第4話 2人の距離感
え、これ…どゆ状況?
俺は東口についたはいいものの、人間とは思えない状態のものが視界に入っている。
「あっ、せんぱーい!この市川遥、絶対動きませんでしたよ!」
やめろ…声をかけるな。
しかも大声で叫ぶな…!頼むから…!
はぁ…
穴があったら入りたい…。
俺は空気を読んで(読みたくなかったが)近くまで行った。
「先輩が絶対動くな〜っていうので、柱に掴まってました!どうですか先輩〜!」
どうですか?(裏声)じゃねぇよ。
そう、俺が見たのは他でもない。
駅の改札前の柱に市川が抱きついている、というものだ。わけがわからないだろう。
コホン―
「まぁとりあえず電車乗るぞ。」
「はい!先輩!…あれっ?おっかしぃなぁ…」
ガサゴソ…と市川はカバンを漁る。
少しするとものすごーく申し訳無さそうに、
「あのぉ〜…一ノ瀬紬先輩。」
なんだよ…お前らしくねーな。なんかこえーよ…
「どした?」
「定期…家に忘れちゃったみたいで…」
ん?聞き間違いか?定期…忘れたとか聞こえたが。
「ほんっっっと不甲斐ないです!!!」
Oh my god
まじか。
全然聞き間違いじゃなかったな。健康診断でも引っかかってないから当たり前だよ。
「財布は?」
「一緒に…くっついてるやつで…」
とことんやってんなおい…
ほんとは今日限定のケーキ買う用のお金だったんだが、しゃーなし!
「俺がお金出してやるよ。」
「あ、あありがとうございますぅぅぅぅぅ!家にはぜひ貴方様の銅像を建てさせていただきますぅぅ!末の代まで語り継ぎますからぁぁぁ!」
銅像??え?いやいやいくらなんでも大げさすぎだろ…っておい土下座はやめろ周りからの冷たい視線が…!
「とりあえず電車乗るぞ!ほら切符買えよ!」
「は、はいぃぃ!」
俺は土下座で地面に突っ伏している市川の手を思いっきり引っ張って券売機へと駆けた。
この状態をわかりやすく美化するならばきっと
「ほら、急ぐぞ!」
とか言って主人公の手をイケメンが引いてくれる。
的な感じだろうか。
まぁどんなに通行人の目が悪かろうがそんなシチュエーションには見えないだろう。
なんとか切符を買って改札に入った。
階段を上がってホームへ上がる。
『ドアが閉まります―』
嘘だろっ!
「先輩!?これ乗らないと遅刻なんじゃ!」
「わーってるよ!」
制服を着た男女が全力で階段を駆け上がる。
これが俺の青春…か。
まぁ俺の青春がこんな風になったのも9割…いや9割9分9厘ぐらいはこの後輩のせいだな。
電車のドアが閉まる。
「っ…はぁ…はぁ…ッ」
「先輩…息切れすぎですよ…っと。」
発車の揺れで市川がふらつく。
「そもそもお前が定期忘れなかったらこんなことには…」
「あぁぁぁ!!すみませんすみませんほんっっとにすみません!!」
市川は声がだいぶでかい。
つまり何が言いたいかというとだな…
周りの人がみんな揃ってこっちを見られているということだ!!ツラすぎる!
なんっでこんな奴が俺の隣にいるんだよ!!
って…そういや俺がいいって言ったんだっけか?まいっか。
迷惑行為と言われても仕方ないほどにでかい声で謝られるので周りの目は市川への同情と許してやりなよ…的な感じで俺を見る乗客の2パターン化されているようで、とてつもなく気まずかった。
市川をなだめていると学校の最寄りについたようだった。
「ほら、降りるぞ〜」
市川の手を取る。
「ぐすんっ…うわぁ!ちょっ…先輩!?」
俺らは改札まで走った。
桜が咲いているにも関わらず外はムッとしていてクラクラするほどの暑さだった。
ガコンッ!
「ほら、俺の奢りな。」
「先輩!ありがとうございます〜!」
プシュッ!
「っぷはー!先輩に奢ってもらうものはなんでも格別ですよー!」
「俺のことただの財布とか思ってんじゃねーよな?」
「そんなことないですよ〜!だって先輩に切符買ってもらうと、普段の通学より何倍も楽しかったんですから!」
「でも今度からはちゃんと定期持ってこいよっ!」
ペチンッ!
「いだぁーい!!ちょっと先輩!なにするんですかー!」
「この前のお返しだ!ばーか!」
「ばっっ!女の子に向かって!先輩の世間知らず!ばかあほ間抜け!」
ちょっっっ…言葉のチョイスが結構心にグサッとくるな。
女子って1個言ったら10個ぐらい返ってくるんだな。なるほど…やっぱお前すげぇよ圭介。
ゴミ箱に缶を乱暴に投げ入れて席を立つ。
「ま、まぁ…そろそろ行くぞ。」
「は、はい!先輩!」
学校までの道のりもなんやかんやあったが…話すと長くなるので省くとしよう。
今まで市川の生態系を見てきた人ならわかると思うが、何も無いわけないだろ。全然大事件だったわ。
そうして俺ら2人は(ほぼ俺)まるで1山超えてきたような形相で校門をくぐったのであった。
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