第58話 痕跡
「……」
小学生くらいの歳の少女は酷く怯えたような表情で毛布を強く握りしめる。
その様子はまるで何かが来ることを恐れているかのようだった。
「……」
女の子はここに来てからずっと無言のままだ。
やっぱり事情を聞くのは難しそうか……
出来ることなら一刻も早く事情を聞き出したいところだがこの子の気持ちを無視して無理矢理聞き出すのは絶対に駄目だ。
だから今は少しでもこの子の心が回復するように側にいてあげるしかない。でも——
(私にそんな役が務まるのかな……? 敵に操られて仲間を傷つけてしまった私に……)
ルナは操られていたのだから仕方がないと許してくれたが私は未だに自分自身が許せない。
それにルナが以前より少し雰囲気が変わってしまったのも私が彼女にしてしまった嫌がらせが原因だろう。
いや、だからこそ私がやらなければならない。私が犯してしまった罪を償うためにも……
するとその時私の手上に小さな手が重ねられた。
「大丈……夫……?」
女の子が心配そうに私の顔を覗き込む。
私はいつの間にか自分が震えていることに気がついた。
まさかこの子に心配されちゃうなんて……
「私は大丈夫だよ。ごめんね、心配させちゃって。君のほうこそもう喋れるの?」
「うん……ちょっと落ち着いてきたから……」
「じゃあまずは名前を教えてくれないかな?」
まずは簡単な質問から始めようと思い名前を聞くと女の子はまだ少し怯える様子を見せながらもボソリと答えた。
「……エリナ」
消え入りそうな小さな声だったがちゃんと聞き取ることができた。
エリナ……名前からして外国出身の子かな?
だが何も変なことじゃない、ここアルトゥヌムには世界中から多くの人々が訪れる。逆に日本人の方が少ないくらいだ。
「よし、覚えたよ、エリナだね。じゃあエリナ、お父さんとお母さんがどこにいるかわかる?」
「わかんない……途中で逸れちゃったから……」
「そっか……」
ということは迷子だろうか?
本来ならば迷子はここの警察とかに届けた方が良いのかもしれないがこの子が魔族に狙われているのなら逆にそれは危険だろう。
「じゃあ——」
これを聞いて良いのか、かなり躊躇う気持ちはあったものの今最も知りたいことを聞くことにした。
「じゃあ……なんであの人達に追われていたのか理由は分かる……?」
すると女の子は追われていた時の事を思い出したのか先程よりも酷く怯える。
だがそれでも口を必死に動かして私に理由を伝えようとしてくれていた。
「……わから……ないっ……お父さんと……お母さんを探していたら……いきなりっ……!」
「わかった、もう大丈夫だから思い出さなくて良いよ。」
遂には泣き出してしまった彼女を私は優しく抱きしめる。
その小さな体は恐怖で震えていた。
こんな小さな子がこれほどまでに怯えているなんて……! 一体魔族達はこの子に何をしたの……!
そう思うと魔族達に対して沸々と怒りが込み上げてくる。
この子を狙う魔族は私が全員倒してやる……そしてこの子を必ず無事に親の元へ送り届ける……!
「大丈夫、大丈夫。私が必ずあなたを守るから。」
私は少しでも安心できるようにそう呟きながらエリナの背中を摩り続けた。
◇
私は変身状態で周囲の気配を探りながらアルトゥヌムの夜の街の上を飛び回る。
彼のお陰で進化した私の能力は以前よりも大幅に強化され、より細かい氷の分子の操作が可能になった。それにより周囲の空気を凍らせ夜景を反射させることで透明化のような芸当が可能になっていた。
私がこうも慎重になって探っているのは先程感じた気配の場所だ。
先の魔族との戦闘の際に感じた二つの異質な気配……一つは突然現れた白い外套の人物のもの。もう一つは離れた所でこちらには干渉せずにこちらを観察していた気配。
「確かここら辺から感じたのだけれど……」
私が気配を感じたビルの屋上へ着くとそこには既に誰もいなかった。
「これは——」
だが僅かにそこに残ってた魔力の残滓は私のよく知る人物のものだった。
「すん……すん……間違いない……これはオメガの魔力だわ……!」
この私が彼の魔力を間違える訳がない。
ということは彼もこのアルトゥヌムにきているということだ。
彼とはこの期間中は絶対に会えないと思っていたのに……まさか私を心配してここまできてくれていたなんて……!
あぁ……なんて優しい人なの……
彼がここにいると分かり彼に会いたいという感情が爆発しそうになるのを抑えて私は魔力の残滓を追跡する。
魔力の残滓は彼がどこに移動していたのかを表してくれている。
そして次第にそれはとある場所へと近づいていった。
「えっ!」
そこは私達が宿泊しているホテルだった。
魔力の残滓はまるでそこで彼の存在がこの世から消失したように途絶えている。
これは一体どういうこと……
今このホテルは流星学院の貸し切り状態の筈……まさかあの時のように転移で何処かに消えた? でもそれならわざわざ移動せずに最初から転移すればいい。ということは……
私の中に一つの可能性が浮かぶ……
まさか……オメガは流星学院の生徒ということ? 確定したわけではないが現状最もその可能性が高い。
「これは少し調べる必要がありそうね……」
私はホテルを見つめながら静かに呟いた。
魔法少女アニメのモブに転生したので、謎の存在として全滅寸前の彼女達を助けるのを繰り返してたら全員ヤンデレ化してしまった ぷらぷら @1473690623
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔法少女アニメのモブに転生したので、謎の存在として全滅寸前の彼女達を助けるのを繰り返してたら全員ヤンデレ化してしまったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます