第12話 エピローグ

 砦は、忽然と消失した。

 マンフリードとの対決を、最後の試練として課した“魔剣の迷宮“は、新しい主人を正当な所有者として認め、その役目を終えたのだった。


 翌日からアマーリエはシュナイダー侯爵を名乗り、近隣の住民たちの元を訪れ恭順を誓わせる、という行脚に取り掛かる。それは翌年春までの時間が充てられ、辺境中央地域の支配権を確立することに成功するのであった。


 神殿に設けられた鐘楼から、二人のエルフが新たな領土となった町の様子を眺める。

 秋の乾いた風が、二人の髪を靡かせた。

 二人の他には、誰もいない。

「なぜ、リョースアールヴのあなた様が、あのような者たちに忠誠を示すのですか?」

 レオノールは少女のような声で、冷たく問う。

「忠誠?とんでもない。雇われているのですよ。これは、仕事です。二年の後、彼女の国を取り戻す、そういう契約です」

「なぜ…そんな約束を」

 ロロ=ノアは笑った。

「私にも、仕事は必要ですよ。こちらの世界で暮らすには、金が要るのです。より多くの金を得るには、地位や名声という元手が必要です。ですから、私は諸侯を相手に、紋章官という仕事をしているのです。もっぱら、紋章官よりも、キングメーカーという名で呼ばれていたりもしますがね」

「私には、理解が及びません。なぜ、“こちら“で暮らすのか…それは、興味本位から…でしょうか?」

 ロロ=ノアは、町をゆく荷馬車を眺めながら、しばし沈黙した。

「…望んで来た訳ではありません…そうですね…あなたには、話して差し上げましょう。私のつまらない昔話をね…あなたの知る通り、私はイモータルの住民でした。今のあなたよりも、もう少し若い頃、私は才能に恵まれ、肩で風を切る粋がった世間知らずの少女でした。その私が、コロニーを破滅へと導いたのです…」


 モータルワールドと呼ばれる物質界と、イモータルワールドと呼ばれる霊界は、一つの星に並立して存在している。だが、定命の物質と不老の霊体、その二階層に世界が二分されている訳ではない。境界が曖昧なまま、幾重もの層を成して存在していた。深度が浅いほど、時間の影響を受け易く、深度が深くなるほど、永遠に近しい。

 生命体とは、複数の命と死骸の集積体であるが故に、どのスケール感で見るかで、“個“とする対象は変わってくる。それは宇宙でもあるし、銀河でもあるし、星でもあり、微粒子でもある。が、ロロ=ノアの話を理解する上では、彼らのハビタブルゾーンである星を基準とし、“人間大“を個とするグランドスケールが今は望ましい。

 その人間大である“個“が存在する層の深度を“座位“と言う。個は座位に縛られており、大きく深度を移行することは無く、少しの移行に成功しても、そこに長くは留まれない。素潜りで海に潜行するようなものだ。

 座位が近い者同志は、互いを認識することができ、天候や地形、植物、構造物なども共有する場合がある。逆に座位が遠くなれば、同じ座標にいても、全く異なる世界にいるのと変わらなくなる。

 ロロ=ノアがいた世界は、人間たちの目には見えず、地形も異なるほど、座位が遠い場所にあった。


 そこでは昼間でも星が瞬き、太陽からの風は空を舞う羽衣となり、星を回遊する精霊たちは水を巡らし、森を育てる。リョースアールヴたちは、豊かな森の恩恵と精霊たちの加護のもと、永劫の時を平穏に暮らしていた。主食はレンバスという焼き菓子で、その材料には森にある全ての動植物が用いられる。彼らにとって、毒草の類は伝説上の存在であった。肉もそれに含まれる。ロロ=ノアがいた集落で好まれたのは、ケルノーという子鹿のような草食動物だ。

 ケルノーはアールヴの体臭に敏感で、年長者の体臭よりも若者の方が、気付かれ難い。だからケルノー狩りは、若者たちの役割であったのだ。ロロ=ノアは同世代の子どもたちと共に、手製の弓矢を担いで狩りに出た。アールヴが天敵であるケルノーは、集落から遠く離れた地にしか生息しない。通常ケルノー狩りは一ヶ月から半年を要したのだが、定命を持たず、森にいる限りは食に苦労しない彼らにとって、その時間を人間と同じように認識することは無かった。


「南の氷の大地の底には、巨大な蛇が住んでいるらしい。その口は、あまりに巨大すぎて、なんでも村を丸ごとひとつ、飲み込んでしまったという」

 仲間のひとり、ウゥ=シェリが大げさな仕草で話を盛り立てる。

 狩りに出て、どれほど経っただろう。七色に輝く夜空を眺めながら、若者たちは草原に円になって横たわり、たわいの無いおしゃべりに興じていた。

「じゃぁ、飲み込まれ人たちは、腹の中で生活を続けているのかな?」

「そんな、馬鹿な。消化しなかったら、何のために食ったんだ?」

「うーん…ペットとして?」

 ウゥ=シェリの言葉を笑い飛ばし、ロロ=ノアは話題を変える。

「じゃぁ、こんなのは?…森のどこかに、黒いアールヴがいるらしいって話!」

「あぁ、聞いたことがある!スゥ=ルゥが言っていたんだ。単独で生きる“デック“たちの話を」

「単独で生きるなら、ツガイにはならないのか?」

「単為生殖できるという話もある」

「それって、どういう意味?雄と雌の区別がないの?」

「知らないよ、見たことないし」

 ロロ=ノアは、皆を揶揄った。

「とても好戦的で、残忍らしい…もし出会ったら、私たちなんてみんな殺されちゃうほどに」

「ロロよりも、獰猛なのか?」

 ロロ=ノアは、そう言った男の足を蹴って笑う。

「ほら、やっぱり、獰猛だ!」

「デックは、アールヴを殺せる毒の製法を、知っているって噂もあるわ」

「森は、アールヴにとって命だ。その森で、僕たちが死ぬことなんて、本当にあるのかな?」

「そんな呑気なことを言っていると、デックがやってくるわよ!」

「怖いよぉ、ママぁ〜」

 ウゥ=シェリがふざけ、若者たちを笑わせた。

 巨大な動物、獰猛な獣、嵐や雷など、アールヴを殺す要因は存在する。だが、枯れることのない多彩な食用植物と動物たちに満たされた森では、食に飢えることなく、永遠に近しい寿命を持つ親が獲得した免疫は、その子どもにも受け継がれ、よって病にも、毒にも耐性が強い彼らにとっての死とは、遠い存在であることに間違いはない。長老たちが時折取り憑かれる“心を壊す病“が、最も現実的な彼らの死だ。心を壊した者は、身体を細かく分解されて、一族の縁深き聖地へと運ばれ、埋葬される。ロロ=ノアがもし死ねば、脳と眼、両肺、肝臓、膵臓など、それぞれ部位ごとに埋葬される場所は、生まれた日よりすでに、決まっているのだった。

 それから狩人たちは、大人同士のツガイの予測など、たわいの無い話で盛り上がり、やがて一人、またひとりと寝息を立て始めた。


 夜明け前、ロロ=ノアは目を覚ます。

 精霊たちの囁きを聞いたからだ。

 彼女らの意識を察しながら、ロロ=ノアは暗い森の中を、音も立てずに移動した。

 そして、森の中を移動する人型の生物を発見する。

 ロロ=ノアの背中に、寒気が走った。

『見たことのない生き物だ!』

 思念を受け取り、振り向くと、彼女の跡をつけた仲間たちがすでに集結していた。

『抜け駆けは、良くないぞ』

『デックかな…?』

『長老に知らせないと…狩りは中止だ』

 夜鷹が鳴く森に、音もなくアールヴたちは言葉を交わす。

 夜の闇は彼らにとって、さしたる意味を持たず、1km先の茂みの中を進む人影すら、見失うことはない。彼らには、第六感とでも言うべき、精霊たちの“ざわめき“を知覚する力が備わっているからだ。その感覚を会得すれば、気配を消したケルノーの居場所を知ることも造作ない。

『背が低くて、前屈みで、手が長い。肌の色は青みがかった黒…やっぱり、デックなんじゃないか?』

『私が聞いた噂では、デックは私たちとほぼ同じ姿のはず。あれが何者なのか、情報が欲しい。捕まえて、連れて帰ろう』

『それは、無い』

『未知の病気を持っていたら、どうする?』

『意識共有していたら、仲間を呼ばれるぞ』

「なら、私が調べる」

 ロロ=ノアは肉声で答えると、さっさと先に進み出した。

『デックは、凶暴なんだろ?大丈夫か?』

『私の方が、背は高い。同じ人型なら、体格差と技量の差で勝てる』

 若者たちの中で、ロロ=ノアは自分が一番、狩りの腕前が優れていると自負していた。

『相手がケルノーなら、もう気付かれてもおかしくない距離だぞ』

『知覚や、知能が低いのかも知れない…共感してみる』

『やめろ、心が穢れるかも…』

『危険だ。逆探知される』

『大丈夫、鈍そう…どんな生き物なのか知るには、これが一番手っ取り早い』

 ロロ=ノアの意識から、若者たちの思念や、存在感が遠のいていく…。

 植物の意識をレールに使い、ロロ=ノアは自らの思念を300mほど先を歩く、人型へと送り出す。

 もう少しで手が届く、その距離にまで這い寄った時、不意に背の低い生物は“こちら“を見た。

「あっ…」

 危険を感じた時には、すでに遅かった。

 白目の無い、暗黒の瞳に、ロロ=ノアの思念は吸い込まれる。


 赤紫色の夜空を、暗黒の雲が覆う。

 黒い地表を円形に青い炎が囲んでいる。その炎の前には、小さい人影がずらりと並ぶ。ロロ=ノアはその円の中心に四つん這いになっていた。

「円卓…」

 ロロ=ノアは、自分でも分からぬまま、なぜかそう口にした。

 異様な圧迫感を受け、彼女は頭上を見上げる。

 青く燃え盛る太陽が、そこにあった。

 熱くは無い、眩しくも無い…ただ、圧倒的な存在感。

 ロロ=ノアは喘ぎ、腕を翳して光を遮ろうと懸命になる。

 太陽に、小さな黒点が生まれた。

 それは急速に拡大し、暗黒の中から、新たな人影が這い出してこようとする。

 背が高く、ひょろりと手足が長いその生き物は、ロロ=ノアを見ようと、瞳を開けた。

 眼孔から、青く燃える炎が、舌を伸ばした。


 景色が、底に穴を開けた水槽の水の如く、歪んだ尾を引きながら、急速に遠のいた。

「ロロッ、戻れ!」

 はっと目を開くと、七色の夜空を背景に、自分を見下ろすウゥ=シェリの顔があった。

「掴まれッ、飛ぶぞ!」

 風の精霊たちが二人を包み込み、宙空に舞い上げる。

 ウゥ=シェリは真空の壁を作り、一気に加速させた。

 衝撃波と重力加速度を打ち消したバルーン状の障壁の中で、ロロ=ノアは震えながらウゥ=シェリにしがみついた。振り返ると、他の仲間たちも追従していた。バルーンの外には爆風が渦を巻き上げ、驚いた鳥たちが逃げ回っている。

「あれは、アールヴだったわ…でも、違う。何か別なモノと、合体…していた…」

「合体?寄生されたアールヴか?あの背の低いのが?」

 ロロ=ノアは懸命に首を振る。

「リーダーがいるの!魔物たちには、リーダーがいたのよ!その他は、魂の無い抜け殻のようだった…」

「魔物って…」

 ロロ=ノアは先ほどの光景を脳裏にリフレインさせて、血の気を失う。

「…頭を…覗かれた…」

「えっ?なんだって?」

 ウゥ=シェリの肩を掴んで、ロロ=ノアは叫んだ。

「奴ら、村に来るッ!」


 自然との調和を旨とするアールヴの暮らしは、静かで慎ましく、穏やかなものであった。樹木の精霊と共存共栄の契約を交わし、人々は木々の上に住まいを作る。火の使用は制限され、主食の調理は決められた担当者だけが行う。各々の得手不得手を鑑み、役割分担された、通貨の無い共生社会。

 しかし、外界からの脅威に対して、無力ではなかった。

 アールヴたちは数多の精霊に通じ、さらに一部の者たちは弓、剣、槍、体術と兵法にまつわる修行も、その役割に含まれる。一千年の平和が続いても、脅威に対する備えを忘れることはない。アールヴとは、そんな種族なのだ。


 …だから、大丈夫。きっと、長老たちなら、なんとかしてくれる。

 ロロ=ノアの胸の内には、そんな祈りにも似た希望があった。

 しかし、心を覗いた青い炎のアールヴは、それさえも熟知していたに違いない。

 なぜなら、音を超える速度で帰還した若者たちの目に飛び込んだのは、魔物たちによって蹂躙され、青い炎に包まれた、今まさに壊滅寸前の村の様子であった。


「どうしてッ…」

 集会広場に着地した若者たちは、その光景に愕然となる。

「時間を遡ったんだ…」

 ロロ=ノアは苦々しく呟いた。

「子どもたちよ、なぜ、今になって戻ってきた!」

 長老が若者たちの姿を見て、駆け寄る。

 ロロ=ノアは悟った。

「私たちが…戻る時間に…合わせ…」


 襲撃者たちの狙いは、リョースアールヴたちの全滅だと、ロロ=ノアは悟る。

 そのためには、自分たちがここに戻るタイミングが、最も望ましい。


 小鬼たちが、長老と若者たちを囲みこむ。

 その背後に、青い炎のリングが出現した。

「奴がまた出てくる、いいか。すぐに逃げろ!奴には、魔剣以外には効果がない!行けっ」

「でも、村の人たちが、まだッ」

 青いリングの前に立ち塞がり、長老は若者たちを返り見た。

「お前たちこそ、我らの希望なのだ。今すぐ、飛び立て!行くのだ!そして、生き延びよ!」

 青いリングの中に暗黒が生まれ、そして暗黒の中から黒く細い手が伸び、燃えるリングに手をかける。

「行けッ!」

 長老の叫びを合図に、若者たちは再び精霊を集め、彼方へ向けて急速離脱を図る。

 突然、全てのバルーンが弾けた。

 大気が破裂し、衝撃波が集会場の土を巻き上げる。

 若者たちの千切れた四肢が、集会場に散った。

 ロロ=ノアの身体は、回転しながら地面へ叩きつけられる。

 ほんの一瞬、わずかな瞬間だけ、離脱が遅れた彼女の身体は、加速時の衝撃による粉砕を免れた。

 バルーンを作る精霊の力が、強制的に解除されたのだ。

 精霊たちは狂気じみた悲鳴をあげながら、青い炎から逃げ去っていく。


 鼓膜が破け、音を失ったロロ=ノアの視界には、首を失ったウゥ=シェリの胴体があった。そして、その先には、長老の背。さらには、青いリングから身体を抜き出そうとする、黒い…デックアールヴの姿。

 剣戟を交えた二人。

 鮮血を吹き上げて、倒れ込む長老。

 無音の中で、勝利の雄叫びをあげるデックの姿。

 眼前に転がった長老の魔剣を、ロロ=ノアは掴み上げた。



「不意を突かれたのか、油断していたのか…意思を読み、時を遡る力を持つ“魔王“と言うべき存在が、どういうわけで、私の振り下ろした剣の一撃を受けたのかは、未だ不明です。ですが、致命傷にはほど遠かった。私が、最後のひとりであったので、少し遊んでやる、とでも思ったのかも知れませんね。何はともあれ、その直後に、長老が最後の力を振り絞り、私を次元の彼方まで移送したのです。長老自身、行き先を決めるほどの余裕はなかったのでしょう。私は、精霊の力が枯渇しきった、モータルにて目を覚まします」

 ロロ=ノアは片眉をあげて、肩をすくめる。

「最悪でした。霊気を失った身体は、砂漠のど真ん中で太陽に焼かれる如くに、乾き、疲労し、空腹に苛まれる。そのような境遇でさらに、水を飲んでは吐き、立て続けに病魔に襲われ、いつ死んでもおかしく無い日々を送ります。私は、この世界では“部外者“なのだと、痛感しましたよ。この世界は、私を嫌っている、とね」

 レオノールは痛ましげな表情で、話に聞き入っていた。

「よくぞ、ご無事で…」

「私を拾ってくれた男がいましてね。おそらくは奴隷か、妾にでもするつもりだったのでしょうが、いつまでも体調を崩し続けるものですから、手を出すいとまも無い。癒し手に診せる程度の金を持ち、美女に対する執着心が強かった。そのおかげで、私は生き延びことができたのです」

 レオノールは、腰のレイピアに視線を送った。

「それが、異界の剣ですか」

「運命の剣、と言った方が、ロマンがありますね。魔剣は所有者を選ぶ。それは私自身で、証明していることです」

「…と、言いますと」

「この剣の銘は“ロロ=アダン=ジュール“。私の故郷の言葉で、青き探究者という意味です。今は、こちらの言葉で、ただアズールとだけ呼んでいますがね」

「ロロ…」

 ロロ=ノアは、微笑んだ。

「私の名は、“お天馬“または、“知りたがり屋“、そして“探索者“と言う意味を持ちます」

「何もかもが、すべて…その魔剣の所為だとは…」

「思わないわけではありませんでしたよ。でも、今の私はアズールの“呪い“を受けている身です。目下のところ、私は自らの名が暗示する通り、さまざまな目標を持って行動しています。“かの者“の正体を突き止める、と言うのもそのひとつ」

「別世界に住まう者ならば、もう会う機会は無いのでは…それとも、戻る手段をも、求めておいでなのですか?」

「同じ座位のイモータルに住んでいたわけではありません。かの者は“別の世界“からやってきたのだ、と私は確信しています。それは、もしかするとこの世界かも知れない。また、別のどこかも知れません。ですが…この世のハビタブルゾーンは、極限にまで狭い。そうですね、あなたの身体で例えるならば、まつ毛の先に、全ての生命がつま先だって身を寄せ合う…そんなイメージでしょうか。全く別の次元で生まれた者ならば、手の届かない距離にいるやも知れません。だが、そうでは無い。我々と類似する姿である以上、同じ生存域にいるはずなのです」

「そう、遠からざる座位、イモータルとモータルの狭間ですか。とはいえ、移送ができる距離でもないと思いますが…仮に、その者とお会いして…どうなさるおつもりですか。復讐を果たすのですか?」

 ロロ=ノアは、復讐という言葉に胸を痛めたかのような、芝居かかった身振りをする。

「それも悪くはありませんが…私は、どうやら皆さんとは少し違う、変わり者のようです。むしろ、かの者が、どのようにしてあの様な力を身につけたのか…そちらの方を知りたい。この異界の地が、この先一体どうなろうが、全く私には興味が沸きません。しかし、知りたいことがある。それだけが、それこそが、この気に食わない臭いと、萎びた風の土地で、私が命を長らえる理由なのです」

 美しい口元に笑みを浮かべながら、彼女の瞳には暗い影が降りていた。

「それは、共感…と言うべきでしょうか。意思を他者にリンクさせる、支配の力…ですか」

 ロロ=ノアは、傍のエルフの額にかかる前髪を、そっと優しく整える。

「それと、もうひとつ、大きな野望があります。これには、あなたにも是非、お力添えを頂きたい」

 レオノールはかしこまり、首を垂れた。

「どのような願いでも」

「やれやれ、あなたも大概に大げさですね…私が一番、興味をそそられていること…それは…」

 陽の光が、彼女の美貌を影に閉ざす。


「それは、“神格化“なのです」


辺境騎士団シリーズ 第一部 第二話 辺境騎士団と偽りの騎士(了)

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2.辺境騎士団と偽りの騎士【Rewrite】 小路つかさ @kojitsukasa

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