第6話

「したいことリスト作ろうぜ」


「え、酒?酒かー。いや俺は全然いけるけど。余裕だし」


「なんだよ、最強の俺でも苦手なもんはあってだな」


「じゃあ今度は魔物がいない海行こうぜ。違う違う、やましい気持ちはない断じて絶対に」


「……」


「終わったら言うわ。どうせすぐ終わるし」


「考えとけよ、したいこと」



□□□□


「おはよう。寝坊助さん」


「……まずは落ち着いても?」


「もちろん。これ飲む?」


そういってアランが手渡したものは、数種類の草の葉が入ったハーブティーのようなものでした。もちろん都合よくハーブは生えてないので多くはそこらに生えてる木のものでいい香りはしましたが、少し青臭さも感じました。


意を決して飲んでみるとこれがなかなか悪くなく、何より温かいものを胃に流し込んだことで少し落ち着いて周りを見る余裕が生まれ、今いる場所が森に囲まれた川のほとりであり、その開けた場所から見える山のラインズノープと同様の廃墟から移動したのだと理解できました。

また体を見ると目立った傷はなかったためどうやら転移によってアランと半分こになることはなかったと呑気な気持ちになり、案外自分は図太いんだと自覚しました。


「ミスったよなぁ。グレーゾーンギリギリ攻めすぎた」


大きなため息をついてアランさんは肩を落としました。


「キョウさん怒ってましたね」


「怒ってたな」


「もっと強く反対しておけば良かったと思うくらい怒ってました」


「勢いで煽っちゃったよ」


「それは確実にいりませんでした」


「転移ぐらいであんな怒んなくてもなぁ。昔はもっと寛容さがあったんだけど、戦士長って立場で責任が出るとああなるのかな?」


「アランさんにはわからないですか……」


「そんな目で俺を見ないで」


私の嫌味に対して参ったねと人ごとのように笑い頭を掻いた後、しばしの沈黙が続きました。この男がこんなに静かなのも珍しいなと思っているとアランさんはこちらをじっと見つめ頭を下げました。


「怖い思いさせて悪かった。ごめん」


つぶやくように言いました。



「記憶が間違ってなければここはパネタだ、幸いなことに友好国だし姫ちゃんがシスティ姫と分かれば保護してくれる」


「……貴方はどうするんですか?追われる身ですよね」


「キョウぐらいしか俺は倒せないから誰も口出さないと思うし、もう少しダラダラするよ。転移が無事できたから入国手続きも必要なし、なんてな」


「随分勝手じゃないですか?」


「だから安心して城に帰、え?」


アランさんの中では私はもう帰るということになっていたらしく大いに驚いていました。

私はただでさえ苛立っていましたがなおのこと怒りが湧いてきました。


「私が怖がってたからはいさよならってじゃあ居酒屋の時に帰してくれればよかったじゃないですか?それにあなたはただでこのパネタが保護してくれると?」


「え、え?」


相手は慌てふためいていたのでここぞとばかりに私はわざと大きなため息を出して答えました。


「甘すぎます。いいですか、他国に貸しを作ることは、あなたが思うよりもリスクなんです。友好国であっても。私は姫である以上、自国の不利になることは出来ません」


自分でもこれが本当に正しいのか道理なんて考えずに私なりの外交論を展開しました。


「ここまで来てしまった私にも責任は十分あります。いいですか付き合ってもらいます!勇者アラン!私、システィ・ワルグナットが満足するまで尽くしなさい!」


はっきり言います。私はアランさんとの旅は楽しいです。だから自分の中で考えられる最大限の言い訳をぶつけました。反論なんて出させないように。


数日前まで旅を辞めるとか気のいいやつだと思われるでしょう。ええそうです私も大概勝手です。

ですが、今までは私は城の中で言われた通りのことをやればいいお人形さんでした。あぁ私はこのままこうやって死んでいくんだと漠然と思っていました。でももうどうでもいいんです。

転移も経験して、もうこわいものはありません。ここを乗り切れば理由なんて後付けでいい、そう思うと言葉があふれ出ていたのでした。


言い終わると興奮で息が上がっており、それを抑えようとして鼻息が荒くなり随分と不格好な姿になっていました。そんな姿を見てしばらくぽかんとしていたアランさんはタハハと笑って言いました。


「姫ちゃんってさ、思ってたより楽観的だしめんどくさいしわがままだよね」


「それはお互いさまでは?」


「はは、違いない」


「とにかくこの話はおしまいです。次そのことを言い出したら怒りますからね」


「はいはい」


「本当にわかってますか?」


「わかりましたよお姫様」


アランさんは少し考えたような素振りをみせたと思うと森の中に入って行き腕ぐらいの長さの木の枝を持ってきて川を指差しました。


「じゃあさ今日の飯、多く釣れたほうが相手の言うことを聞くってのはどう?」


彼からの挑戦状があまりにも簡単だったので私

は驚きました。しかしニヤッと笑ったその表情は私にある闘争心をかりたてられると同時に旅について行っていいとほっと安堵させたのです。


「かねてから釣りをやってみたいと思ってました。初心者に負けないでくださいね」



□□□□


朝日がのぼりました。

二人とも一匹も釣れない大惨事です。

徹夜してしまいました。


「今なら降参を受け付けるけど」


「まだ待ちましょう。慌てず慌てずアワアワアワ……」


「眠いんじゃないの寝たら?大丈夫見とくから」


「なんか言ってますけどもう私に釣られたくてたまらないってお魚達が集まってきてます。もうクリスさん、割り込みはだめですよ。ご飯はいっぱいありますからね〜」


「怖いよ」


その瞬間、手にビクンと反応し竿は大きくしなりました。欲が出ないように自分を魚だと自己暗示してるのが功を奏したようです。


「来ました来ました来ました!!オホホホ友情ごっこは楽しかったですよ!!」


「情緒」


「釣れました!!どうですかこんなにおっきいですよ!!クリスさん!!」


「小さいけどー。俺が譲ってあげたんですよ、いやー接待は疲れたなー」


「負けは負けですー!!。私は何もしません早くご飯作ってくださいー!!」


そう言って私は寝そべりました。どんな無茶ぶりを言ってやろうか、心地よい眠気のなかそう思いました。
























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王女の私がダメ男の勇者に連れられて自堕落旅始めました! 牛蒡飴 @GobouAme

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