第40話 旅立ちの日

 名ばかりとは言え、まさか魔王討伐のために旅立つことになろうとは思わなかった。


 よもやよもやである。


 それも攻めてきたべハンドルング帝国にである。


 まぁ俺が帝国に行きたいと言ったのだからしょうがない。


 戦後賠償の話も済んだみたいだし。


 早いよなぁ。


 まぁ実質的に王国の勝ちだから、基本的に王国の言い分を全部聞かされたんだと思う。


 昨日アナやソフィーから聞いた話では、大した賠償を求めなかったらしいが。


 遺族や騎士兵士への金銭はたんまり請求したらしいが、国家としての金銭請求はほぼ経費みたいな額らしい。

 しかもクバール帝はさっさと解放する予定らしい。時期は未定だが。


 きな臭過ぎる……。


 帝国での俺達の安全保障も完璧だと言われたが、ザクセン王の言う事なんて100%信じることは絶対しないからな。


「ではアナ……いや、アドルフィーナ・クレーブス。ハイルン工房臨時統轄長に任じる。俺が不在の間の全権を任せるが、帰った時にめちゃくちゃだったら承知しないからな? 他の者も仲良く互いを支え合うように!」


「大丈夫ですよ、ご主人様。臨時で雇い入れる場合はあるかもしれませんが、敵意ある者の判別・排除くらい訳ありません。ね、エマ」

「はい。ソージ・ダイジンとして、恙無く済ませておきましょう」


 掃除ってそういう意味じゃないからな?


「ベティ、ルーリー、フレデリカさ……フレデリカ。よくよく見張っといてくれよ? みんなで仲良くな!」

「あいよぉ」

「りょ」

「はーいー」


 ホントに大丈夫かな……。


「リコ先生とリーゼロッテも無理のない範囲で活動を。特にリーゼロッテは……大丈夫か? ホントに」


 そう言えばボコボコにされたアナが上司になるって結構ヤバめな職場か?


「案ずるな。我もリゼもやっていけるのである」

「そうです。むしろ色々できるようになってきてちょっと楽しくも……いえ、全然楽しくなんてありません! さっさと稼いで、さっさと出ていきます! 旅をしている間にいなくなっていなければ良いですね!」


「そっか。まぁ仕事に関しては色々頑張ってるのは聞いてるし、気の済むまで居てくれて良いからな。別に恩を着せるつもりもないから対価も求めない。そうなったらたまに顔出しに……いや、アメリアの料理を食べに来てくれ」


「……アメリアさんの……料理……」


 おっと、失言だった。


 アメリアの名を出した瞬間、居残り組全員が沈む。もちろんアナも例外ではない。

 ちゃんとその話も決着している。


「良い料理人いたら何人か雇って良いからな? アメリア以上は期待できなくても妥協できるところはあるだろ?」


 そうしてしばらく宥めた後、俺達は出発する。


 俺は前の幌馬車の中のフカフカクッションの上でゴロゴロするだけである。


 幌馬車2台、御者は側仕えのアメリアとミーナ。護衛にナディとクララ。そして文官というか王国の使者扱いのソフィーと俺。


「さぁて、どんな旅になることやら」


 大あくびして右腕を伸ばしていたら上から声が降ってきた。


「ソウヤ? 暢気なこと言ってる場合じゃないわよ? はい、お待ちかねの勉強よ! この旅の間にこれから行くべハンドルング帝国はもちろん、我が王国、法国、エルフ王国、エルフ帝国、暗黒大陸、大いなる空洞、氷麓国、湖龍国について、たっぷり学んでもらうわ」


 寝転がる俺の上から覗き込んでくる不気味笑顔のソフィーさん。


 ガタンと馬車が揺れ、体勢を崩したソフィーが俺に覆い被さるように倒れてくる。


「あらまぁソフィーさん大胆なことで」

「なっ! ちょっ! わざとじゃないって分かるでしょ! って逆でしょうがフツー!」

「残念、足や左腕が動かない俺は普通の事態にはならないのでした。でも早く退けた方が良くないか? ほれ」


 そう言ってソフィーの後ろを指差す。


 ソフィーがハッと振り向けば、そこには護衛のナディとクララが満面の笑みを浮かべてソフィーを見ており、後ろの馬車馬の御者をしているミーナもニコニコ笑顔でコッチを見ていた。


 そして……お分かりいただけるだろうか?


 ソフィーの肩をツンツンしてコッチを振り向かせる。

 視線を俺から上に向けると、大天使アメリア(?)の笑顔が幌の覗き窓から見えてしまった。


 みんな笑顔だが威圧感が半端ない。


 アレが俺に直接向けられたらと思うとゾッとする。


 ソフィーはしばらく幌馬車の中から外に向け無言で土下座していたのだった。


 俺に対する気遣いが少し不足していたことによる詫びなのだと思いたい。


 そんなこんなで旅は始まった。


 魔王討伐と言う名の俺自身を癒す旅の幕開けである。


 いっその事、身分を隠して動くか?


 完全に隠す訳じゃないが、隠せるところは隠していこう。


 癒しの勇者は癒せない。薬だけでは何ともならんことがあると、サージェリー王国は理解したはずだ。


 だからこそ、薬をもっとたくさん創り上げなければならない。

 周囲だけでなく、俺自身も治すんだ。


 いつになるかは分からないが、のんびりとな。


 さて、べハンドルング帝国がどんな国なのか、しっかり勉強するとしよう。



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第一章 完

第二章執筆中

仕事復帰が近いため遅くなるかも……。

できれば書き上げてアップして復帰したい!


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癒しの勇者は癒せない〜回復魔法とポーションが封印された異世界でゼロから薬を創り出せ〜 Norinα @NorinAlpha

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