第57話 幼馴染
「ああ……本当に酷い目にあった……」
温泉から部屋に戻った俺はベットに横になり今日の出来事をを振り返る。
いや、まじでなんなん? 俺は何も悪いことをしていないただの曇らせ好きの健全男子だというのに何故こんなにもラブコメイベントに巻き込まれなきゃいけないんだ……
『我も見ておったがお主、随分とあの娘に好かれてあるようだな。』
何処かいつもより上機嫌そうなヴォルディアが聞いてくる。
まるで息子が彼女とイチャついてるのを目撃して後で茶化してくる父親のような感じだ。
つまりウザイ。
(見てたんなら助けろよ! あと無言で覗いてんじゃねぇ!)
『いや、楽しそうだったし邪魔をしては悪いかと思ってな。それよりいつも曇らせのことばかり考えているお主が珍しく混乱している所は見ていた非常に面白い』
(……なぁ、お前もしかしなくても俺を映画感覚で見てないか?)
『ソンナコトナイゾー』
(めちゃくちゃ片言じゃねぇかっ!)
やはりこいつに俺のプライベートが筒抜けというのはなかなかに気持ちの悪い感覚だ。
『それにしてもあの娘、何故お主のことをあんなにも好いておるのだ?』
(そうなんだよな……まじでなんでなんだ? 一切心当たりがない……そう、つまりこれはラブコメの女神の攻撃だっ!)
『そんな女神は聞いたことがないが……』
そう、奴(ラブコメの女神)にとって好きになる理由などあって無いようなもの。肝心なのはラブコメイベントを多発させることだけなんだ。
もう奴の思い通りにはさせない……次回からはラブコメイベントが起きそうになったら徹底的に回避してやるからなっ! せいぜい頑張って俺にラブコメイベントをかけてみろっ!
俺が想像のラブコメの女神に思いっきり挑発すると奴は挑戦的な微笑みを返した。
◇
「ふふ、今日は蒼太くんとたくさん話しちゃいましたね」
私は今日の出来事を思い出し表情を緩める。
部屋で二人きりになったのは少し攻めすぎたけど今の所、少しずつ意識してもらう作戦は順調に進んでいる。
もしかしたらこのアルトゥヌムで蒼太くんも私のことを好きになってくれるかも知らない。
「あの日を思い出しますね……」
まだ私が魔法少女にもなっていなかった子供の頃、私はショッピングモールで買い物中に迷子になった。
周りの大人達は私のことを誰も助けれくれなくて私は不安のあまり泣き出してしまいそうになった。
そんな時、突如空に穴が空いた。
何処か別の世界に繋がる穴から複数の人影が出てくるのが見えた。
「魔族だぁぁぁぁ!!」
誰かがそう叫んだ途端、先程まで買い物を楽しんでいた人々がパニックになりショッピングモールから出ようと走る。
背が小さい私は必死に逃げ惑う人々の視界に入らず押されて倒れてしまった。
「誰か……」
消え入りそうな小さな声でそう呟くといつの間にか私の前に私と同い年くらいの少年が立っていた。
黒髪、赤目の目立たない平凡な容姿をした彼は何かを探すように辺りを見渡してから私の方に視線を向けた。
「ねぇ、君。ここで魔法少女見なかった?」
「魔法少女?」
「うん、さっき魔族が現れたでしょ? それで魔法少女も現れなかった?」
「わからない……」
「そっか、ここならよく見えると思ったんだけどな……少し場所を移動するか。」
男の子は何かを呟くと私に背を向け何処かへと去ろうとする。
私は気づけば彼の袖を掴んでいた。
「ん? どうしたの?」
「一緒に……行っても……いい……?」
これ以上一人でいるのが怖くて男の子にそう聞くと男の子は一瞬何やら考えるような仕草をしてから納得したように微笑む。
「……なるほど、そういうことか……君もその年ながら既に俺と同じ領域に……この世界の住人にも見る目があるやつがいるんだな」
「えっと……」
「あ、ごめん。じゃあ、いこうか。」
男の子は袖を握る私の手を振り払わずにゆっくりと何処かへ歩いて行く。
そしてしばらく歩くとショッピングモールの外に出た。
「おっ、やってるな」
「え?」
彼が空を見上げたので私も空を見上げるとそこでは先程出現した魔族達と五人の少女達が戦っていた。
その少女達は炎、風、水、地面、自然を操り恐ろしい魔族相手に善戦している。
「あー……でも今回もハズレか……魔族が弱すぎる、論外だな。曇らせへの道は遠い……」
「くもらせ……?」
「あれ、もしかして違ったか……まぁ、いいや。それなら育てればいい。君に魔法少女の素晴らしさを解いてあげよう」
そこから彼は魔法少女について詳しく語ってくれた。魔法少女を語る時の彼はとても楽しそうで聞いている私まで楽しい気分になった。
「やっぱり曇らせに欠かせないのは——っと、ついつい話しすぎたな。じゃあ俺はもう帰るよ」
「ぁっ……もういっちゃうの……?」
「うん、魔法少女達の戦いももう終わっちゃったみたいだしね。」
「……そっか」
私には一切興味がないような彼の視線に私は落ち込んだ。
彼が興味があるのは魔法少女だけなのだ。
私はそれが悔しかった。
例え、次に会うことがあっても彼は私のことを覚えていないだろう。
だったら——
「ね、ねぇ……私も……魔法少女に……なれる、かな?」
なれるわけがない。
そんなことは自分でもよくわかっている。
だとしても彼の興味を少しでも引きたかった。
「……この世界の魔法少女は三代目までしか知らないけど……もしかしてそれ以降も誕生したりするのか? だとしたら……それはこの世に新たな曇らせが生まれることに帰結する……ああ……なんて素晴らしい……!」
彼は何やらボソボソと呟いた後私に対して微笑み掛ける。
「君には期待しておくことにするよ、どうか俺の楽しみ《曇らせ》を増やしてくれ。」
彼はひらひらと手を振って去って行った。
「きっと速水くんは覚えていないんでしょうね……少し残念ですがまぁ、そちらのほうが都合が良いこともあります」
まさかルナとあそこまで仲がよくなっていたのは予想外でしたけど最後は必ず私のものにしてみせます……なんたって私は彼の幼馴染なんですからね。
「これからも覚悟していてくださいね、速水くん。」
私は誰にも聞こえないように静かに呟いた。
【あとがき】
最後までお読みいただきありがとうございます!
今回はノアがまた暴走してしまいました……これでヤンデレ化前なんだぜ……
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