ナナたん みない ナイナイ

オカン🐷

みない ナイナイ


「ウーたんも帰っちゃったし、さあ、ナナたんも帰ろうか」

「帰るって家に帰るの?」

「カズさん、家でなくてどこに帰るの?」

「じゃあ、怒ってないんだね」


 ルナは噴き出した。


「怒った振りするのも疲れるんだね。もう、顔なんかカチコチ」

「えっ、振り? じゃあ、ルナちゃんの動向を探っていたの怒ってないの?」

 「帝王学に学ぶ、その妻の在り方のレクチャーは受けているし、財閥婦人の会にも入っているの。カズさんは女に走らないだけましだって」


 義父は若い女性のところに行ったきり家に戻って来ていなかった。


「いつの間にそんな話を」

「入籍する前よ。不快に思ったら、このまま日本へ帰ってもらって結構よって」

「ルナちゃん、不快に思わなかったの?」

「思ったわよ。だけど、そのときカズさんを好きになってしまっていたし、だから今カズさんにお仕置きしているの」

「ルナちゃん」


 ナナが両手で目隠した。


「ナナたん。みない。ナイナイ」


  チュッ。


「えっ、それは僕に」

「だって、ナナたんがあんまり可愛いから」

「へへへ~、パパ、サンネン」

「もう、カズさんったらナナにまでからかわれて」


 ルナは大きな紙袋と保冷バックを持って立ち上がった。


「ママ、ウーたんママにもらったのなあに?」

「おばあちゃんへのお土産だって。祐奈さんに気をつかわせちゃった」

「その保冷バックは?」

「カズさん、飛行機の時間があるから、道々話すわ」


 チョコレートの試作品が入っている。 

 店でお味見商品を出して、指先にチョコレートが付くのを気にしているお客様がいらしたので、ちょっと仕事場への差し入れに持って行くのもこれがネックにならないかと思い、最中の皮で包んだらどうだろうかと考えた。

 チーフのアキの実家が和菓子屋さんをしていて、クッキーに近い皮の試作品を作ってもらったのだ。

 持ち帰って、パティシエNに評価を仰ぐことにした。





「ママ、エナたんとマナたんもいっちょにおさんぽ」

「そうよ、今日はお天気もいいし、一緒にお散歩しようね。ナナたん、近所のキッズスクールのお友だちが庭園拝見に来るの」

「おともたち、おにわ、くうの」


 双子用のベビーカーに乗せられて、エナとマナはキャッ、キャッ、とはしゃいでいた。

 アヒルの池の近くに園児たちは固まって集まっていた。


「アヒウたん、クワッ、クワッ」


 ナナが言うと、少し体の大きな男の子。


「ナナちゃん、アヒウだって」


 からかうのかと思ったら、


「かわいいなあ」


今の子は小さなときからそんなことを言うのねと、心配したり、微笑んだり。ルナママは忙しかった。

 

 気が付けば、ナナを先頭にアヒルの行進の円陣が組まれていた。




            【了】


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