十章 砦の解放遺跡
第54話 地下解放遺跡
レルシャにはラビリンとニャルニャとグレーレン、そしてソフィアラがついてきた。正確に言えば、ニャルニャはドラゴンにふっとばされて失神している。それをレルシャがかかえていた。階段をおりながら、蘇生魔法をかけると、ニャルニャは目をさました。
「なぁ……」
「ごめんよ。ニャルニャ。ぼく、もっと強くなるからね」
「なぁ」
心配ないよというように、ニャルニャが頬ずりしてくるので、思わず涙がこぼれてくる。
(兄上、足が……ドラゴンに食べられて……両足とも)
それに、ウーウダリは助けると言ったが、すでに生きてない可能性だってある。さっき、スピカが白竜の姿になってとびだしていったとき、黒竜は兄をつかんでなかった。丸ごと食べてしまったあとだったのか? それとも、どこかへほうりだした? どっちにしろ、生きてないか、生きていたとしても命にかかわる大ケガだ。
レルシャは歯をくいしばって走った。一刻も早く、みんなのところへ帰らなければならない。一階までおりると、たくさんのワニ兵士がたむろしている。
「レルシャ。ここは、あたしに任せろ。おまえはさきへ進め!」
「ありがとう。グレーレンさん。必ず、ぶじていて。ぼくが戻ってくるまで」
「あったりまえだ!」
グレーレンの強さなら、ワニ兵士がどれだけ集まっても問題ないだろう。ここは彼女に任せて、一分一秒でも早く、遺跡を解放させ、屋上へ戻ることを優先させた。
地下一階の食料貯蔵庫。地下二階牢獄。見張りは多少いるが、レルシャの魔法やニャルニャの攻撃で、あっけなく、かたがつく。ソフィアラが感嘆していた。
「レルシャ。どうしたの? いつのまにこんなに強くなったの?」
「ぼくのスキルだよ。解放遺跡の扉を発見できるんだ。だから、たくさん解放した」
「すごい!」
この人のために強くなりたいと願った。ソフィアラを守れる男になりたいと。そのソフィアラに褒められると、くすぐったいような心地になる。同時にとても誇らしい。
「でも、もっと強くならないとね。あのドラゴンをなんとかしないと……」
正直言えば、ここの解放遺跡は数値を二倍にするシンプルなものだ。レルシャの能力が二倍になっても生命力約6000。ドラゴンを倒すにはこの十倍強くなければ、どうにもならないだろう。それでも、賭けてみるしかない。
ようやく、地下三階への階段にたどりついた。そこは魔物たちに、さして重要だと思われてないのか見張りさえいない。薄暗い階段をおりていくと、つきあたりが扉だ。古代文字が刻まれている。
「もしかして、この扉、ソフィたちには見えてないのかな?」
「なー」
「キュル……ただの石の壁ですね」
ラビリンは解放遺跡から出てきたのに、ほかの遺跡の扉は見えないらしい。やはり、発見の力でレルシャだけが見えている。手をあてると赤い点滅があった。なかにいるのはガーゴイルだ。それは覚悟の上である。
が、それなら、これはどういうことだろう?
なぜか、この遺跡じたいの光が奇妙だ。いつもの白い光のほかに、ほんのりとだが、ピンクと赤、緑、それに黄色の光がマーブル模様みたいにまざっているのだ。
生命力の条件はなかった。ただ従者が三人という縛りはある。そして、チャレンジ回数が四回と、ふつうの遺跡より多い。
「なんか、変わった遺跡だな。でも、行くしかないね」
そのときだ。妙な顔をして、ソフィアラが口をひらく。
「ねぇ、レルシャ。この扉、わたしにも見えるよ?」
「えっ? 見えるの?」
「うん」
「じゃあ、ソフィもいっしょに入れるね。大丈夫。ぼくが守ってあげるから」
「うん」
扉にあてたままの手に力をこめる。スピカがいないので、遺跡のなかが暗い。
「ちょっと待って。レル。ここに松明がある」
まだ扉をしめてなかったので、ソフィアラが走っていって、階段の途中にかけられた松明をとってきた。それでやっと、なかが見渡せる。いつもより、だいぶ広い。条件なしにしてはずいぶん立派な遺跡だ。長い廊下を美しいレリーフや壁画が飾っている。黄金の
「うわー、この遺跡、豪華だなぁ。数値二倍だけにしては、すごく丁寧に造られてる」
「そうなの?」というソフィアラは何もかも物珍しげだ。
松明の照らす明かりのなかに肩をよせあっているので、自然と手をつないでいた。すると、ソフィアラが言いだす。
「ねぇ、レルシャ」
「うん?」
「ひっぱたいてもいい?」
「え? ええー? 何、急に言いだすの?」
「だって、だって……」
ソフィアラが立ちどまるから何かと思えば、大きな瞳からボロボロ涙があふれおちている。
「だって、わたしのこと嫌いって言ったから!」
泣きながら、ソフィアラはレルシャの首に抱きついてきた。一刻を争うときだが、レルシャの足も自然に止まる。
(神さま。今だけゆるして。ほんの一分でいいから)
おずおずと、ソフィアラの背中を抱きかえす。言葉なんていらない。ただそれだけで、二人のあいだにだけ通じる何かがあった。
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