第5話 修羅場

「おっ!紬ちゃーーん!今日は珍しく遅いね〜?」

一階にある一年の廊下で別れようとしたとき、あいつ…圭介が手を振りながら走ってきた。


「げっ…」

「げっ…?先輩どうかし―」


こいつを逃さねぇとやばい!!


日々こいつと関わる中で培われた勘…だろうか。

その勘が逃がせと言っている。


「い、市川…おまえ教室まですぐだろ!ほら先生来る前に教室行けよっ!」


「え?どうしたんですか先輩?らしくないですよ?汗もかいて…」


いや汗はさっきからずっとかいてんだよ!走ってっからな!

でもたぶんその中に冷や汗も含まれてんだろうな。あいつ(圭介)のせいで。


「紬ちゃーん?どした〜?」


まずい……市川も引き離せなかったし、圭介はもうこんな近くまで!!


「あれ?先輩、お友達ですか?呼んでますよ?…あれ?せんぱーい?おーい!」


こ、こうなったら…


ドンッ!

「ほえっ?!せんぱい?!」


市川を圭介の死角に隠して…!やり過ごすべし!


「…っ!おー!圭介〜!お、おまえ女の子はどうしたんだよー!」


パァァァァ!キラキラー!みたいな効果音がつきそうな雰囲気で圭介を迎える。


「急にどうしたんだよ紬ちゃ〜ん?あっもしかして俺に憧れちゃった?わ〜!嬉しいぃ〜!」


「め、珍しいって思っただけだわ。お前なんかに憧れてるわけねーだろ。」

と吐き捨ててやった。


(せ、せんぱ〜い…おーい…おーい!)

すまん市川!ほんとにすまん!

もうちょっとだけ静かにしててくれっ!


その後すぐ、俺の背後から大きな物音が聞こえてきた。

「あれ?圭介じゃーん。…っとと」


振り返るといつも圭介と一緒にいる女子だった。確か名前は…柚だったか。中学の頃に何回か同じ班になったりして一緒に活動しただけだがなんとか会話はできるレベルの関係だ。


柚は大きな段ボールを運んでいた。

「ちょっと圭介〜暇ならこれ手伝ってくんない?めちゃくちゃ重くてさ〜」


「これなんだよ〜ってこれ文化祭の飾りか…大変だな!手伝ってやるって。」


文化祭……もうそんな時期か。


俺の学校の文化祭は周りの学校と比べて異常なレベルに早く、5月の初めに文化祭というリア充イベントが始まる。

新入生は知り合って間もない輩とワイワイしなければならなくなり、かなりの地獄である。


在校生である俺らへの負担も大きく、クラス模擬店は進級後のクラスで計画するため準備期間が短い。こんなんで勉強できるわけない。


「あ、あのーー!!!!」


ん?…この声…いやんなわけ…


「ぶ、文化祭?!い、いま文化祭って言いましたか!」

あーっ!!!!こんなところで市川の限界がきたか〜!!


これには圭介と柚も驚いたようで、


「「誰!?」」


という始末である。


「お二人は先輩とどんな関係なんですか?お友達ですか?同じクラスなんですか?」

市川の質問攻めも始まり、修羅場と成り果てた。


はぁ…ったくもう。

俺が頭を抱える側でいいのかは分からないが、もう言い逃れはできなさそうだ。


「こいつは1年の市川遥。この前なんか親しくなった。」

「親しくなった。じゃないですよ〜!私は先輩のこと大大大好きで!!!」


この状況に2人は理解が追いついてないようで、硬直していた。


しばらくの沈黙のあと、

「…こんなうるせー奴だから…まぁ適度に仲良くしてやってくれ。」

俺の言葉でようやく意識が戻ったのか、

「もちのろ〜ん!遥ちゃん?だっけ、めちゃかわだしいい子そう〜俺とお茶しな〜い?」


バシッッ!!

「なにナンパしてんだ!こんの浮気野郎が!」

「いだっ!!!!!なにすんだよ柚〜!」


圭介を思いっきり絞め終わった柚は遥の方に近づいて

「ごめんね〜あいつナンパ癖あってさ。次なんか言われたら私に言ってね〜。」

「は、はい…!柚さん!」


なんやかんや柚が圭介を制御してくれてるっぽいし…結果オーライ…ってことでいいのか?

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