醜くて美しい。

最悪な贈り物

貴女との恋は成立しない。

私は学校が楽しみだ。


いきなりこんな事をいうのも変かな?


でも、とにかく好きだ。


だって、あの人がいるから____






「おはよ!コンちゃん!」


私は、教室に入ると、黒髪をゆらゆらとなびかすに朝の挨拶をした。

ああ…今日もコンちゃんは可愛いな…


「おはよ!〈破損データ〉ちゃん!」




私は〈破損データ〉!!今は中学2年生!


私は、コンちゃんのことが好きだ。

女の子が女の子に恋するなんて可笑しいと思う。


でも、私は好きになってしまったんだ。



下校中

「〈破損データ〉ちゃんは今日は帰ったらどうするの?」


お!これはチャンスなのでは?


「今日?今日は何も予定ないからなぁ…カフェでも行こうかな…コンちゃんも行く?」


さりげなく私はコンちゃんにデートの誘いをする。


「え?いいの?」


「うん!二人の方が楽しいからね!」


「それじゃあ、帰ったらすぐに向かうね!!!」


そういうと、コンちゃんは全力で足を回して、「じゃあ、また後でねー!」と言い残して、妖精の粉のような香水のいい香りを残して走り去ってしまった。


「はぁ…可愛いなぁ…」


私は、後ろから走り去っていく彼女の背中をずっと見ていた。





カフェ


「あーん!」

私はその言葉と共にスプーンに乗ったパフェをコンちゃんの口の中に入れた。


「ん〜!!!!おいしー!!!ほっぺがとろけそぉー!!!」

コンちゃんは頬を押さえながら、パフェを口の中で味わう。


「んふふ。気に入ってくれて何より」

私はさっきコンちゃんに食べさせるときに使ったスプーンで、自分のスイーツを食べ進める。


「こういうのを食べられるのも、本当に、〈破損データ〉ちゃんのおかげだよ!!」


「ん?どういうこと?」

私はコンちゃんの不可解な言葉に首を傾げる。


「だって、〈破損データ〉ちゃんに合わなかったら今日これ、食べられなかったんだもん!!ありがと!!」


「なんか、わからないけど、どういたしまして!!」


私が言葉を返すと、コンちゃんは頬を手で撫でながら自分のスプーンで食べた。


「うん!!んー!!!おいしー!!!」


彼女がその「美味しい」と言ってくれる度に私の心中の騒めきを走らせる。


この人を見ているだけで、幸せな気持ちになる。


この人を見ているだけで、心が落ち着く。


この人を見ているだけで、呼吸が激しくなる。


この人を見ているだけで、この世界が天国になる。


この人を見ているだけで、この人への〈〈愛〉〉が強くなる。


愛したい。愛したい。愛したい。


彼女が笑顔になる度にその言葉が頭に浮かぶ。


「ねえコンちゃん!!あ…あのさぁ!!」


カフェからの帰り道。

気づくと私は、夕日を背に彼女の背中を引き止めていた。


彼女は5mほど先で目の前に長い自身の影を作っている。

帰り道に向かって。


「何?〈破損データ〉ちゃん」


「あ、あのね!!わ、私さ!!」


彼女は「どうしたんだろう?」という風に、瞳をぱっちりと開けて、私の顔を見つめる。


今日じゃなくて良い。


その事が頭に浮かんだ。


「あ!あのさ!!わ、私、は、話したいことがあるの!!」


私は緊張のあまり、カタコトに喋る。

そのことに彼女は聖母のように微笑みながら


「どうしちゃったの?そんなに緊張して。」


と返した。


あのことを伝えるだけ。


「あ、あのさ!!明日、屋上に来てくれない?その…放課後に。」


「放課後?んー…わかった!放課後に屋上ね!了解しました!」


今度は天使のように笑いながら、警察官のように敬礼をする。


ああ…本当に可愛いなぁ…


人形のようにキラキラと輝いた瞳に、ツヤツヤな髪の毛。

美少女には欠かせないアイテムを全て持ち合わせ、明るい性格で、友達にも好かれやすい…


こんなに完璧超人の彼女と愛しあいたい。

その欲が一層高くなる。


「それじゃあ、私こっちだから!」


「うん!気をつけてね!」


「〈破損データ〉ちゃんもね!!バイバーイ!」


彼女はそう告げると、風のように去ってしまった。


幸せな時間はあっという間に過ぎる。


こんな現実を私は受け入れたくない。でも。

また会える。


その事実だけが、私の原動力となり、足を動かす力となった。






「明日!!本当のことを言う!!」


私は心臓のトクントクンという音を体に響かせて、眠りについた。


この感覚は気持ち良いな。







「それで…話って何?」


私は屋上のフェンスの奥に聳え立つ摩天楼を眺め、心を落ち着かせる。


そんなことができるはずもなかった。


「あのさ…わ、私…」


不安で涙が出そうだった。


「好き」どうしになれるなんて無理かもしれない。


でも、喉に詰まったこの言葉を。

私は出さずにはいられなかった。


「あ、あのさ!!わ、私!!コンちゃんのことが好き!!」


「へ?」

コンちゃんのほうのけた顔を見て、私は、本心を、体の中の言葉を、全て言う。


「コンちゃんの事を考えるだけで、いつも胸が痛くなる…コンちゃんとは、今まで友達だったけど…わ、私…コンちゃんと手を繋ぎたい!!コンちゃんとキスもしてみたい!!コンちゃんと、花嫁のドレスを着てみたい!!だ、だから、私、一生コンちゃんの隣に立ってみたい!!そ、その…私、コンちゃんとまずは付き合ってみたい!!そ、それで、愛し合いたいの!!!だから…!!!」


「ご、ごめんね…お、女の子同士は…ちょっと…」


「え?」


私の愛はその一言によって全て打ち砕かれた。


開いた口が塞がらない。


今までのコンちゃんとは比べ物にならないくらい、暗いコンちゃんの顔。

そのことが、冗談ではないことを語っている。


何も聞こえない。


何も感じない。


「な、なんで…?」


「え?な、なんで…って…その…お、女の子同士じゃん?」


「お、女の子同士だからって…な、何がイケナイの…?」


「え…そ、それは…」


沈黙


「そ、そういえば、わ、私、予定があったんだった!!ご、ごめん!!この話は無しで!!」


そういうとコンちゃんは屋上から去る。


コンちゃんはよく使うアネモネの香水の匂いを置き去って。



なんで?なんで?


女の子同士の恋がイケナイの?


なんで?世界がそう言っているの?


女の子同士は愛し合えないの?なんで?


私はコンちゃんを愛してはイケナイの?


私が間違っているの?


世界は私に特大のバッテンをぶつけたように、私は足元が疎かになる。


はぁ…はぁ…はぁ…


気持ち悪い…心臓が大きな音を立てる…


病気にでもかかったようだ…


辛い…辛い…辛い…辛い…!!!!!


「うわ…あの人ひどい顔…」


「気持ち悪いなぁ…近寄らないでおこう…」


はぁ…はぁ…


私はただいまも言わず、靴を放り投げて自室に飛び込んだ。


自室のベットに飛び込むと、少しは体が楽になり、彼女のことが頭の中に巡る。


ドクンドクンドクン


心臓が破裂しそう。気持ち悪い。


「ご、ごめんね…お、女の子同士は…ちょっと…」


あの時の言葉が身体中を巡る。

頭が痛い。


なんでダメだった?


なんで断られた?


わからない。わからない。


こんなことになるなら、言わなきゃ良かった…


言わなければ、事実を知らないまま、のうのうと暮らせたのに。


私は布団に包まると、さらに、コンちゃんに想いを馳せた。


好き…好き…好き…好き…愛してる…愛してる…愛してる…愛してる…


愛されなかったのは何故?


「なんで愛されなかったの!!!!!」


私はわけもわからず、ベットを思いっきり殴る。


ベットはキシキシと音を立てた。


私は悪いことをしていない。


なんで私を…???


息をするのが辛い。涙が目から溢れ出る。心臓の鼓動が早く大きくなって、張り裂けそう。


「あ`あ`あ`あ`あ`あ`あ`あ`あ`あ`!!!!!!!」


ベットの布団を手で掴み拳の中でぐちゃぐちゃに掻き乱す。


目の前が暗くなる。


気持ち悪い。


今日は何も考えないでおこう。







「〈破損データ〉…学校どうするの…?」


暗い声で、母親が私の部屋の扉へ問う。


「…今日は休む…」


私は小さな声で返事をすると、「そ、それじゃあ、朝ご飯置いておくからね…」と言って、どこかへと去る足音が部屋の中に響いた。


「なんで…」


私は部屋の隅でうずくまった。


なんで、私はイケナイの?


教えて欲しいけど、教えて欲しくない…


また会いたい…でも、会いたくない…


私の心の中に矛盾の気持ちが生まれては、消える。


暗闇の中で、考え事。


コンちゃん…今、どうしてるかな…?


普通に何も気にしないで授業を受けてるのかな…?


私のことなんて、忘れて生きてるのかな?


悔しい…


悔しい!!悔しい!!悔しい!!悔しい!!!!!


私は自分の腕を握り、痛いほどに爪で引っ掻く…


それでも足りずに、爪を頭に差し込み、髪の毛をぐちゃぐちゃにした。


あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!


気にして欲しい!!!!!愛して欲しい!!!!引きずって欲しい!!!


私の心の闇は奥底に根付き、剥がそうと思っても剥がせない。


いや、剥がせなくて良い。剥がさなくて良い。根付いていて良い。


だから!!!あの子を!!!!!!


この感情を!!!!


こんなことを思っても、何も変わらない。


何も変われない。


それなら…




気づくと、いつの間にか私の右手は、包丁を握りしめていた。


私は3枚の遺書をリビングの机の上に置いた。


そこから3歩前に踏み出すと、包丁を両手で握りしめ、首元に当てる。


少しだけ力を入れると、首から血が吹き出し始めた。


目を瞑り、彼女のこと思い出した。




花のように綺麗なあの人。


女神のように微笑むあの人。


子供のように喜ぶあの人。


聖母のように泣き崩れるあの人。


どれも、美しくて、儚くて、慈悲なあの人。


私が死んだら、あの人は私のことを一生引きずってくれるだろうか…


わからない。私がどれくらい大事にされていたかなんて、私にはわからない。


でも、私の思いがコンちゃんに届いてくれたら良いな。


女の子同士の相思相愛を受け入れられないこの世界は狂ってる。


バイバイ。


私は包丁を両手に握り、喉を掻き切った。


い、痛い…心も体も。


で、でも


この愛が…この呪いが…コンちゃんに一生纏わりつくように…


バイバイ…コンちゃん…












『次のニュースです。今日未明、日野中学校の女子生徒が自殺しているところを発見されました。女子生徒の遺書には、女子同士の恋愛がうまくいかず、自殺したと書かれており、ジェンダー差別が問題視されています。次のニュースです。』







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