初夏のさざめき

下山 仄

初夏のさざめき

よーいどん!ではじまる夏であればいいわたしそれまで眠ってるから


カーネーションから気の早いひまわりに変わる五月の花屋のバケツ


じりじりと袖が短くなる街の片隅で入道雲を待つ


新緑の桜並木に散らばったひかり、ひかりはあやとりの糸


似合わないけどお気に入りボタニカル柄のワンピースで風を切る


夏を待ちきれずに買ったサンダルとカンカン帽に日向のにおい


味噌汁と浅漬けが染み渡る朝 窓が切り取る空は快晴


微炭酸みたいな記憶 青春はとりわけ甘いものでもないし


五限目のプール六限目の古典ドルフィンキックでのろしを上げた


UVがきみのくせ字でVVになるもう二度と戻れぬ夏で


下戸なりにビールが飲みたい夜だったすこし湿った風だとしても


風鈴もラムネも蚊取り線香もない夜空だけ夏の装い


ベガ デネブ アルタイルだけ知っている 指揮者の顔で何度もなぞる


雨に降られて帰りたい日もあって東の空に虹を探した


トマト茄子きゅうりピーマンズッキーニ嫌いなままでもよかったのにな


日々影が濃くなる路地で真っ白なスニーカーならスキップできる


シースルー靴下に咲く青、ピンク、紫 これは今朝のあじさい


だいじょうぶ、晴雨兼用だし君が立ち尽くすなら代わりに差すし


もう準備できた?いよいよ夏がくるみたい麦茶で乾杯しよう


「はつなつ」とほどけるように呟いて夕日に滲む初夏のさざめき

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初夏のさざめき 下山 仄 @ymsgr59

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画