1日遅れの父の日
影神
一本の缶コーヒー
月曜の学校は憂鬱だった。
かと言って日曜が充実していた訳じゃない。
見えない未来と目の前の現実に、
日々。押し潰されそうになっている。
「父の日って何かした?」
「いや。」
騒がしい声が響き渡る。
青春を謳歌出来る学生を。
正直、羨ましくも思う。
「お前ん所親父さんだけだろ?」
「まあ、」
日陰に逃げる様に友達と昼飯を広げる。
友達「たまには何かしてやれば?」
「そういうお前は何かしたのかよ。」
友達「してねえよ。
そもそも何すりゃ良いんだよ、」
「分かんね、」
友達「、、世の中の父親は可哀想だな?
何か言えば何か言われてよ。」
「よく父親やってるよ。」
友達「だな。」
自分が父親になる未来。
そもそもそんな未来があるのだろうか。
分かりもしない事を。知り得もしない事を。
大人達は煽る様に急かして来る。
学校終わりの夕暮れ時の公園。
友達「そろそろ帰るか。」
何をする訳も無く。
限られた時間を思う存分無駄遣いしていた。
友達「こういう事も。きっと"青春"だよな?」
「普通なら女が隣に居るはず何だろうけどな」
友達「あー。虚しい虚しい。」
倒れた自転車を気だるそうに持ち上げる。
「また」
友達「おう」
帰り道。幾つかの自販機の前を通り過ぎる。
『たまには何かしてやれば?』
昼間の友達の言葉が頭を過る。
キィイ、
悲鳴を上げながら自転車は止まる。
「前はよくコレ飲んでたな。」
それはコーヒーだ。
最近ではあまり見ない、田舎の自販機。
「買って。飲むのかね、」
ピッ、
ガタン!
鈍く重い音を響かせながらそれはゆっくりと落ちた。
「日が延びたな、」
少し前なら既に真っ暗になってる時間だ。
家に着く頃にはコーヒーも汗をかいていた。
「ただいま。」
親父はまだ帰って来ては無かった。
親父の定位置。
吸殻のたまった灰皿の近くにコーヒーを置く。
親父はほとんど家に居ない。
何が楽しくてそこまで働いてるのかは分からない。
きっと生活の為だけに働いているのだろう。
長期休み何て一緒に出掛けた覚えもない。
、、一体。いつ休んで居るんだろうか。
姿は見るが。
顔をまじまじと見たのはいつ以来だろうか。
飯は一人で食う。
置いてある金で何不自由無く暮らせて。
俺は親父に何も文句がない。
むしろ感謝こそすべきだろう。
やりたい事も無い。
目指したい場所も無い。
思い描く未来すら見えない。
こんな奴を自分の時間を犠牲にしてまで。
よくもまあ、育ててくれている。
「俺は父親には成れないな。」
親なんて自ら選んでなるものじゃない。
子供が自立するまで幾ら掛かって。
どれだけ憎まれ口を叩かれて。
終いには何で産んだのか何て言われたもんなら。
きっと全てが分からなくなってしまうだろう。
母親の写真に手を合わせる。
「母さんは。
俺を産んで良かったのか、?」
返事が反ってくる訳も無く。
一方通行の思いは、
煙と一緒に何処かへと漂って行った。
親父は何を考えてるんだろうか。
俺に。どうなって欲しいのだろうか、、
「そう言や父の日渡したわ」
ゲームのマッチング中に友達にそう告げた。
友達「何?」
「缶コーヒー」
友達「日々の労いはコーヒーひとつか。」
「お前はやったんかよ?」
友達「これ終わったら俺も買いに行って来る。」
「悲しいよな。」
友達「そういう役目何だろうよ。」
ガチャッ、
玄関を開ける音がした。
「わり。抜けるわ」
友達「まかしとけ。
俺が勝利へと導いてやるよ。」
「、、お帰り。」
「まだ起きてたのか。」
親父は作業着を脱ぐといつもの場所に座った。
親父「何だこれ。」
テーブルに置かれた缶コーヒーを触りながら言う。
「父の日。」
親父「珍しい。」
ったく。皮肉かよ。
親父「最近見なくなったからな。」
「ぁ。あぁ、」
親父「吸うか?」
箱から一本取って俺へと差し出す。
「未成年。」
別に興味が無い訳でも無かった。
親父「今うるせえもんな。
いただきます。」
プシュ、
冷たくもない缶コーヒーを親父は飲む。
「、、いつも。ありがとう」
捨て台詞の様にその言葉だけを放って、
恥ずかしさから逃げようとした。
親父「こちらこそ。」
思いもしない背後からの回答に。
その場に、立ち止まった。
「、、父親ってどうなの?」
親父「そうだな。。」
親父は母さんの写真を手に取った。
親父「良くも。悪くも。あるけどな、、
良いもんなんじゃねえか?
」
「そうなのか。」
親父「おう!
、、まあ何だ。
あまり難しい事考えてねえで。
捕まらない範囲でお前のやりたい事やれよ。」
「、、親父は。これで良かったのか、?」
母さんは。
"俺を産んで死んだ"
俺が産まれて来なければ。
母さんは死なずに済んだ。
俺が。殺した様なものだ。
『俺が居なければ。
今頃は2人、幸せだったかも知れない』
そう、口から出そうとして飲み込む。
親父「まあまあ。だな、?
腑に落ちない所もあるさ。」
親父は母さんに線香をあげた。
親父「人生何て全部が全部。
丁度良い所に落ち着く訳じゃねえし。
どうしてそうなっちまったのか。
訳の分からねえ事だってある。」
「ぅん。」
親父「それでもまだ縋る場所やものがあるだけ。
俺は恵まれてるのかも知れねえな。
ほら。ゲームして来い。」
いつか。この抱えているモノを。
親父と分け合える日が出来るのだろうか。
「、、おやすみ。」
親父「あぁ。
おやすみ。」
友達「俺も渡して来たぜ。」
「何だって?」
友達「ありがとう。
だと。
びっくりしたわ。」
「父親って、分からねえな。」
友達「だな。」
いつかそれが分かる時が来るのだろうか。
口下手な親父の考えている事が。
その場所に立つ日が来れば。
俺も同じ様にしてやれるのだろうか、、
1日遅れの父の日 影神 @kagegami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます