第4話 休みの日/そして月曜日

 最近は、休みの日にやることといえば期末テストの勉強以外だとゲームかマンガくらい。気晴らしの散歩は早朝か、たまに陽が落ちた時間帯にする。

 透明人間の身として世を忍ぶ意図はもうほとんどないけれど、ある日手に負えない何かに巻き込まれて日常が遠く離れてしまうのではという懸念はいつも頭の隅にある。

 歩いてるだけで変に注目を浴びるのも気分が悪いし。

 そして次第に引きこもり癖がついていくという。


 家の中にいて不都合は特に感じない。けれどもたまに未来のことを考えて気分が意味もなく沈む。

 ゲームもマンガも暇潰しにしかならないし、悩みを解決してくれるわけでもない。

 例えば清水さんみたいに僕も小説を書きたいと思う人間であればこの持て余す時間も有意義なものになったかもしれないけれど、今のところそんなものはない。


 焦る時期じゃないし、そんなことはわかってるし、高校2年になるまでは考えなかった。僕はいったい何になるんだろうか。

 勉強は好きかと聞かれたらノータイムで首を横に振れる。学ぶ喜びは知っているけれど、自慢じゃないけど教えるのも得意だけれど、勉強は苦手だ。

 誰かの役に立てる人間でありたい。誰かに必要とされる人間でありたい。幸せと胸を張って言える将来が欲しい。

 言葉にすれば陳腐なもので、具体性もなくて、結局期末テスト頑張ろうに落ち着くのだった。


 僕がこうしてぐるぐると考えていることは全て、僕だけが抱えるような悩みではないことを僕は知っている。




 ◾️




 週明けの朝。湿気を纏っているみたいな感覚がする。

 みんなが言うよりは僕は月曜日は嫌いじゃない。特に理由はないけど、そんなに嫌い? みたいなことを思う。


 登校時間が早いのもあって朝の通学路で誰かと一緒になんてまあない。

 だから学校まであと半分くらいの距離で後輩の後ろ姿を見つけた時、少しだけ早足で近づいて声をかけた。

「おはよう、平山くん」

 平山くんはすっとこちらを振り向いて僕を確認すると、「ぉはようございます」と返してくれた。

 学校の下駄箱で会うことは増えていたけれどまさか通学路でも会えるとは。

「こんなとこで会えると思ってなかったよー」

「……っすね」

「なんか用があって早いん?」

「……いや、日に日にというか」

「日に日に?」

「姫華のせいです」

「ああ」

 何かわけがあるらしい。そういえば小野さんがいない。

「小野さんは?」

「あいつは、寝坊です。声かけたんすけど先に行けって頼まれて」

「へえ」

 すると平山くんはポケットからスマホを取り出した、「すみません」と丁寧に僕に断りをくれるとキーボードで何かを打っているようだった。すぐに済んだみたい。

 僕が会う時は平山くんと小野さんでセットなことがほとんどやから、こうして2人で喋るのは新鮮やなあと思った。

「そういや陸上部って朝練ないんやね」

「はい。……ない方が成長期には良いとか、なんかそんな感じらしいです」

「そうなんや。中学はあったもんなあ」

「ですね」

 とは言っても僕は途中で辞めた身だけれども。

 会話が途切れて、次はどんな話題を振ろうか考えていると平山くんから口を開いてくれた。

「……先輩は、夏休みの予定とかなんかあるんですか?」


 ……おお! なんか嬉しいお尋ねがきた!

 後輩に夏休みの予定聞かれるとか初めてなんやけど……!


「そ、うやなあ。いまんところどっかにいく予定はあんまないなあ。祖父母の家に行くとかはあるけど」

「……そうなんすね」

「平山くんは?」

「俺は……、部活とか?」

「ああそっか」

 ないわけないよな。でも部活だけってことはないだろう。なさそう。

「部活以外には予定ないん?」

「今んところは……」

「小野さんと遊びに行ったりとかは?」

「え?」

 平山くんにしては随分と早いレスポンスだったので何かまずいことを聞いたかという気持ちになった。平山くんは怪訝そうにこちらを見ている。

「……いや、あいつとは遊ばないっすね」

「そうなんや」

 そしてまたお互い静かになった。

 沈黙は苦ではなかったが、会話があるとより居心地が良いと思った。

 喋ったり喋らなかったりを繰り返して、学校までの道のりがいつもより長いようにも短いようにも感じた僕でありました。

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