャより小さかったのに、今では三倍くらいの高さだ。


「あいつ、こっちに来てる!」


 ソフィアラが眉間にしわをよせた。

「ねぇ、レルシャ。ここって、ガーゴイルが出るんでしょ?」

「そういう話だね」

「ガーゴイルって、もともと怪物の像のことだよね?」

「……」

「……」


 レルシャは血の気がひく思いだ。

「あいつがガーゴイルなんだ!」


 ドラゴンの像だと思ったから油断していた。ドラゴン型のガーゴイルなのだ。しかも、じょじょに大きくなっている。こっちに来れば来るほど巨大になっていくのだ。


「あれを倒さなくちゃいけない。これ以上、大きくなったらマズイよ。みんな、走れ!」


 あわてて、かけだした。

 ガーゴイルももう自分が動く彫像だとバレたと悟ったらしい。太い足でドスドスと走りだす。


 出会ったのは長い廊下のまんなかあたりだ。ガーゴイルは天井に頭がつっかえそうに大きくなっている。ドンと石の尻尾でふりはらわれて、意識が遠のいた。気がつくと遺跡の外だ。階段下の扉の前で全員、仲よく気絶していた。


「イテテ……ひどいよ。ガーゴイルって、あんなに強いの? あれじゃ本物のドラゴンと変わらなくない?」


 レルシャはぼやいたが、気づいてはいた。


(でも、最初は小さかった。初めのサイズのままなら、さほど強くないんじゃ?)


 それに以前、兄が倒している。そのときの兄の生命力は1000ていどだ。今のニャルニャと同等くらい。それなら、レルシャが勝てないはずがない。


「やっぱり、そうだ。あいつが小さいうちに倒さないといけないんだ」


 だから、この遺跡のチャレンジ回数はふつうの遺跡の倍もあるのだ。一、二度は倒される前提なのだろう。


「きっと、兄上は一人だったから、最初からずっと走ってたんじゃないかな。それで、かんたんにガーゴイルを倒せたんだ。ぼくらも走るよ」

「わかった」

「ニャ!」

「キュル!」


 さっきはのんびり話しながら歩いてたから、ムダに像を大きくさせてしまったのだ。

 次こそはガーゴイルを倒して解放させる。

 レルシャたちはうなずきあうと、扉をひらいた。

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